第4話 聖女達の過去と現在
学院一の天才などという評価を受けた理由は、単純に私が前世で最高の教育を受けてきたからである。入学時は成績が教科ごとで凸凹になっていたが、少しずつ歴史や異なる国の作法など苦手だった教科の成績が良くなり、八歳からずっと学年一位をキープしてきた。
苦手な教科に集中すれば良いのだから他の生徒達より簡単だったというだけだ。しかし、私の成績に興味を持った学院長がふらりと現れて、皆が見ている前で数学や魔術について幾つか質問をした。それに何となく答えてしまったのが運の尽きである。
「むむむ……素晴らしいぞい。シンクレア伯爵家か。勿体ないのう。いや、伯爵家であろうとも、望めば我が学院を継ぐことも出来るんじゃろうか。ちょっと陛下に聞いてみようかのう」
と、ものすごい独り言を呟きながら学院長であるレガリオは教室を出て行ったのだ。
レガリオは天才肌の学者であり、王国が誇る数学者であると同時に魔術研究者でもある。過去の実績により王立貴族学院の学院長に大抜擢されたが、レガリオが行う授業は殆どの者が理解できないと言われている。それだけ複雑で難易度の高い授業を行うレガリオが認めたということは、王国にとっても大きな事件となった。
もちろん、教室にいた教師や生徒達から学院や各貴族達に噂が広まってしまった。入学時は一番だったエランジェの耳にも噂は届き、それからは好敵手として扱われている。
例の女子生徒達やベルティラの活躍により、中等部の間は何度かエランジェと会話する機会を作ってもらえた。
「お茶会なんて久しぶり。ねぇ、エランジェさん?」
「……なんでソフィアーナさんがここに? 聞いておりませんでしたが」
「急遽参加させてもらったの。エランジェさんが来るって聞いて、王都で有名なお菓子店で焼き菓子を色々買ってきたからね」
「…………ちょ、ちょっとだけ参加しますわ。ちょっとだけですけどね」
そんなノリで三年間を過ごしていたが、高等部に上がるころにはそれなりに話すことが出来るようになっていた。偶然会っても雑談することが出来るくらいには仲良くなれたと思う。
「ちょっと、ソフィ! なんで今回の魔術で満点なんて取れるのですわ!? なんかズルしたんじゃありませんの!?」
「ズルなんてしてない。ただ、たまたま得意な魔術知識に関することだっただけだよ」
「なんで聖女の癒しの魔術とかに詳しいのですわ!? 普通、自分たちが使う火とか水の魔術とかではありませんの!?」
「聖女の話が好きだから、いろんな聖女の物語を読んでるのよ」
「そ、そんな下手な言い訳!?」
「今からでも遅くないから、エラも調べてみたら?」
「む、ムキーッ!!」
と、誰が見ても仲の良いやり取りが出来るまでになっていた。まぁ、お互い十三歳にもなると少しは大人になるというものだ。
いや、平和な国の学生だからか、前世の頃よりも遥かに皆子供っぽい気はするが、それでも少しずつ精神年齢は上がってくる。
授業も少し高度なものになってきたし、多少は学ぶ楽しみもある。
だが、気になることが一つだけあった。
「おぉ! ソフィアーナ君! ちょっと質問なのじゃが、聖女の魔力特性で理解出来ない部分があるんじゃよ。雨の国の聖女が最も得意とした魔獣を寄せ付けない聖域は、何故他の聖女よりも強いんじゃ?」
「過去の文献や伝承で調べる限り、聖女の魔力は水との親和性が高いように思います。雨の国は周囲に川や湖が多く、聖域の効果も強くなっています。その代わりに、範囲は極めて限定的で、他の国で生まれた聖女よりも狭い範囲に強い力を発揮していたのではないでしょうか」
「むお!? 確かに……! 雨の国の聖女の代では近隣の国では以前と変わらずに魔獣による被害があったようじゃのう! む? では、砂漠の国で聖女が生まれたら……ちょ、ちょっと文献を調べて来るぞい!」
高等部に入ると、レガリオは食堂での食事中や放課後などに出没するようになり、こういった質問を多くするようになった。
その度に、前世の頃より聖女に関する魔術の知識や歴史が曖昧になっている気がしたのだ。
いや、重要な部分だけが欠け落ちているといった方が正しいのかもしれない。時間とともに失われてしまったのか。それとも、各国が自国の優位性を保つ為に秘匿したのか。
理由は分からないが、聖女に関する研究があまり進んでいないのは間違いなさそうだ。その為、知識欲の強いレガリオから魔術に関して質問が相次いだ。
やがて、学院一の天才から王国一の天才という噂にランクアップしてしまうのだが、仕方がないことだろう。
良い評価を受けることで得られるメリットの方が魅力的であった為、敢えて自重することもしなかった。
むしろ、歴史については過去を知っている分興味深く、誰よりも勉強したことだろう。
その中で、それぞれの聖女の歴史を辿ることが出来た。いや、各国の歴史を知れば必然と聖女が関係したと言うべきかもしれない。
中でも、悲恋の聖女と呼ばれる聖女が最も有名かもしれない。
なんと、それが前世の私のことだったのだ。
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