俺の悪役転生は終わってる

反面教師@5シリーズ書籍化予定!

第1話 転生からの追放。追放からの監禁

「ハァ……ハァ……!」




 ぎしり、とベッドが軋む。


 俺の目の前には、服のはだけた美少女がいた。

 彼女は馬乗りになって荒い呼吸を繰り返す。


「ようやく、ようやくあなたを手に入れました。ユークリウス様が、こんな近くに。手が届き、肌に触れられる」


 ぺろっ、と彼女の舌が俺の首元を舐める。


 緊張やら不安やら様々な感情が全身を目まぐるしく回り、ぶわっと変な汗が出た。


 眼前にぶら下がる二つの大きな塊。それは、女性らしさを象徴するのに充分だ。

 童貞ゆえに、視線が釘付けになる。


「ふふ。興味があるなら揉んでくださって構いませんよ。ささ」

「い、いや……さすがに、それは……」


 必死に誘惑を振り切る。

 だが、誘惑は俺を逃がしてくれない。

 さらに彼女の顔が近づいた。

 鼻と鼻がくっ付く。


「ここまできたのに、まだ覚悟は決まりませんか? でも遅いですよ。もう、私は止まりません」


 唇が重なる。


 俺の気持ちを無視して生暖かい感触が脳を支配した。

 彼女はすぐに口を離し、噛みしめるように体を震わせる。


 その動きすら妖艶に見えた。同時に、自分がなぜこんな状況になったのか。ふと、少し前の記憶を遡る。











 俺は乙女ゲームの世界に転生したらしい。




 ある日、唐突に前世の記憶を思い出した。


 それによると俺ことユークリウス・テオ・トリリムは、ヒロインや攻略対象キャラクターの恋路を邪魔する悪役貴族だ。


 紆余曲折あり、犯罪行為にまで走ったユークリウスは、その証拠を突きつけられて断罪される。そういうキャラだった。


 おまけにすでに断罪されたあと。

 国外追放を言い渡され、荷物をまとめて家を出た——瞬間に前世を思い出した。


「そんなタイミングある? バッドエンド回避とか不可能じゃん。全部終わってるよ……」


 馬車の外に広がる景色を眺めながら、盛大にため息を吐いて今に至る。


 ユークリウスの記憶によると、これから俺は帝国にいる父の知り合いの下に預けられるらしい。


 なぜか両親が俺を見送る時、もの凄く微妙そうな顔を浮かべていたが……酷い所じゃないよね?

