第43話
その後、不動産屋で部屋の希望を伝えて実際に物件を見に行くことに。
当初は不動産業者のトーラさんが2人部屋を薦め、それにモノカさんが食いついていたのだが……
「いや。彼女には孤児院のほうがあるんで、一緒に暮らすわけじゃありませんよ」
と言って1人部屋を紹介してもらうことになった。
そうして予算や階数、周辺の環境などを条件にした結果……ある物件を紹介される。
現地に到着すると、大通りからはちょっと入り組んでいるが決して遠いわけでもなく、商店や飲食店が近場に多い物件だった。
建物自体は5階建てで、そこそこ年季が入っている。
ただ、中に入ってみると十分な手入れがされており、聞けば常駐している管理人が頑張っているらしい。
「数年前にうちの系列の商隊が道中で保護したらしいんですけど、身寄りがないから働かせてくれって同行してきたそうです。その時はまだ小さかったんですが、その割には聡くてよく働くからってここで雇うことになって、少し前に前任者が引退した際に管理人を引き継いだんですよ」
「へぇ……」
中を見た感じからすると……管理人になったからと言って手を抜かない、良い人材を拾ったんじゃないだろうか。
そう思っていたところ、トーラさんは管理人の部屋らしきドアを叩く。
コンコンコン!
「サクラさーん、居ますかー?」
サクラさんと言うのか……ちょっと前世を思い出す名前だな。
そんな俺の前で、ドアの奥から返事が返ってくる。
「はーい」
トッ、トッ、トッ……カチャッ、キィッ
「……」
開いたドアから現れたサクラさんに、俺は少々思考が止まる。
彼女は何というか……黒髪で日本人っぽい顔だったのだ。
まぁ、人間自体が前世と同じような見た目なんだし、日本人っぽい外見の人が存在していてもおかしくはないか。
体型は……服の境目からすると腰の位置は高めで、凹凸はハッキリしていてイリスに近いかな。
そんな彼女がトーラさんに話しかける。
「あら、トーラさん。こんにちは。ご用件はなんですか?」
「こんにちは。今日はお部屋のご案内で来てまして」
「あら、そうなんですね。そちらの女性ですか?」
サクラさんはモノカさんが入居希望者だと思ったようだが、トーラさんがそれを否定した。
「いえ、お隣の男性の方です」
「え゛」
トーラさんの返答に、眉根を寄せて俺を見るサクラさん。
なんか嫌そうなんだが……そう見えたのは続く言葉で確かとなった。
「あの、ここの住人は女性ばかりなので男性は色々と問題が……」
「え」
その言葉に、今度は俺がそんな声を漏らす。
そんな話は聞いていないのだが……そう思ってトーラさんを見ると、彼女はサクラさんに説明する。
「大丈夫ですよ。こちらのコージさんにはモノカさんという恋人もいらっしゃいますし」
「コージ……?あ、いや。でもその……ほら、気の迷いで~とか……」
どうやら、彼女は俺が浮気で住人に手を出すかもしれないと危惧しているらしい。
モノカさんが恋人という設定なのだし、自分から手を出す気はないのだが……
まぁ、フレデリカの関係者だということで部屋を紹介してもらえることになったので、モノカさんとの恋人設定は不要になってたんだけどな。
にしても、トーラさんは何故ここを紹介しようとしているのだろうか?
そのトーラさんがモノカさんの胸を指して反論する。
「いやほら!
「はあ……」
わからなくはないが、納得はしかねるといった表情のサクラさん。
そんな彼女の態度に俺は少し考えると……フリーの右手をモノカさんに向けてから言った。
「あの、いいですか?」
「あっ、はい!どうぞ!」
俺の言動で意を汲んだ彼女は即座に快諾し、それを受けて俺は右手を動かした。
モミモミモミモミ……
「んっ……♡」
「いーなー……」
「…………」
俺に胸を揉まれて小さく声を漏らすモノカさんと、俺を羨むトーラさん。
そんな光景に、サクラさんは無言で呆れた表情を見せていた。
うーん、他の女性に手を出す必要がないということをアピールしたつもりだったが、そこまで効果はなかったか。
「ほら、こんなに好き放題に捏ねくり回せるんですから大丈夫ですよ!」
トーラさんも俺の意図を察したのかそう言うと、それに続けて強いカードを切る。
「それにコージさんはフレデリカ様のご紹介だそうですし、あの方の評判を下げるような事はされませんよ」
「はあ?それって本当なんですか?」
彼女が人伝に聞いたような言い方をしたことで疑うサクラさんだったが、そこでモノカさんが俺とフレデリカの事を説明して納得させた。
「……というわけで、コージさんは冒険者ですが荒っぽい方ではありませんし、そもそも部屋は倉庫に近い形でのご利用だそうですから」
「うーん…………まぁ、そういう事ならわかりました。それでどの部屋を?」
渋々といった感じだが納得したサクラさんに聞かれ、トーラさんは俺に薦めるつもりの部屋を彼女に伝える。
「5階は"あれ"ですし、4階は何部屋か空いてるはずですから……両隣が空いてる部屋を」
「そうなると……404号室ですね。鍵を持ってきます」
そう言うとサクラさんはドアの奥へ消え、遠くで物音がし始めた。
そこで、俺は気になった事をトーラさんに聞く。
「あの、5階に何かあるんですか?」
「え?あぁ、1フロア貸し切ってる方がいらっしゃるというだけですよ」
「そうなんですか。そうなると家賃が結構な額になりそうですが……」
「まぁ、それが平気なお方ということです」
「へぇ……」
金があって、階段しかないのに5階でも構わないぐらいに体力もある人なのか。
彼女の返答に、その人物の発言力や階下に俺が住む事をどう思われるのかが気になったが……そこでサクラさんが戻ってくる。
「鍵を持ってきました。ご案内はトーラさんが?」
「ええ。他にも来客があるかもしれませんし、サクラさんはお仕事に戻っていただいても構いませんよ」
「わかりました。えーっと……」
トーラさんに鍵を渡し、すぐに管理人室へ戻るかと思われたサクラさんだが、彼女は俺の方を見て何かを言いたげな顔をする。
やはり、フレデリカの紹介であってもここに男が住むのは嫌なのか?
