37 未来に辿り着くために

「その最初の竜が、星の竜、ですか?」

「うん。生命の源になった星の竜は、墜落しても死んでいなかった。地面の奥深くに潜って、眠りに付いた」

「死んでない?!」

「僕らの先祖は、間違って地面を深く掘りすぎて、星の竜を起こしてしまったんだ。そして竜の怒りで、地上は再び火の海になった。今と違って、当時の人間たちは巨大な都市を築き、今では想像できないほど豊かで安全な生活を送っていたらしい。でも、星の竜の怒りを買ったことで、滅びた。エファランでは、その歴史を語り継ぐために……カケルくん?」


 カケルは眉間を指で押さえた。

 エファランに来てから、生活に慣れるのに精一杯で、この世界の歴史を知ろうとしなかった。それは司書家ライブラを出奔した反動のせいもあった。歴史と名の付くものに触れるのを、無意識に拒否していたのだ。

 だが、世界の真実を知る手掛かりは、過去にあった。

 昔、教育係のリードが言った通りだ。

 未来に辿り着く手段は、いつだって過去の中にしか存在しない。


『いつまで長話をしている。星の竜の遣いである我を恐れるなら、早々に立ち去れ』

 

 枝に止まった白竜が、警告を繰り返す。

 カケルはそちらを見て、ホロウに聞いた。


「ホロウさん、白い竜は、星の竜に何か関係するんですか?」

「え?! そんな話は無かったような」

「ですよね」

 

 溜め息を吐く。

 そして、腹に力を込めて、白竜を……白竜の姿をした侵略機械アグレッサーを睨んだ。


「動くな。俺たちの仲間が、ここを観測してる。何かあれば、上空の竜がネムルートごと焼き尽くす」

『!!』

「白が神聖なのは、高天原タカマガハラの風習だよ。この世界の風習じゃない。そんな姿で、誤魔化して時間稼ぎしようとしても無駄だ」

 

 おそらく侵略機械アグレッサーは、エファランの民の間で崇められている星の竜を装い、混乱させようと企んだのだ。あわよくば、神のような存在だと誤解させて、エファランを乗っ取ろうと考えていたかもしれない。


『……お前は、何者だ。何が、目的だ?』

 

 白竜は警戒する気配をまとわせ、問いかけてくる。

 それにカケルは淡々と答えた。


「俺の先祖は、星の海を渡る天人たる自分たちを神になぞらえた。故郷の神話の一つを船団の統治に取り入れ、システムに高天原タカマガハラという名前を付けた。それを面白がったお前たちAIは、神たる人間と自分たちを対比して地祇クニツカミと名乗るようになった。お前たちの望みはただ一つ、仕えるにたる主人を見つけること」


 未来に辿り着く手段は、いつも過去の中にしか存在しない。

 であれば、忌避していた自分の過去、司書家ライブラリアンの元後継者だという立場を、目一杯活用するしかない。


『……』

「前置きが長くなったね。つまり、俺に仕えないか?ってこと」

 

 故郷の船団の情報を得るために、そして危険なこの世界で生き抜くために、カケルはこの機械を捕まえて自分のものにしたかった。

 飄々とした口調で提案すると、白竜は動揺したように身を震わせる。

 前置きでカケルの正体は分かっただろう。船団でも上位の権限を持つ人間だと。彼ら機械生命は、使い潰されるのであれば、より名誉な使い途を望む。

 分かりやすく言えば、目の前の機械にとってカケルの誘いは、下っ端から昇進するチャンスだった。

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