クマたちのクリスマス

クマイ一郎

第1話 今日はクリスマス・イブ

 今日はクリスマス・イブだ。ボクことクマイル・クマイコフ、通称クマイの生まれ故郷のロシアでは、ロシア正教のクリスマスなのでユリウス暦の12月25日、すなわちグレゴリウス暦の1月7日に祝うのだが、日本に来てからはみんなに合わせてグレゴリウス歴の12月25日…… というよりも、日本人はイブにお祝いをするから、24日にお祝いをしている。


 今日は朝からボクとクロイさんが丹沢に行き、クロイさんのお父さんの私有地からもみの木を切って軽トラで運んできた。


 「お~い、ツリーをってきたぞ~」


 クロイさんは鎌倉の「トラットリア・クロジ」に到着すると、大きな声でそう叫んだ。今日はレストランの営業を20時で切り上げて、そのあとボクたちで内輪のクリスマスパーティをするのだ。


 クロイさんの声で、クロジさん、ボクの妻のクマスタシア、姉のマーチャ、熊子ゆうこちゃんが集まってくる。妻のクマスタシアや姉のマーチャは、ボクの事をロシアでの愛称、「ミーシャ」と呼んでいる。


 あの「どうぶつクエスト」の冒険の物語から数年後、ボクたちはみな結婚して所帯を持っている。クロイさんは、なんとボクの姉のマーチャと、ボクはロシアから留学してきたクマスタシアと、クロジさんは熊子ゆうこちゃんとそれぞれ結婚した。それぞれみんな子供もできて、クロイさんの子は熊一郎ゆういちろうくん、ボクの子はクマジミール、通称クマジという。そして、クロジさんの子供は熊加ゆうかちゃんというのだ。


 みんなまだ小さいから目が離せない。ちょこまかと動き回っていろいろなものに好奇心を向けて走っていくので、なかなか神経が疲れる。クロジさんは早朝からレストラン営業の仕込みに大忙しで、クロイさんと女性陣がクリスマスツリーの飾りつけをしている。その間、ボク一人で子供3人の面倒を見るのだが、これがなかなか大変だ。


 熊一郎ゆういちろうくんはクロイさんに似て活発でどこでも、どこまでも走り回りたがる。クマジはボクが自作したクリスマスツリーの回転装置に興味津々で、ボクが油を指したり試運転するのを興味深そうにじーっと見つめている。熊加ゆうかちゃんはなかなかお転婆で、熊一郎ゆういちろうくんと一緒になって走り回っている。


 クリスマスツリーの回転台の調整もしなければならないが、子供たちが山の方に入って行ってしまったりしないように気を遣わなければならないので、なかなか大変だった。


 一計を案じたボクは、人形遊びをすることにした。ボクは子供たちのために、薬局で買い物をした時に貰えるカエルのゴム人形を密かに集めておいていた。今日はそれぞれのカエルに役を割り振って、ロールプレイングをするのだ。


 「こんにちは、ボクは蛙太郎けいたろうです!」

 「ボクは蛙二郎けいじろうです!」

 「私は蛙子けいこです!」


 「蛙」の音読みは正しくは「ア」だが、それだと名前にならないので漢字の造りから「ケイ」の音を取って命名している。ボクの一人三役の人形芝居に、3人があつまってきた。その時、その時でボクが思いついたお芝居をする。


 蛙太郎けいたろう蛙二郎けいじろうが喧嘩をして仲直りする話や、蛙子けいこちゃんが水たまりに落ちてしまったのを二人が助ける話、ボクの思いつくままに色々なストーリーのお芝居を作っていく。


 そんな中で、ボクは喧嘩をしても必ず仲直りする話にしたり、ちゃんと最後にお互いに謝るセリフを入れたり、なにかあったら細かい事でもお互いに「ありがとう」と言ったりするように気を付けていた。やっぱり、子供たちにはちゃんと感謝をつたえたり、悪いときは謝ったり、そういった事をキチンと出来るようになってほしいと思うからだ。


 そうしてひとしきりお芝居をしたあとで3人にカエルを渡すと、みんなそれを動かしてカタコトながらも人形同士でコミュニケーションをとる遊びを始めた。カエル同士でみんなで一緒に何かをしたり、ボールを転がし合ったりしている。


 この隙にボクはツリーの回転台の運転調整と整備を終わらせ、「トラットリア・クロジ」のホールに据え付けることができた。


 飾り付けが終わったツリーを回転台の上にのせ、倒れないように細いワイヤーで四隅をステイすると、次は照明の取り付けにかかった。照明はツリーを6方向から照らし、適宜色が変わるように調整されている。こちらも回転台と同期して動作することを確認し、電気配線を誰かがひっかけないように養生しておいた。


 ツリーの仕事が終わった女性陣は厨房に行ってクロジさんを手伝っている。今日は夕方からお客さんの予約も満席になっているので、クロジさんは大忙しなのだ。ボクとクロイさんもテーブルを拭いてクリスマス用のクロスをひくなど様々に働いた。


 そうこうするうちに、時間は15時をまわり、ボクたちはクロジさんの作っておいてくれたサンドウィッチで遅い昼食を軽めにとった。夜には御馳走が出るのだから、昼にたくさん食べない方がいい、という算段だった。


 ひとしきり食べると、ボクたちは朝からもみの木をりにいった疲れもあって、それぞれの部屋に戻って昼寝をすることにした。

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