上宮寺の巫女鬼伝 ~世界一の超絶美少女と守護メイド~ 『①ガブリエラの欠片』
坂咲式音
― 序 ―
けたたましいサイレンの音が、どこか遠くの空から聞こえてきている。
暗黒の夜空を彩る赤や黄色や青といった、妙にケバケバしいネオンの光が街路を照らしている。
空を見上げれば、あまり美しいとは言えない星の光が、下界を照らしていた。
時刻は午後十一時を回った頃だろうか。
そびえ立つ摩天楼の最上階――ヘリポートとして使用されている場所に、一人の男が佇んでいた。
男は無表情のまま、遙か下方の地上世界を眺めていた。
そこには、こんな時間にもかかわらず、多くの車がヘッドライトの光を左右へと走らせていた。
いつもの光景。
東京の歓楽街では珍しくもなく、むしろ、これから更に賑わいを見せることだろう。
男がいる場所は、まさしくそういった類いの街区だった。
男は眼下の光景を見飽きたのか、やおら振り返る。
そこには、真っ暗闇の中、一人の女が惚けた表情で地べたに転がっていた。
微動だにしない。
瞬きすらしない。
だけれど、時折、胸が上下するところを見ると、生きてはいるようだ。
男は女に近寄ると、まるでゴミでも持ち上げるかのように、左手でブラウスの襟元を掴んで起き上がらせた。
そして、そのまま自身の目線と女の目線が合うよう、宙づりにする。
男の瞳が虚ろな女の瞳をじっと見つめ、その後、首筋――頸動脈辺りまで視線が移動したところで、初めてニヤッと笑った。
酷く残虐で愉悦に歪んだ笑い方だった。
「本当に人間とは愚かな生き物です。少し甘い表情を見せただけで、簡単に捕獲できる。つくづく素晴らしい種族です」
言うが早いか、男は右手を手刀の形に変え、左から右へと一閃した。
瞬間的に、女の細く色白な首から多量の鮮血が
飛び散る血しぶきを全身に浴びながら、男は狂ったように笑い出した。
「素晴らしい! なんと甘美な霊力か。殺さず? 魂を喰らわない? 実に馬鹿馬鹿しい考え方です。何故これほどまでに容易に捕らえられる旨い食料を放棄しなければならないのですか」
男は首筋に喰らいつき、そこから溢れる血潮をひとしきり飲み干すと、興奮しきった表情で力一杯、胴と頭を別々の方向へと引っぱった。
そして、そのまま宙へと放り投げる。
空中高く舞い踊る哀れな女の遺骸は、そのまま遙か彼方の地上へと落下していった。
男は吠えるように天に向かって
男の視線が北西の方角へと向けられ、最大級の悦に入った表情となった。
「そうか、そこか。そこにいたのですか、あなたは。くく、待っていてください。今、行きますよ。そして、この私が、あなたのすべてをすすり尽くしてさしあげましょう、ガブリエラ様」
そう呟いて、男は闇の中へと姿を消した。
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