東方幻文禄
シャム
第1話
「お前は呪術師の才能がある。俺の宝物をやる。これが読めるようになったら俺を探しにこい。」
そんな事を言って父はボロボロの本を置いて家を飛び出し、死の間際にある母にすら会いに来なかった。
俺は母親が死んでから父の置いていった本を解読することにした。その本は「グリモアール」と呼ばれる呪いの本であり、おそらく呪術の基礎や呪力の使い方が綴ってあるのだと「思う」
俺は約1年、様々な文献を漁りグリモアールに書いてある言語を探し出したが、読めたのはたったの1ページであった。それでも、父を探し出す手がかりであり、ろくでもない父を超える力を手に入れるため 俺は今日も村の図書館から「ラテン語」「イングランド語」「東洋語」なんかの本を借り、帰路についた所だった。
ドルドルドルドルドルドルドルドルッ。
そんな音を立てて家に訪ね人がやってきた。
「少年、君があのろくでなしの息子だな?」
背丈が180はありそうな長身で眼帯の女が、老人のように真っ白な髪をなびかせて、家のドアを無理やりブチ開けてそう言った。
「あんたは誰だよ...」
「私はネル。呪術師であり霊媒師であり祈祷師であり、陰陽師でもある名のない無知無能の旅人の1人だよ。」
「君のお父さんの腐れ縁であり弟子でも師匠でもあるかな。」
「さぞかし心配だったんだろうねぇ。私に書簡まで届けさせて君に呪術の基礎を教えてやれって...。」
「はっきり言って、君に呪術の才能はないと思うんだけどねぇ...。」
「とりあえず明日から寝る以外は修行だよ。強くなりたいんだろう? 父親に一発殴ってやりたいだろう?」
「あ、あぁ...。」
「私もさ!こんなはるばるやってきて、こんな才能のないやつに教えるなんて私の無駄使いすぎるよ!」
彼女は笑いながらも、常に俺の目を見ている。
「私は人と話すのが大嫌いでね。だけど才能もなくて力もない君を好きになろうとすると性格を好きにならなきゃいけないと思うんだ。」
「だから、君のことを好きになれるように強くなってくれよ?」
そこから地獄の修行が始まった。寝ている4時間以外は常に術式を構成する空気中の「マナ」をひたすら観察し、構築する。それを永遠に繰り返す。才能がない俺は限りある呪力が切れ、気絶すると彼女は回復術式で無理やり俺の身体中の細胞を活性化させ、無理やり脳みそに血液を送る。
座学が一段落した所で、陰陽道、錬金術、呪術、など様々な魔法や術式の基礎を「体」で叩き込まれた。
彼女が言うに、これが一番早いらしい。俺は身体中のなけなしの呪力を集める事が苦手で、骨折を繰り返していた。
そんな生活が1月をすぎた時、彼女は自分の事を語った。
「私は旅人であって吟遊詩人であって世界最強の陰陽師の一人なのだけど。」
「君のお父さんが3年前、法王庁から盗み出した宝具だったり呪具を色んな地方にバラまいちゃって、それを探し出してぶっ壊してるんだよね。」
「明日ここを出る。東の村に首無し剣士、落ち武者、そんな噂がある。おそらく呪具の影響だ。被害が出ないうちに破壊しに行く。」
「ついてくる?」
俺は即答出来ずにいた。基礎といっても、俺がもし戦闘になれば
間違いなく足でまとい、確実に死ぬ自覚があったからだ。しかし、一息置いて言った。
「行かせてくれ。俺は父親をぶん殴らなきゃ気が済まない。」
「俺には術師の才能がからっきしかもしれないけど、
そんな俺にでもやらなきゃいけねぇことは分かる。」
「足を引っ張るの上等だ。絶対死なねぇから俺は!」
まるで自分を鼓舞するように空元気でそう叫んだ。
「本当に面白いよ。来てよかった。」
ネルは笑いながらそう言った。
次の日、古代遺跡アーティファクトである自動運転
バイクに乗り込み、東の村の祠へ向かった。
そこには石碑と、突き刺さった刀があり石に染み込んでいる血は何百年たっても乾いてないように思える。
「なんか呪物って感じしねぇな?」
「ふーん...?普通もっと呪力が染み込んでるもんなんだけどなぁ?」
「まあいいか、少年。爆破させるから離れてて」
彼女は呪符を腰から取り出し、詠唱を始めた。
数秒後、祠が大きく弾け飛んだ。
正確には、爆散に見える。
「俺に撃った呪符の何倍の威力だよ!?」
「これでも抑えてる方だよ〜村にまで被害出ちゃうからね」
「よーし、これで終わ...」
目の前には、巨大な「鬼」が現れた。その鬼は4メートルを越え、手には人を殺めるためだけに作られたような金棒を持っている。
