epilogue①




 一連の事件に幕が下り、なんとか家に帰った翌日、早速エリは大勢の人間から説教を受けることになった。

 まぁ、当然と言えば当然である。

 彼女が逃げ出さなければ、ここまで騒ぎが大きくなることもなかったからだ。


 しかし、エリにもちゃんとした言い分はあった。

 好きでこんな身体になったわけではないのだ。

 もっと自分のことを理解し、大切にしてくれていれば、耐えきれなくなって脱走することもなかったのだと。


 けれど、そんな思いもテレビの事件報道を見て、すべて消え去ってしまった。


 家に戻ってきたばかりの頃は、あまり実感がわかなかったのだが、テレビの映像とラファエラたちから聞かされた事件の全貌が重なり合って、事の重大さを初めて思い知らされたのである。


 事件映像の中には痛ましい姿となった大勢の犠牲者たちが映し出されていた。

 それを見て、胃がキリキリしてくる。

 周りの大人たちが言う通り、自分が逃げ出していなかったらあの人たちが傷つくことはなかったのだろうか。

 それとも、問答無用で殺戮計画は実行に移されたのだろうか。


 しかし、いくら考えたって答えなんて出てくるはずがない。それを知っているのはタミエルだけなのだから。


 客間の絨毯じゅうたんの上に正座させられていたエリは、ただただ、悔しさと申し訳なさに、顔をくしゃくしゃにするだけだった。




◇◆◇




 それから、今回の事件についてだが、なぜか公式発表では、『駅前のロータリーでテロリストたちが無差別殺傷事件を引き起こし、数百人の死傷者が出た』と報道されているだけだった。


 あれだけ大規模な事件に発展し、被害者の数も数十万人に上るのではないかと思われたのに、だ。

 しかし、これには当然、裏がある。


 邪霊じゃれい絡みの犯罪がストレートに公式発表されることなど、あり得ないからだ。

 もしもバカ正直に公表すれば、世間は大混乱に陥るだろう。

 それゆえに、怪班かいはんを統括する警視庁幹部によって情報操作され、闇に葬られることとなったのだ。


 しかし、今回のようにこれほど大規模な事件ともなると、さすがにすべての情報を隠蔽いんぺいすることは不可能である。

 にもかかわらず、情報統制できたのは偏に、ガブリエラの力のなせる技だった。


 あの戦いの折り、エリが顕現けんげんさせた破壊コードと一緒にガブリエラの絶対支配の十六夜いざよいまでもが引き出され、その力の宿った霊力弾が神雷じんらいを破壊した瞬間、世の理の一部が書き換えられたのだ。


 即ち、飛び散った霊力が時間を巻き戻すかのような形で元の所有者へと還っていったのである。


 その結果、怪我を負って魂の抜け殻となっていた者たちが元の健康体へと戻され、更に膨大な神気と邪気が周辺一帯で暴れていた魔獣や邪霊すべてを討ち滅ぼしたのだった。


 その上で、情報統制が敷かれ、ただのテロ事件扱いとなったのである。



「末恐ろしきはガブリエラの力、といったところかしら」



 あきれる梓乃しのに、ラファエラは肩をすくめただけだった。



「まぁ、それはいいとして。早速、お説教タイムといきたいところなのだけれど?」



 あの事件でエリはガブリエラの力を受け、神霊憑きのような状態となってしまった。しかも、朱里に至っては――


 彼女たちはもう、元の人間には戻れない。

 それを思うと、梓乃はやるせない気分となる。

 普通に青春を謳歌おうかできたはずなのに、彼女たちに待っているのはおそらく、闇だろう。


 凍てついた瞳を向けられるラファエラだが、「さて、なんのことかな?」と、逃げるように廊下を歩き去っていく。


 梓乃は静かに激怒し、霊力波をぶつけようと動くも、周囲の研究員に止められ未遂に終わった。



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