第2話 なんでそこで諦めるんですか

「起きなさい。私のかわいい、もうダメだよ」


 母親の声を聞き、勇者もうダメだは目を覚ました。


 寝ぼけ眼の息子に、母親は微笑みかける。


「しっかりしなさい。あなたは今日から魔王を倒しに旅に出るんでしょう? もうダメだよ」


 勇者もうダメだは自分の目的を思い出し、出立のあいさつをしに王宮に向かった。


 王宮では王様が勇者の旅立ちを祝福するため、玉座に座って待っていた。


 王様は勇者の姿を確認し、希望に目を輝かせた。


「もうダメだ……おお、こんなにも大きく立派に成長したのか。もうダメだ」王様は勇者の肩を掴み、「お前はこの国最後の希望だ、もうダメだ。お前の存在を魔王から隠し続け、成長を見守っていたよ。もうダメだ……」


 勇者は王様の思いを受け、必ず魔王を打ち倒すと力強く宣言した。


 王様はその言葉に感銘を受け、


「もうダメだ。すまない……まだお前を子供扱いしてしまっていたな。お前はもう立派な勇者。私が案ずることなど何もない……魔王を倒した勇者の凱旋を心待ちにするばかりだ」


 王様は目尻に溢れた涙を拭き、力強く言い切った。


「心配などしておらん。必ずや魔王を倒し、世界に平和をもたらしてくれ」


 勇者が力強くうなずき、王様は別れの言葉を投げかけた。


「ではゆけ! もうダメだよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る