僕たちは大きな勘違いをしていた。その「刀」は呪具ではなく、正確には「童子切安綱」つまり「酒呑童子」を封印していたのであった。破壊してしまった今、最強の鬼が顕現してしまった。
「何億年ぶりの地上だああああああああッッッッッ!」
鼓膜が破けそうな咆哮を放つと、金棒を振りかぶった。
それを彼女は華麗に避け
身体中に仕込んでいる呪符に呪力を込め撃ち込む。
「ドドドドォォドドォッォン」
数十枚の呪符全てに最大の呪力を込め放つそれは、酒呑童子
の右腕を奪った。
しかしその瞬間ニュルニュルと再生し、ニヤリと笑みを浮かべる
「弱くなったなぁ人間ッッッ!こんなものかァァァッッ!?」
童子は再生した右腕を自らちぎり、それを超高速で投げつけた。
それはネルにとって予想外だった。巨大な肉の塊を、呪力でガードしたとて防げない攻撃。彼女は血を吐き出し、狩衣を赤く染めた。
そして童子は追撃を怠らない。見せた隙は逃さない。
ネルの左脇腹を金棒で叩きつけた。
ネルは身体中に呪符を巻き付け回復しているが、常に血を吐き続けている。
「おい 少年...!」
「お前は呪術師の才能はからっきしだけど...」
「もしかしたら「死霊術師」の才能はあるかもなぁ...!?」
「お前の持っていたあの悪魔の書....」
「あれは正確には「悪魔を呼び出す書」...」
「お前の魂を悪魔と契約すりゃ、死霊術師にでもなれるかもな」
「最強の私でも、流石に厳しいかもしれねぇ...」
「あとは、任せた...。」
そう言うと彼女はグリモアールを俺に投げつけた。
そうだ。グリモアールが一般の呪術師に使えないわけだ。
グリモアールは「弱者のための書」
才能も、呪力も、魔力もない奴だからこそ使えるんだ。
俺は修行で身についた「呪力を1ヶ所に集める能力」で、グリモアールの表紙に撃ち込んだ。文字通り一滴も呪力が残っていない。
そうするとなぜか、グリモアールの文章が読めるようになっていた。
「俺は悪魔と契約でもなんでもする!全部ぶち壊してやる!」
彼女はその瞬間、安心したように息絶えた。次の瞬間、
その体を童子はミンチにして貪った。
「女の体はうめぇえええなぁあァァァァァァァァ!?」
ネルの体はもはや原型がない。
大量の血を、余さず飲み干している。
「ぁあ?何見てんだ雑魚がァァァァ??」
童子は俺の事をまるで認識していない。
脅威だと数ミリも思っていないだろう。
だが、それでいい。十分だよ。
「呪力がなくて!才能がなくて!けど!自分の魂悪魔に捧げる
勇気だけはあってよかったよ!」
グリモアールが突然輝き出した。そして、白紙のページに1つだけ呪文が映し出された。
それは禁忌の術。使用者を縛り付け、地獄へ引きずり込む術。
「ネクロマンス!ネル!」
そう言い放つと、地面に大きな影が出来た。その影から、
「生えてきた」のは、先程死んだネルであった。
「地獄からやってきたよ...。」
「ラウンド2の始まりだよ!」
蘇生術はその人物の「最高期」を甦らせる。彼女にとってそれは、アカデミー(魔術学校)時代であった。
眼帯の代わりに、その右目には青い目が埋め込まれていた。
「固まれクソ鬼!」
メデューサの石を埋め込まれたその目を見た酒呑童子は一瞬、
1秒にも満たない時間だったが動きが固まり、その瞬間を見逃さなかった。
「1回死んでみて分かったよ。私に足りなかったのは呪符の数に頼ってばかりだった事。」
「本当の呪符の使い方は、身体中の呪力を呪符に全部つぎ込んで放つ、最強の一撃だったんだ。」
彼女は血塗れになった呪符に、もう一度呪力を込めた。
「今度は負けないよ。これが私の「全部」」
たった1箇所、童子の心臓を向けたその一撃は、童子の後ろにあった山すら消し飛ばした。
「ァ、ァァァァッ」
「アアアアアアァァァァァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ」
心臓を貫かれた鬼は、爆発四散して飛び散った。
「さて、元の姿に戻せるようになるまで君はあと何年かかるかな?」
「なるはやで頑張ります...。」
これは、俺が最強の死霊術師になる物語だ。
東方幻文禄 シャム @kurogi_sougo
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