神様がくれた五分間 ~クリスマスイブの奇跡~
マクスウェルの仔猫
第1話 最後の夜
吸入器越しの寝息が、浅く短い。
「クリスマスイブにお呼ばれされるなんて。サンタクロースさんのお手伝いをされられてしまうわよ?」
声に力が入らない。
ずっと覚悟していた事とはいえ、この夜が峠、と言われてしまうと……いつものように繋ぐ手にさえ、力が籠ってしまう。
50年。
居眠り運転の車から子どもを助けた貴方は、意識を失ったまま二度と目を覚まさなかった。
貴方の笑顔を見れる日を願い続けた。
けれど、その希望は窓の外で降りしきる粉雪のように、儚い姿を見せては消えていく日々だった。
それでも、幸せだった。
お嫁さんにはなれなかったけれど、私は誰よりも貴方の傍にいれた。
本当に、幸せだった。
●
「あの子、今日はお孫さん連れてきたわね。可愛い女の子。貴方が助けた命が、新しい命の護り手となるって素敵。……もう、手土産はいらないって言ってるのにね」
手土産と一緒に、あの子は来る度に涙も置いていく。助けてもらった自分ばかりが、こんなに幸せでいいのかって。
「『貴方が幸せだと言うなら、私達も幸せですよ』って言っているのにね。年は近いけど、まるで息子みたいな感じ」
もし貴方だったら、何て言うのかしら。
『僕らの幸せは、僕らが決めるよ。ほら、君は背筋を伸ばして!』
そんな風に言いそうね。しょっちゅう悩みの相談を持ち掛けられてた貴方は、人をよく見ていた。柔らかな笑顔ときめ細やかな優しさで、学校でも人気者だった。
「懐かしいわね。あの頃の事をたくさん思いだしてきちゃった」
……そうだ。
最後の夜だから、一番楽しかった頃の私達の思い出をひとつひとつ、紐解いていきましょうか。
いっそ、話し方もあの頃のようにしてみたり、とか。
「こんなお婆ちゃんが若い人の言葉遣いをするなんて可笑しいだろうけど、驚いた貴方が飛び起きるのを期待して冒険してみようかしら。変だったら、ちゃんと訂正してね?」
何てね、うふふ。
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