世界の始め方はどうすればいいの?

キクジロー

前半 戦士を目指す農家

第1話 落ちこぼれ

 ――――今日も眠いな。


「ふぅ、今日はとりあえずこのくらいかな」


 俺はアラン・ディーリー。この貧しい村の戦士だ。――――といっても今は戦士とはかけ離れた職業、農業に勤しんでいる。この村は貧しいが無駄に敷地が広くて、人口もまあまあいる。正直村というより、そこらへんの城下町のようだ。なので戦士である俺ですら農業などの食料関係の仕事をしている。


「さぁ。今日はもう帰ろうか」


 カゴを背負い、その中にいっぱいのナスやキュウリ、キャベツなんかを詰める。だがこの程度じゃこの村の総人口の一パーセントにも満たない。

 ――――もっと農業頑張らないとな。



 そうやって俺は夕日を背にいつもの道をたどり、すれ違う子供やおじいちゃんやおばあちゃんに軽く挨拶をする。――――あぁ、この状況だけ見ればこの村は平和なんだけどなあ。


「俺はこのまま一生農家なのかなぁ――――」


 俺だって本当は一人前の戦士として戦いたい。だが、俺は戦士達の中でも落第生で、魔法もろくに使えないし、剣術も上手くない。なんなら今すれ違った子供にもまけるかもしれない。


「俺、もう十六歳なんだよなぁ」


 十六歳。本当なら今頃戦場で勇ましく戦っているはずなのに。俺の同僚の中にはもう既に一級戦士になっているらしい。

 この村ではという中央国家に反乱する馬鹿な組織が管轄している所だ。その組織は百人近くの人間で構成されており、その中で上から団長、副団長、団長補佐、副団長補佐、幹部、幹部補佐、一級兵、調査班、二級兵、三級兵、見習い、そして俺のような雑用という組織図になっている。俺の同僚は大体一級兵か下でも二級兵だ。………情けねぇ。

 ――――でもまぁ、戦場に出ないから、死なないだけマシかな。

 実は俺は一人前の戦士になりたいという思いと同時に、死にたくないという臆病な一面もある。これのせいで俺はいつまで経っても訓練に身が入らない。まったく、人間って不平等だよな。せめて精神面は平等に生んでくれよ。

 そんなくだらない事を考えている間に家についてしまった。


「……ただいま~」


 俺はそ~っと木のぼろい扉を開けて、そ~っと呟く。――――まぁもちろん俺の家なんかに誰もいないんだがな。もし勢い良く開けてたら家が崩れてしまいそうだし、大声ですらも倒れそうだ。


「………まぁ、俺の家にはふさわしいな」


 カゴに入った野菜たちを家の中で一番きれいな場所に並べ、薄っぺらい布の上に横になった。


「ぶはぁぁぁぁ!!」


 対して働いていないのに疲れたような声を出す。まぁ農業も立派な職業なんだが、戦士と比べると底辺職なのでどうしても劣等感を感じてしまう。

 ――――農業のおばちゃんたちはなんでこんな仕事に誇りもってんだろうなぁ~。


「あの時もう少し訓練を頑張っていればもう少しマシな人間になってたのかな」


 そして俺はこのまま泥にハマるように薄い布団で寝た。




 ――――数時間後。やっと日が沈んだくらいの時に、俺の家にとある猛獣がやって来た。


「ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!! おはよう!!!」


 扉の向こうから聞こえるこのバカでかい声はあいつか。

 俺はそのでかい声でたたき起こされて、目覚めてしまう。そしてドアを開けるとそこには――――。


「……なんだ?」


「早く起きなよ! 早くしないと訓練に遅れちゃうよ!!」


 俺に騒がしいモーニングコールをしてきたのはメアリー・ジル。十一歳。ポニーテールで黒髪の女の子だ。前髪はフェイスラインを隠すように触覚が生えており、顔立ちは整っている方だ。

 この女は毎晩毎晩俺の家に来て、破壊するとうな声で俺を訓練に連れ出そうとして来る。正直うざい。


「帰れよ。俺はもう戦士は辞めたんだ」


 俺はメアリーの前で手をしっしとして、布団に戻ろうとする。

 だがその行動を止めるようにメアリーは俺の手首を強く握って来た。


「駄目だよそんなんじゃ。一人前の戦士にはなれないよ?」


 またうぜぇことを言ってきやがったよ。けどこんなのは無視だ無視。俺は特に何も答えずただメアリーの目を見る。


「………」


「ねぇ、聞いてるの?」


 無視だ。


「………」


「ねぇえって!」


 ――無視だ。


「ねぇぇぇぇぇって!」


 ――――無視。


「――――そんなんじゃ、あなたのお母さんは」


「黙れよ!!!!!」


 俺は声を荒らげてしまった。

 その声にビクッとしたメアリーは半泣きになっていた。


「……知らない。知らないよ!もう知らない!アランなんて大っ嫌い!!!」


 メアリーは握っていた俺の手を振り払い、俺の前から走り去っていった。


「……悪いことをしたな。強く言い過ぎた。またいつか謝ろう」


 ――――俺はほのかに残っているメアリーの思いがこもった手の温もりを触りながら、惨めな布団にまた籠った。


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