ならば他の物件でも構わないが……と思っていたところでサクラさんはその口を開く。
「……いつまで揉んでるんですか」
「……ハッ!?」
「んっ……ふぅん……♡」
言われて気が付いたが、俺はモノカさんの胸を揉み続けていた。
移動したりするという大きな動きがなかったことで、彼女の胸の引力から手が離れなかったようだ。
これは……トーラさんの言うことを理解できる気がするな。
ともかく、部屋に移動するにあたって俺はその胸から手を引き剥がす。
「あ、すいません。つい……」
「はふぅ……い、いえ。お好きなだけどうぞ……♡」
「えーっと……まぁ、次の機会に」
ならばもう少しと言いたい気持ちがなくもなかったが、それを抑えて部屋の案内をしてもらうことにした。
「……大丈夫かしら」
サクラさんのそんな言葉を背に受けて、俺は先導するトーラさんに続いて奥にある階段を上がった。
トン、トン、トン……
人とすれ違う可能性を考慮して、モノカさんと組んでいた腕を解いた俺は列の2番目を進んでいる。
丁度トーラさんのお尻が目線の位置にあるが、左右に振られるそれを見つつも周囲を確認していかなくては。
とは言っても……石の壁には手すりがあるぐらいで特に何もなく、木製の床が多少軋むぐらいしか気にならないが。
1フロアに5部屋並ぶ通路も含めて明かりを設置する場所がないので、夜に出歩く場合は皆自前で明かりを用意するのだろう。
後は……建物の端に階段があるので、反対側にも階段がないと少々不便だな。
そこをトーラさんに聞いてみると、
「あぁ、階段はこちら側だけですね。なので非常時には窓から出るようにしてください」
と返された。
そんな話を聞きつつ3階に上がったところ、丁度ここの住人らしき女性が部屋から出てきていた。
手前から2番目の部屋なので、302号室か。
「あ、ミラさん。こんにちは」
「あら、トーラさん。こんにちは。今日はそちらの方のご案内ですか?」
トーラさんに声を掛けられ、そう聞きながらこちらへ来たのは……20代半ばに見える細身の女性だった。
少し長めの茶髪で美人の部類に入るとは思うが……ちょっと幸薄そうな顔にも見える。
あくまでも俺の感想だが。
「ええ、そうなんです。こちらのコージさんを」
そんな彼女にトーラさんがそう返すと、ミラさんは少々驚いた顔を見せた。
「あら、珍しいですね。まぁ、別にここは女性専用でもなかったはずですからおかしくはありませんけど」
「今からお部屋を見ていただくところなので、まだ決まったわけじゃないんですけどね」
そう聞いた彼女は俺を見ると、軽く会釈をしながら自己紹介をする。
「ここの住人のミラです。ここに決められましたらよろしくお願いします」
「コージです。まぁ、特に問題がなければここに決めますので、そのときはよろしくお願いします」
「はい。では、私はお買い物に行くところなのでこれで……きゃっ!?」
ミラさんは俺達とすれ違う形で階段を下りていこうとしたのだが……そこで彼女の手提げ鞄が内側の手摺りの切り返し部分に引っ掛かりそうになり、それを避けようと身を捩ったところ……手摺りに掴まる前だったのもあり、よろけて階段を踏み外す。
「っ!」
サッ、ガシッ!
「んっ♡」
俺は咄嗟に手を伸ばし、ミラさんが階段から落ちるのを防いだわけだが……下側から支えるようにしたため俺の手が彼女の胸に当たっており、その指先がやや硬めの部分を押し込んでいた。
ちゃうねん、と言い訳をしそうになっていたところ、体勢を立て直したミラさんが恥ずかしげにお礼を言ってくる。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、その……すいません、支えた場所が」
手を離しつつそう言うと、彼女は首を横に振る。
「いえいえ、落ちて怪我をした場合を考えたらそれぐらいは何でもありませんよ」
「は、はぁ」
まぁ、最悪死ぬ可能性があっただろうしな。
「では、今度こそ行ってきますね」
「あ、はい。お気をつけて」
「はい。ここでお決めになったらまた……」
そう言うとミラさんは問題なく階段を下りていった。
……細身の割には結構
そんな感想を抱きつつ、俺は案内を再開したトーラさんの後に続くのだった。
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