第60話

(頭が軽くなって少し変な気分。首の裏も寒い気がするし。こんなんだったっけ? )


 子供の頃と同じ、耳が隠れ肩にかからないぐらいのショートカットにしてもらった。



「ありがとう、お母さん。んー、さっぱりしたー」


「はい、どういたしまして」


 散髪なんて数年ぶりなのでみょうに疲れた。椅子から立ち上がり背をの伸ばす。腰に手を当てひねる様に回して体をほぐすと、「ゴキゴキ」と骨が鳴った。



「んがっ」


「何やってんの、変な声出して。私より若いんだから、そんな声出さないの」


「むー。お母さんより若いのは当たり前じゃん」


「そりゃそうだ。なんたって、あんたのお母さんなんだから。アッハッハ」


 切ってもらった髪の毛を確認する様に手で撫でてみる。


 今までは胸の辺りまであった髪の毛は、耳が隠れる程度、肩にかからないぐらいの長さに切ってもらった。



「あんたの髪が短いと、昔を思い出すよ。あの頃は素直で可愛かったんだけどね」


「今でも十分素直で可愛いですー」


 ほっぺたを膨らませて反論する。



「はいはい。そうですね」


 お母さんは道具を片づけながら適当な返事を返してきた。


 私は切ってもらった髪の毛をほうきで集める。うーん、結構あるなぁ。これどうするんだろう?



「ねぇ、お母さん。この髪の毛ってどうするの? 」


「ん? ああそれは、一つにまとめておいておくれ。後は私がやるよ」


「わかったー」


 ほうきを持って来て髪の毛を一か所にまとめる。



(うーん、こんなに切ったんだ。半分ぐらいかな? )

 

「終わったよー」


「はい、ご苦労様」


「そうだ。せっかくなんだから、アレクス君に見せてきたらどうだい? 」


「うん、ちょっと行ってくるね。ビックリしちゃうかなー? どうかなー? 」


 ルナは意気揚々とアレクスの下へ走って行った。


 その後ろ姿を見つめるルナの母親の表情は、どこか寂しい風に見えた。


 どこの家庭でもあるな幸せそうな親子の会話。でもこの会話が出来るのは、あと少しの間だけ。

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