第20話

「ベテランってわけじゃないんだけど……お世辞抜きでスゴかったわ」



蝋燭1本の弱々しい灯りに照らされ、白い肌を更に白く汚したリンナが俺をそう評した。


ルナミリア以来のだったが、あの時の魔鎧を使った技はリンナにも好評だったようだ。


大きさそのものは変えていないが、で形を変えつつ様々な動きで責めた結果、娼婦でもある彼女を満足させられたようなので……まぁ、他のでも不甲斐ない戦果を残すことはないだろう。



「それは良かった」


「でも結構大きな声が出ちゃったし、誰か文句を言いにくるかもね」



ここは酒場の中にある、従業員が住んでいる区画である。


確かに大きな声は出ていて普通なら隣近所に鳴り響いていたのだろうけど、おそらく今回は外にあまり聞こえていないはず。


それは……魔鎧で二重の壁を床も含めてドーム状に張り、その内側を防音室のような凸凹にしておいたからだ。


この10年で使い慣れたせいか、ダメージさえなければ魔力の消費量はそこまで重くなくなっており、貯め込んでいた分もあるからできたことである。


実際、4回ほど満足させてもらったぐらいの時間が経っているが、部屋に苦情を言いに来た者はいない。


防音してるから気づかなかったのでは?と思われそうだが、入り口の外にドアの下から魔鎧の薄い板を出して設置しており、誰かが来ていればそれを踏まれて俺にその感触が伝わるはず。


それがなかったので誰も苦情を言いに来なかったのはほぼ確実であり、気にする必要はないのだが……魔鎧についても秘密なので適当に気休めな言葉で誤魔化しておく。



「まぁ、誰も来てないんだから、そこまでの声ではなかったんじゃないか?」


「そうかしら?まぁ、揉め事にならないんならその方がいいんだけど……気持ち良かったしね♡」



ヤる事はヤッたしと敬語をやめた俺に満足そうなリンナだったが、俺は1つ確認しておくことがある。



「なぁ、何で泊めてくれた上にまでしてくれたんだ?」



解体場のフレデリカの件もあるし、何らかの狙いがある可能性も疑わざるを得なかったのだが……問われたリンナはこう答えた。



「え?うーん……身綺麗にしてるのもあるけど見た目がそこそこ良くて、話してみたら人が良さそうだし稼ぎも良さそうだからだけど?」


「つまり……良い客になりそうだったからか?」


「ええ。あ、貰ってくれるんならそれでもいいけど、十分なお金が貯まるまでは仕事を続けることになるからね?」


「あ、ああ」



どうやらがあったわけではなく、そこまで深い狙いがあったわけでもないようだ。


もう暫くは恋人などを作る気がない俺にとっては都合がいい。


ただ、その仕事について気になる点がある。



「そうだ、この店って店員をんだよな?店の看板にそれを表すものはなかったんだけど」


「ああ、ここは娼館じゃないからね。店員を買えるのはオマケみたいなものよ。まぁ……そっちを目当てにして来る客もいるけど」


「娼館とは扱いが別なのか?」


「そうねぇ。税金なんかも違うし、向こうはの専門だけあって昼夜関係なく買えるようになってるし。もちろん昼間は売ってる数が少ないけど」


「客の数が少ないからか」


「狙ってる客は冒険者だしね。まぁ余裕がある冒険者は適度に休みを取るからそれなりに用意してるはずだけど。ウチみたいな店は昼間にはしないから、少ない回数で多く稼がなきゃいけなくて高めの値段になってるのよ」


