ティオルの異名

 便箋に書かれている文章を読み終えると、真剣な顔でハルリアをみた。


「……なるほど、ティオルの姿がみえないと思ったら隠密に動いてたのか。それで、よく隊長だと分かりましたね」

「ああ、最初はオレだと気づかなかったが事情を話しているうちに……ヤット分かってくれた」

「そうですか。ですが、よくティオルに正体を明かせましたね」


 そう言われハルリアは苦笑する。


「口が堅くて、このことを任せられるヤツはティオルしかいないと思ってな」

「確かにティオルなら、地理にも詳しいし腕が立つので……任せられますね。それに、これを見る限り……流石としか言えません」

「ああ、これを読んで驚いた。だが、ティオルだからできたんだろうな」


 それを聞きカールディグスは頷いた。


「そうですね。調べさせてたのが、パルキアだけだと思ってただけに驚きましたよ。でも、それは正解だった……相変わらずティオルは凄い」


 そう言いカールディグスは悔しいと思い俯いている。


「なんで僕が副隊長なんですか? どうみても実績や年齢をみたってティオルが適任なはず」

「なるほど……まぁそうだろうな。だが、ティオルは表に出るようなヤツじゃない」

「どういう事ですか?」


 カールディグスは不思議に思いそう問いかけた。


「アイツの異名を知っているか?」

「いいえ、聞いたことがありません」

「そうか……そうだな。仕方ないか……ティオルが表に出なくなったのも、この異名のせいだからな」


 それを聞きカールディグスは首を傾げる。


「その異名って、なんですか?」

「アイツの異名は【鬼蛇】だ」

「……鬼蛇。どうみても、そうはみえませんが……どうしてそんな異名を?」


 そうカールディグスに問われハルリアは思い返した。


「以前……隣国との戦が起こったことがある。それは、マールエメスと違う国だがな。その時ティオルは、自分流の戦略で敵軍を倒していった」

「全軍ですか?」

「いや、自分に向かって来た者だけだがな。だが殺したのは、ホンの一部だ。殆どの敵兵は生気が失っていたらしい」


 それを聞きカールディグスの顔は青ざめる。


「殺さずに……殆ど捕虜って普通じゃない」

「そうだな。それにアイツは、どんな時でも顔色一つ変えない……だから何を考えてるか分からん」

「確かに普段からそうですね。それに怒っている所をみたことがない」


 そうカールディグスが言うとハルリアは頷いた。


「確かにな。アイツの怒った所を数回みてるが……それも殆どは、オレ絡みだ」

「……なんとなく想像がつきます。まあ、そのことは置いといて。それで、このティオルから来た手紙をなんで僕にみせたんですか?」


 そう聞かれハルリアは説明する。


「……そうですね。確かに、その話を聞く限りティオル一人では無理かもしれない。それに指示をだすにしても便箋に書いて送っただけでは伝わらないこともある」

「そういう事だ。それにカンロギの町まで、かなり距離がある」

「ええ、ですが僕は学園の仕事を……隊長は学業がある」


 そう言いカールディグスは、ハルリアを見据えた。


「ああ……だから悩んだ。それで、お前ならどうするかと思ってな」

「そうですね。ティオルの所に行くのは隊長がいいでしょう。ですが、それをするにも学園長の許可を得ませんと」

「そうなるな。だがそうなると、すぐにでも向かわなきゃまずいだろ」


 それを聞きカールディグスは思考を巡らせる。


「そうなると……ここに学園長を呼ぶか。学園長の屋敷に行って許可をもらうしかないでしょうね」

「やっぱり、そうなるか。それじゃあ、呼ぶしかないな」

「……隊長、動きたくないみたいですね」


 そう言いカールディグスは、ジト目でハルリアをみた。

 ハルリアはそう言われ苦笑している。

 そうこう話しをしたあと二人は手紙を書いた。それを学園長宛てに魔法で送る。

 そしてその後、ハルリアとカールディグスは学園長がくるのを待ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る