第8話

「おはようございます。ガロッゾ先生」


「よぉ、おはようさん。今日は魔物についてお勉強だ」


 ガロッゾ先生は40才ぐらいの戦闘協会所属。大柄でヒゲもじゃ。「ガハハ」と笑って大酒飲み。

その見た目と違い面倒見がよく、大人と子供の両方から人気がある先生だ。



「さて、魔物を見た事があるやつはいるか? 」


 ガロッゾ先生は子供たちを見渡しながら聞いてきた。しかし、みんな「そういえばないね」「私もない」と顔を見合わせている。

アレクスとルナも見た事が無く、話で聞いたことしかない。

 


「そうか、みんな見た事無いか。ここら辺にはいないからな、遠くに行かないと合わないだろう。じゃあ、なんでいないと思う? 」


「先生たちが退治してるから」「田舎だから」「用事がないから」様々な意見が子供たちから挙がった。


 ガロッゾ先生は黙って子供たちの答えを聞いている。そして一通り答えが出た頃を見計らって口を開いた。



「うんうん、色んな考えがあるな。それじゃ、答えの発表をするか」


 ガロッゾ先生は子供たちが静かになり、自分に注目するのを待った。

騒がしかった子供たちが段々落ち着き静寂が訪れた。



「よし。んじゃ、いいな。魔物がここら辺にいない一番の大きな理由は……闇から遠いからだ」


 闇から遠い。あまりに簡単な答えだった。



「リリアン先生の授業であっただろ、魔物は魔石から力を貰っているって。じゃあ、そのまま力を貰い続けるとどうなるか?どうなると思う?……魔石が消滅するんだ。魔石が消えれば魔物も消えちまう。闇から遠くに行くだけで力を使っちまうんだ」


「それじゃあ、闇に近い方が強い魔物がいっぱいいるの? 」


「そうだ。基本的にそうなる。ただし、そうじゃないやつもいる。人にも色んなやつがいるように、魔物も色んなやつがいるってことだ]


「でも先生たちが退治してくれてるんでしょ? 」


「確かに俺たち協会は巡回して危険な魔物を退治している。村や町から依頼されて退治する場合もある。けど俺たち協会より魔物を殺しているやつらがいる。”魔物狩り”と呼ばれてる」


 ”魔物狩り”アレクスたちはもちろん聞いたことが無い。魔物がいない場所に用がある訳が無いからだ。



「協会と魔物狩りって何が違うの? どっちも魔物を退治してくれてるんでしょ」


「そうだな。まず俺たち協会は魔物を退治する事が目的じゃなくて、地域の安全を確保するのが目的だ。しかし、魔物狩りは魔物を退治する事自体が目的なんだ。その結果、地域の安全が出来るって事になる」


 魔物を退治して安全になる。両方とも同じような気がする。ルナは頬に手を当てしばらく考える。けどやはり同じにしか思えない。



「先生それってやっぱり同じじゃないんですか? 」


「そうだな。同じように聞こえるな。安全にする事が目的か、魔物を退治する事が目的か。この二つは似ているようで大きく違う。あいつらは魔物を退治するためなら、なんだってやる」


 村や町に被害が出ようが関係ない。危なくなったらそのまま逃げる。周りの迷惑なんか考えない。



「全員が全員そうじゃないがな。過激なやつらが多いな」


「怖い人たちなんですか? 」


「……怖いか。単純に魔石目的の賞金稼ぎ。魔物に家族を殺された者。狩りを楽しむやつ。過激なやつらだが直接悪さをするわけじゃない。あくまで魔物を殺す事が一番だ。あんまりやりすぎると協会が捕まえて罰を与えている。しかし、魔物狩りの連中が魔物の被害を減らしているのは事実だ。俺たち協会だけじゃ手が足りないからな。でも、あんまり関わらない方がいいのも事実だ」


 魔物を殺す。ガロッゾ先生は魔物狩りを説明する時にそう表現する。協会は退治、倒すと説明する。この二つには大きな違いがあるのだろ う。アレクスとルナは子供ながら感じた。


 重い空気が流れる。いつもはおしゃべりをしている子供も黙っている。アレクスとルナも真っすぐにガロッゾを見ている。

そのまましばらく沈黙した時が流れる。

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