第10話
あの後ルナミリアはあっさり飛び去り、彼女が去った後、魔力を節約しながら冬を越した俺はそのまま5年の時をこの森で過ごした。
当然ながら、彼女はあれから姿を見せていない。
まぁ、ドラゴンの寿命による時間感覚を考えると不思議ではないか。
そうして計10年を過ごした俺はおそらく15歳になっており、姿も5歳のときと比べるとかなり変わっている。
これなら、以前の俺を知っていない限りは俺だと気づかないはず。
季節は秋の中頃だ。
納税や商売などで通行人はそれなりに多いだろうし、そこに俺1人混じっていても不自然ではない……よな?
まぁ、この5年でまた魔力を貯めてあるし、旅をするのには困らない。
道中で魔石が稼げれば、より安定した旅ができるはずだ。
ルナミリアとの
服装や装備のデザインは、俺が知っている範囲での標準的なものを魔力で作成し、なるべく目立たないようにする。
10年前に見た物が基準なので、今の流行とはズレているかもしれないが……まぁ、その時は親のお下がりか流行的に遅れた物だから安く手に入れられた、とでも言うことにしよう。
荷物は森を出るまで、必要なときに必要な物を作成すればいい。
後は……西に向かうのは基本として、その経路が重要だ。
可能なら野営は避けたいので、人里があればそこで夜を過ごしたいのだが……真っ直ぐ西へ向かった場合、向こうから見ると俺は東から来たことになる。
東の方にある実家との繋がりを疑われる要素はなるべく減らしたい。
南北どちらかに進路を曲げれば、東からではなく、そのどちらかから来たと言い張れる……かな?
これから冬へ向かう時期だし、南方へ曲がるのが自然だろう。
なので、俺は森を出てから南西へ向かうことに決めた。
設置物を魔力に戻し、更地になった山頂広場を見回す。
10年か……現世では実家よりも長く住んでたんだよな。
この場所での知り合いはルナミリアだけだ。
10日ほどだが一緒に暮らし、
彼女が去ったのは俺のためでもあるし、再会を望んでいたようではあったよな。
あれから5年経っているので、いつ来てもおかしくはないと思っていたが……冬に入ると一人旅は不自然だし、そろそろ出発するべきだ。
まぁ、西に向かう事は知っているはずだし、用があれば向こうから来るだろう。
一応、目印を置いていくか。
そうして向かう方向に矢印型の錘を作成して置き、俺はその岩山から旅立った。
コンパスを片手に時折空へと上がり、進路を確認しつつ進むこと数時間。
遠くから魔石を感知し魔物に対応できていることと、15歳にしては十分な身長だからか順調に歩は進み、朝に出発した俺だが午後には森の外縁部へとやって来ていた。
食事と睡眠、それに適度な運動を大事にしていた成果かな?
森の外を望遠鏡で観察すると……人里や人の姿は確認できず、草原が広がっているだけだった。
近くに人里があればそれを避け、別の人里へ向かって避けた所から来たことにしたかったんだが。
まぁ、強いドラゴンがやって来る森なわけだし、近くに人里なんか作らないか。
しかし……見通しがいいのはちょっと困るな。
こちらから見やすいということは周囲からも見えやすいということなわけで、移動経路を隠したい俺には都合が悪い。
仕方ない、魔力の消費はキツイが魔鎧で姿を透明にして進むか。
5年間貯めた魔力があるし、空へ上がって背部をグライダーのような大きい翼に変形させて滑空すれば……距離を稼げて、浮遊での魔力消費も抑えられるだろう。
そう考えた俺は即座に実行し、気圧式の高度計で確認して測れる上限の上空5000m付近から滑空する。
最初だけ魔鎧を操作して勢いをつけると、その後は揚力で自然と飛行ができた。
もちろん、これは森で練習していたから順調に進んでいて、初回の練習では初速が足りずに一気に高度を落として焦ったりしたからな。
長距離を素早く、魔力を節約しながら進む方法として練習しておいてよかった。
それから暫く、気分的には快適な空の旅。
国境を勝手に越えたのではということが気になるも、関所などはなかったので気にしないことにする。
しかし、地上に影が出来ることを気にして姿は透明なままなので、魔力的には適当な所で降りたいと思っていた。
人里は既にいくつか越えているし、それなりに大きい町があればいいのだが……
冒険者への依頼を取り扱う"冒険者ギルド"は、村レベルの規模では設営されていないみたいだしな。
実家の村にも当然なかったし。
そこでふと気づいた……俺、金を持ってないな。
確か"祝音の儀"で町に入る際、入り口の門で金を払っていたはずだ。
実家を出るときはもちろん持たされていなかったし……そもそもこの辺りは実家がある国とは別の国で、実家のほうで使われていた貨幣がこちらでも使えるとは限らなかったが。
魔力で作成した物は"紛い物"と見破られたりすると贋金作りを疑われるかもしれず、それは面倒なので売って金を稼ぐわけにはいかない。
となると……普通に存在していて金になる物を調達して売るか、何らかの対価として金を貰うかだ。
前者なら魔物か採取物、後者ならその他の労働になるよな。
前者はこちらでの知識があまりないし、魔鎧のお陰で力作業は楽にこなせるので……入るのに金がいらない土地で何らかの仕事をして稼ごうか。
仕事があれば、だが。
そう考えて徐々に降下し、姿を現しても問題ない場所を探していると……街道に並ぶ数台の馬車がゴブリンに囲まれ、護衛らしき武装集団が応戦していた。
先頭の馬車を引く馬が倒れているので、それによって足止めされた隙に囲まれたようだ。
ただ、近くにある森は街道から少し離れていて、いきなり襲撃できそうな距離ではない。
遠くから攻撃できる敵でもいるのか?
森の外縁部に1体だけじっとしている魔石の反応があるな……コイツか。
透明なまま降下してその魔石の持ち主を確認すると、そこには弓矢を持ったゴブリンがおり、弓を引いて何かを狙っているところだった。
後ろから見る限り……馬を狙ってるな。
こういう頭が良く、道具を上手く扱う魔物は俺が住んでいた森でも偶に遭遇していた。
剣1つとっても、ちゃんと刃を立てているかでその結果は大きく変わる。
そこで弓を扱え、車列の先頭を狙うという策を講じることができるとなれば……コイツは魔物として相当知能が高い。
魔石の魔力が多いようだし、倒れている馬には1本しか矢が刺さっていないことから何か特殊な能力を持っているのかもしれないな。
……仕方ない。
見捨てるのも何だし、ちょっと加勢するか。
そう決めた俺は足音を立てないように浮いたまま接近し、引き絞られていた弓の弦をペンチ型のワイヤーカッターっで切断した。
プツンッ、ビョンッ!
「ギッ!?」
弦が切れ、その影響で跳ねた
慌てて周囲を見回しているが、俺は透明なままなので見つけることはできないようだ。
とりあえず……これで馬車の人達が射撃されることはなくたったはずだが、せっかくの少し良い魔石だし頂いておこう。
馬車の護衛達は装備のお陰か、3倍ほどの数だったゴブリンの集団を排除することができたようだ。
ただ、俺が倒した弓ゴブリンを認知しているのか、こちらを警戒したままである。
俺が彼らの馬を狙った射手だと誤解されては困るので、本物の射手であるゴブリンの死体と機能を失った弓を持って森から出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます