第11話

「いや助かったよ」



そう言って俺の隣を歩くのは、馬車を護衛していた武装集団の1人である。


彼らは予想通り冒険者であるらしく、この団体は行商人の商隊だったようだ。


懸念していた通り、俺が彼らの前に姿を表すと一瞬警戒されてしまったが、引き摺っていたゴブリンの死体などを見てすぐに察し警戒は解かれる。


どうやら先頭の馬が倒れていたのは身体を麻痺させる毒が使われていたからのようで、弓矢が人工らしいのもあり、おそらく人から奪った物だろうと推察された。


弓ゴブリンの持ち物は俺の戦利品としていいとのことで、魔石以外はどれもいらないので商人に買い取ってもらうことにする。


暫くして、傷の手当てを受けた馬は動けるようになり移動を再開することになったので、俺も同行させてもらい冒険者についての情報収集を行うことにした。



「へぇ、北の方の出か。こっちの方に来てるってことはダンジョン街を目指してるのかい?」


「まぁ、そうですね」



とりあえず俺の出身は北の方とだけ言っておき、稼ぎのいい土地を目指していると言うとダンジョン街という場所の情報を得る。



「んー……まぁ、当たりが出れば稼げるだろうけど、稼げないと容赦なく追い出されるらしいからおすすめはしないけどね」


「そうなんですか?」


「ああ。冒険者って他の町や村なんかでは依頼の報酬から勝手に税金が引かれるんだけど、ダンジョン街に滞在するなら毎月一定額を納めることになってるらしいよ」


「へぇ、そうなんですか。でも個人の事情で払えないことってありますよね?それは考えられないんでしょうか?」



怪我や病気など、意図せず稼げなくなることはあるはずだ。



「人伝に聞く限りはないんじゃないかな?ただ、払いさえすればいいらしいから、誰かに肩代わりしてもらえればいいのかもね」


「でもそうなると……その相手には逆らえなくなりそうですね」


「なるだろうね。まぁ、それが嫌なら出ていけばいいし、そうしてでもダンジョン街に居たければ受け入れるしかないんじゃない?」


「そこまでしてダンジョン街に居続ける理由ってあるんですかね?」


「まぁ、上手く行けば稼げるのは確かみたいだし、価値の高いマジックアイテムなんかが手に入れば死ぬまで税が免除されたりするらしいし……そのマジックアイテムを街に納めれば、だけど」


「なるほど」



そんな話を聞きながら、ドラゴンの力にも耐えられる自分ならそれなりにやっていけるのでは?とダンジョン街を目的地にしようとする俺の耳に、他の人からある情報が飛び込んできた。



「でもよ、あそこで冒険者として上手くやっていくには"祝音の儀"で何かを持ってることがわかってる奴か、そういう奴に取り入った奴じゃねぇと無理なんじゃねぇの?」


「浅い場所ならなんとか……」


「んな所、強え連中がさっさと倒して行くから数が少なくなって、新人や弱え奴の取り合いでまともに稼げねえって聞いたぜ?」


「うーん、まぁ……」



彼らの話を聞くと、ダンジョン街に存在するダンジョンは大きな門を入り口として中には洞窟が広がっており、時折存在する坂を下っていくと遭遇する魔物が強くなっていくらしい。


洞窟は1つに繋がっているとのことで探索済みのエリアは地図が作成されているらしく、それによって深く潜る者達が通る最短ルートは魔物が極端に少なくなるという話が伝わっているようだ。


全部繋がってるタイプのダンジョンかぁ。


階段やワープ装置で階層を移動するタイプも予想はしていたが、地図があれば迷う可能性が低いのは都合がいいな。


危なそうなら引き返せばいい。


ダンジョン街で冒険者として上手くやっていけなくても、何か別の……作った物が紛い物だと知られると面倒なことになるので、物を売らない仕事で生活してもいいわけだしな。


よし、行ってみるか。







手助けした商隊は途中の村で数日滞在するというので一晩だけ護衛達と同じ宿のお世話になり、翌朝そこで別れて俺は空の旅へと戻ると……暫くして、大きめの川を中心にしているらしい街が見えてきた。


話に聞いていた以上に大きい街で、その入口に繋がる道を多くの人が行き交っている。


規模はともかく、南北に大きな川が流れている特徴はここまでの人里には見られなかったので、あれがダンジョン街だと思っていいだろう。


気になるのはそのすぐ近くにある町で、ダンジョン街の方へ流れる川からの支流を跨ぐように、ダンジョン街ほどではないが結構大きな人里が存在していた。


比較的近くに森もあり、まぁ……人里が出来てもおかしくはない環境ではある。


丁度いい、あの森に降りてから徒歩でダンジョン街に向かうとするか。


あれだけ人目が多いと、街道でいきなり姿を現すのは目立ちすぎるだろうからな。


そう考えてその森に降りた俺は魔鎧を解除し、カバンを背負った普通の冒険者としてダンジョン街へと向かった。





ダンジョン街の門は普通の馬車なら7、8台分の幅はあり、その半分が出口として利用されているらしい。


門の厚さは5mほどで、その中ほどで検問のようなものを受けるようだ。


順番が来た人は何かを見せるか、台座に乗った丸い水晶のような玉に触れてみせている。


人が触ると白く光っている。


街を出る人は担当者に何かを見せるだけのようだし、通行証のような物を持っていればそれを見せ、持っていなければあの玉に触れる決まりなんだろうな。


あの玉の正体が気になるが……まぁ、自分の順番が来ればわかるか。


入る人はそこを通過すると荷物の検査を受け、それをクリアすると街へ入る事ができるようだ。




俺は門の前に出来ていた列へ並ぶと、出入りする人達の様子を観察する。


商人や冒険者と思われる人達など色んな人がいるが、ざっと見た限り武装した女性というのは1人しか見当たらない。


基本的に、力が必要な仕事に就こうという女性は少ないようだし、逆に言うとその女性は何らかの力を持っているということか。


並ぶ際に少し見ただけなのでほぼ後ろ姿しか見えなかったが……革の防具や短めの剣を下げていることから、やはり筋力的にはそこまでの余裕がないのかもしれない。


そんな彼女に、後ろから話し掛けているらしい男達が居た。


10人ぐらいの集団かな。


周りで色んな人が会話をしているのもあって、俺の位置からその内容は聞こえていないのだが……女性の方は無視しているようだ。


そんな彼女の肩に男の1人が手を掛け、力ずくで後ろを向かせる。


……ほう。


まだ10代半ばといった年頃で気が強そうな美少女だ。


後ろから声を掛けていた男達は、顔を知っていて話し掛けていたのかな。


ただ、彼女本人は嫌そうな顔をしており、迷惑そうに何かを……おそらく断りの言葉を伝えているようだ。


しかしその言葉は男達に通じなかったのか、見えてはいないが腕かどこかを掴んで仲間らしき連中が周りを囲んだ。


というか、前に居た同じぐらいの数の集団もあの男達の仲間だったのか。


彼女はその表情から男達の手を振り解こうとしているようだが、どうもそれは難しいというか……口も塞がれてしまった。


これはアカン。


男達は彼女を囲んでいて検問の職員からは見えていないようだし、あの集団の近くに居る人達も気づいていないのか特に動こうとはしてない。


門の上に警備の兵は居ないのか?と見てみると……居るには居るが、角度的には見えていないのか彼女の件で動く様子は見られなかった。


……仕方ない。


まだ目立ちたくはないし、コッソリやるか。





???視点



ああ、面倒ね。


列に並んですぐ、後ろに並ばれてからずっと話し掛けてくる連中がいる。


チームの勧誘だけど……その中には男達のも含まれていることを匂わせてきた。


こっちは訳あって女1人。


ダンジョン街に近く、人目が多ければ厄介な連中に絡まれることもないかと思ったんだけど……甘かったわね。


実際、門の列に並ぶまでは問題がなかったのに、連中に声を掛けられてちょっと振り向いてしまってからしつこく誘ってくる。



「なぁ、俺達のチームに入りなって。稼ぎはキッチリ分けるからよ」

「まぁ、戦力としては足手まといになるだろうから、その分は身体で役に立ってもらうけどな」

「いっそ宿に居てもらったほうが良いんじゃねぇの」

「「確かに」」



好き勝手言ってくれるわね、装備からして大したことはないくせに。


まぁ、私の装備はそんな連中に軽く見られる程度ではある。


ただ、足手まといになるほど無力ではないんだけど……この連中には教えたくないわね。


断るのは決まってるし。


それに、連中もこの街に滞在するのなら顔を合わせる可能性は高いから、その抵抗できる手段は使わないほうがいい。


下手に怪我をさせると恨まれて面倒な事になるだろうし、何とか穏便に済ませよう。


と、思ってたんだけど……すぐにそれどころじゃなくなる。



「その気はないと言っているでしょう?」


「良いじゃねぇか。ほら、ちゃんとお前にも愉しませてやるからよ」


ガシッ


「くっ!ちょっと……むぐっ!」



後ろを向いていた私の後ろから両腕を掴まれ、口を布で塞がれると……男達はお尻やを撫で回してくる。


こんなに人目がある所で?と思って可能な限り周りを見ても、結構な人数に囲まれて壁になっているせいか男達を止めようとする人は居ない。


というか、前にも仲間が居たとは……衛兵のように装備が揃ってるわけじゃなかったから気づかなかった。



「へへ……流石にここで最後まではしねぇよ。眠らせて俺達のアジトに連れてってやる」


「うぅ……」



藻掻こうとするもそれだけの力はなく、革鎧の脇から手を入れられそうになる。


狙ってるのは財布か胸か……どっちにしろ両方になりそうね。


いや、そんなことを冷静に考えてる場合じゃないか。


何とか抵抗したいけど、口を塞がれているとその手段が使えない。


どうしよう、と考えていたその時……男達の1人に異変が起きた。



「うっ!」


「何だ?ハハ、もうイッちまったのか?」



そう笑うリーダー格の男だったけど、すぐにその笑みは消え去ることになる。



「ぐ」

「なっ!?」

「あぐっ……く、首が……」


「な、何だ?ぐっ」



程なくして、男達は全員が首に手をやり苦しみだした。


男達の首を見ると……何か細い紐で絞められているようにへこんでいるけど、そこに何かがあるようには見えない。


その様子で周りの人達も男達の異変に気づき、ざわつき始めていた。



「う、ぐぐ……ハッ!?ゴホッ、おい!離れたら消えたぞ!」



男の1人がヨロヨロと私から離れると首を絞める何かが消えたと言い出し、その声で男達は一斉に私から離れる。



「ゲホッ、何なんだ一体。口は塞いでたから魔法じゃねぇはず……スキルかマジックアイテムだな?」


「え」



そんな物はどっちも持ってないんだけど、持ってるフリでもしようかしら?


でも、もう一度使う必要が出てきても……もちろん私がやったわけじゃないから、試されてしまえばすぐにバレる。


どうしようかと考えていると、やっとこちらの異変に気づいてか門の方から数人の衛兵達がやって来た。



「おい!何をしている!」


「……何でもねぇ。列に並ぶのに疲れたから離れただけだ」



そうそうない言い訳だったからか、リーダー格の男の言葉に疑いの目を向けていた衛兵達だったけど……何かに気付いて面倒そうな顔をした。



「はぁ?そんなわけ……っ!お前ら"宝石蛇"か」



宝石蛇?何のことかしら?


そう疑問に思っていると、衛兵の1人が男達に言う。



「こんな所で騒ぎを起こすな、やりすぎると動かざるを得ない。装備からしてまだ下っ端だろ。だって誤魔化すよりはお前らを切り捨てる方を選ぶぞ」



その発言に男達は顔を見合わせ……再びリーダー格の男が口を開く。



「……チッ、わーってるよ。おい、俺達を先に通せ」



普通ならそんな要求が通るはずはないんだけど……衛兵は予想外の対応をした。



「……何か問題があったのは確かだろう。取り調べをするから全員ついてこい」


「ああ。おい、行くぞ」



衛兵の言葉に何の抵抗もせず、ゾロゾロと連行されていく男達。


その様子からすると……おそらく、男達の要求は通ったんでしょうね。


当事者である私が放置なのはいいとして、あの男達は何者なのかしら?


あんな要求を通せるぐらいだし、地位の高い人と何か関係があるのかも。




何者かと言えば、あの男達を締め上げたのも何なのかが気になるわね。


そう思って周囲を見回すと……面倒事を避けてか目を逸らす人達の中、同じようにそっぽを向いている、やけにキレイな装備の男が気になった。

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