第12話

「魔石が付いている矢なんて見た事ないですよ。鉄より硬いんですから魔石の方が良いんですよね? 」


「そうなんだが。いくら小さいって言っても魔石は魔石だ。鉄の方がかなり安いんだよ。まぁ外さない自信があるやつは、使っても良いんじゃないか」


 動かない動物には当たるが、動いている動物には当てるのは難しい。外した矢は出来る限り回収するが、それでも無くしてしまう矢も多い。

狩りで使うに値段が高く、魔物が出ないこの村では必要がなかった代物だろう。アレクスとルナが見た事無いのも理解出来る。



「でもこれって槍も同じ感じですよね? 槍の先っぽに魔石を付けたんじゃダメなんですか? 」


 ルナの疑問ももっともだ。杭より長くて矢のように無くす可能性が無い。槍だったら普通の武器なので使いやすいだろう。



「魔石は言わば石と同じようなもんだ。だが鉄製の槍と違い、先がとんがっていてもうまく刺さらないんだ。刺さったら直ぐにに抜かないと刺さったまま回復されて、抜けなくなっちまう。だから魔物相手には難しいんだ。でも槍だけにいいとこ突いてきたぞ。槍だけに。ガハハ! 」


 春の優しい風の中、真冬のような冷たい風が教室に吹き荒れる。教室にいた子供たちの冷たい視線をものともせず大声で笑っているガロッゾ先生。


 しかしガロッゾ先生意外にもう一つ笑い声が木霊した。



「ふふふ、あはは! ガロッゾ先生何言ってるんですか! 槍だけにいいとこ突くって! あはは! 」


 ルナである。何がそんなに面白いのか目に涙を浮かべながら大声で笑っている。昔からこうだ。よくわからないダジャレで大笑いをする。


 この前のリリアン先生の授業”魔物発生の歴史”は闇から化け物が出てきて繁栄した都市が滅ぶ。どこかおとぎ話のような感じがした。


 しかし今日のガロッゾ先生の授業は”頭を潰す。死ぬまで攻撃を加える。魔石を破壊する”。そこにはおとぎ話のようなワクワクする用な事は何も無い。でも子供たちは真剣に話を聞いている。自分や友達、家族の命に関わる話だと理解しているからだ。


 ガロッゾ先生は「んっんっ」と咳払いをして話を続けた。



「奴らは倒されると全て消える、体も血もな。切り落とした腕なんかもその場で消える。だから魔物の皮とか爪を利用することは出来ないし、もちろん食べることも出来ない。昔直接かぶりついて食べた協会の学者がいたが、はっきり言って不味いらしいし腹も膨れないらしい。病気とかにはならないが、

まぁおすすめはしないな」


「水に沈めてはダメなんですか? 川に落とすとか」


 今度はアレクスから質問があった。いつも通り前のめりになっている。



「それはダメだな。あいつらは環境にすぐに適応しちまう。逆に水中から襲われる可能性ができちまう」


「じゃあ、危なくなるだけなんですね」


「そう言うこった。でも良い質問だったぞ」


アレクスは褒められたことが嬉しいのか「えへへ」と笑っている。



「魔物の倒し方なんて勇ましいことを教えてきたが、今から大事な事を教える。……危なくなったら逃げろ。周り助けを求めろ。けっして英雄になんてなろうと思うな。かっこ悪くても生き延びろ。これだけは忘れないでくれ」


それはどこか懇願に近い教えだった。ガロッゾ先生は協会に入って長い、いわゆるベテランの域だ。その長い時間の間に色々あった事が子供たちにも察することが出来た。


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