 劣悪な環境で生きられるほど、俺は強くない。むしろ芋虫くらい弱い自信がある。


 今も心が折れそうになるのを必死に耐えていた。


「どうしたらいいんだ。新しい生活に馴染むべき? よく考えろ。俺が預けられる理由くらい向こうは知ってるはず。腫れ物じゃないか」


 自問自答の末に、最悪な未来が予想された。


 前世でも友達が少なかったのに、せっかく転生したと思ったらまたボッチ。


「あんまりだあ。神も仏もねぇ」


 そりゃそうだ。ここは異世界。

 俺が知る神様も仏様もいやしない。


 だが、そうなると逆に気になることもあった。


 ——一体、誰が俺を転生させたのか。わざわざ記憶まで持たせて。


「これが俺を絶望させるための処置だとしたら、最高に死にたくなってきた……」


 考えれば考えるほど深い沼にはまっていく気がする。

 かぶりを振って一度思考を吹き飛ばした。


 背もたれに体を預け、瞼を閉じて眠る。

 面倒事は、次に起きた自分に任せよう。それがいい。


「Zzz……」











 帝国への移動は、合わせて一週間近くもかかった。


 道中、何度も小さな町の宿に宿泊し、追放された罪人の分際でそれなりに旅を堪能した。


 開き直ると意外に楽しいものだね、遠出っていうのは。

 食事も普通に出てくるし、お風呂にも入れる。

 完全にVIP待遇だった。


 これ、本当に罪人だよね、俺。


 そんなこんなで移動は順調に進み、一週間後にアルビジア帝国の首都ファシオスに到着する。


 正門をくぐり、そろそろ馬車を降りるか——と思っていた俺は、しかし一向に停まる気配のない馬車に首を傾げた。


「うん? どこまで運んでくれるんだ?」


 このまま滞在予定の場所まで送ってくれるのかと思ったが、馬車が向かったのは……帝都で一番大きな建物。


 あれは、ユークリウスの記憶によると、


「ま、まさか……後宮?」


 皇族たちが住む場所だった。


「なんで後宮に向かっているんだ? す、すみません!」


 馬の手綱を握っている御者の男性に声をかける。

 しかし、いくら声を出そうと御者の男性は反応しない。絶対に聞こえてるはずなのに。


 疑問が止まらない。不安を抱く。


 その間も馬車は止まらない。

 あっさり後宮前の正門を超え、裏庭のほうに回った。

 そこでようやく馬車が停まる。


 何がなんだか解らないままの俺は、馬車から降りるように言われ——、


「もがッ⁉」


 急に二人の騎士に拘束された。

 布を被せられ、手足を縛られる。


 ある種のパニック状態になりながらもどこかへ運ばれていった。

 そして、次に見えた光景は……室内。


 豪華絢爛な装飾の施された女性の部屋。


 そう。そこは、この国の第二皇女——エルネスタ・レラ・アルビジア皇女の寝室だった。


 なぜ解るのか?

 当の本人が俺の目の前に立っているからだ。


 乙女ゲーの悪役令嬢、エルネスタ皇女本人が。


「ふふ、お久しぶりですね、ユークリウス様」

「ど、どうしてエルネスタ殿下が?」

「私がここにいるのは、ここが私の部屋だから。ユークリウス様がこの部屋に運ばれてきたのは、私がそうするように部下へ命じたから」

「え、エルネスタ殿下が?」

「全てはこの日のために準備しておりました。あなたが追放される、この日のために」


 言い終えるなりエルネスタ殿下が俺を抱き締めた。

 ベッドの上に押し倒し、彼女は服を脱ぎ始める。


「ハァ……ハァ……!」


 完全に眼がキマッている。

 瞳孔が開き、鼻息が荒い。


「ようやく、ようやくあなたを手に入れました。ユークリウス様が、こんな近くに。手が届き、肌に触れられる」


 にじり寄るエルネスタ殿下。

 ドレスがはだけ、赤い下着が見える。


 俺の眼前で揺れる二つの塊から視線を外せない。


「ふふ。興味があるなら揉んでくださって構いませんよ。ささ」

「い、いや……さすがに、それは……」

「ここまできたのに、まだ覚悟は決まりませんか? でも遅いですよ。もう、私は止まりません」


 唇が封じられた。生暖かい感触が広がる。


 今度は妖艶な彼女から眼を離せなかった。

 それでもどうにか言葉をひねり出す。


「ま、待って! 待ってくれ! そもそもなんでエルネスタ殿下が俺を? 理由が——」

「好きだからです」


 俺の言葉を遮って彼女は言った。

 瞳からハイライトが消える。




「どうしようもないくらい愛しています。愛して、愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して!」




 狂気を孕んだ声で叫ぶ。

 俺には呪詛のようにも聞こえた。


「……愛しすぎて、誘拐しちゃいました♡」


 最後に可愛らしく微笑みを作り、再び彼女は俺の唇を奪った。


 ま、まずいっ!

 彼女の恐ろしい一面を見て体が固まった。

 もう、抵抗……できない。


 あ————。


———————————

作者の都合(という名のミス)により投稿し直した新作です。

内容忘れたので新しく書きました。前の作品を読んだ方も楽しめる内容になっています!

よかったら主人公くんとヤンデレ皇女を応援してやってください!(?)

【作者からのお願い】

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