「娼館はもっと安いのか?」


「それは店というか、娼婦によるわね。ものすごく高い人もいれば"外町"並みに安い人もいるから」


「それもそうか。じゃあ、リンナはいつもいくらなんだ?」


「私は8000からね。新人冒険者が少し無理すれば買えるって値段だと、危ない橋を渡っちゃうかもしれないし」



その辺のことを気にするぐらいには人気があるってことか。


だとすると今日も普通に客を取れたはずだし、泊めてくれた上に稼ぐ機会を潰したのは申し訳ない気がするな。



「なるほど。今日の稼ぎがあるから、明日ギルドから引き出せば払えるんだが……」



俺がそう言うと彼女は首を振り、



「今日は私が誘っただけだし、サービスするって言っておいて愉しませてもらっちゃったからね。ああ、朝になったらしてあげるわ♡」



と言って俺の頬にキスをし、それがお休みの合図となった。








じゅっ、じゅるっ……ちゅばっ



おまけが気になって少々眠り難かったが……いつの間にか無事に寝入り、起きたときには股間が快感に包まれていた。


隣にあったリンナの顔が股間にあり、は彼女の口に咥えられている。


蝋燭に火がついているということは……外で火を貰ってきたのか。服も着ているしな。


俺が目覚めたのに気づいたのか、そこから顔と口を離したリンナが朝の挨拶をしてくる。



「ちゅぽっ……起きた?おはよ♪」


「おはよう。これがか」


「うん。ただゆっくりはしてられないのよね、店の仕事もあるし。このままイかせちゃっていい?」


「おまけに注文なんか付けないよ」


「フフッ、やっぱイイ男ね。囲えるようになったら囲ってよ」


「まぁ、努力はするとだけ言っておく」


「じゃ、私も努力しようかな?とりあえずは次の機会があるように……あむ」



そうして、仕事に間に合わせようと高速で頭を振るリンナに吸い取られ、暫く彼女の部屋で時間を潰してから朝食を食べに店内へ向かった。





「リンナの部屋に泊まったんだって?タダ◯ンどうだった?」



俺が昨夜と同じ席に着くと、朝食のメニューは決まっているのか料理を持ってくるなりそんなことを言ってきた店員が。


昨日、少しサービスをしてくれたティリカさんである。


昨日よりも胸の揺れが少ないのは、今は誘うつもりがないから下着をキツめに着けているのだろう。


その証拠に、彼女だけではないが皆赤いスカーフを巻いている。


しかし……他の客に聞かれないように小声ではあるが、表現がダイレクトだな。


防音はしたし、そもそも先に客の部屋へ行った彼女は何故、俺がリンナの部屋に泊ったことを知っているのだろうか?



「えーっと、何故それを?」



聞けば、朝に火を貰いに行った際、本人に会って色々と聞き出したらしい。


どうやら、リンナの態度でを察したようだ。


彼女が昨夜は客を取っていなかったのを誰かに聞いていたらしく、なのにその態度は……ということで気付いたそうだ。


どこまでのことを聞き出されたのかが気になるところだが……俺はごく自然に彼女へ答えを返すことにした。



「十分愉しませてもらいましたよ」


「へぇ……じゃあ、今夜はアタシでどう?お金はキッチリいただくけど♪」


「今はそのスカーフを巻いてるのに、誘っていいんですか?」


「こっちからはいいのよ。これは客からのお誘いを避けるために巻いてるんだし」


「ああ、そうなんですね。でも今日は色々と準備があって稼ぎに行く予定がないので……」


「お金に余裕はない、と。まぁ、新人じゃ仕方ないのかな?浅い所だって色々と必要でしょうし、装備の手入れにもお金がかかるでしょうしね」


「そうなんですよね。もう暫くしたら冬支度もしないといけないし、納税も近いんで」


「そうよねぇ……あ、宿はどうするの?」


「宿?」



暮らしに関わる話だったからか、それに関連した宿の話になったようだ。



「ええ。部屋を押さえるなら、なるべく早い時間にした方がいいわよ?」


「ここって毎日埋まりますか?」


「大体はね。料理はそこそこで……揃いだし」



言いながら胸を寄せて上げ、揺すって見せるティリカさん。



「まぁ、確かに」



そう答えた俺に、彼女はグッと距離を詰めた。



「あらぁ、脈アリ?」


「無くはないんですが……部屋は、一泊朝食付きで3500でしたっけ」


「そ。期待されすぎると困るから大きな声では言えないんだけど……」



そう言うと周囲を確認し、俺の耳に口を寄せて言葉を続ける。



「ヤる気だったけど売れ残ったって娘がいたら、独り寝の部屋にタダで来てくれることもあるわよ」


「えっ?そんなことがあるんなら、部屋はいつも埋まってるんじゃないですか?」


「埋まってるとしても、とは限らないからね」



なるほど、部屋が埋まるだけでは店員は困るのか。


ただ……



「俺が部屋を取ったとしても、買いたくなるとは限りませんよ?」


「それはわかってるわ。まぁ、にさせられるかはこちらのってことで……どうする?」



そう言って上下に動かされる、を握っている手に……俺は本日の宿泊部屋を予約した。


いや、これは客引きに対して断りやすくするためだから。うん。

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