記憶の欠片

ゆるる

記憶の欠片

グラスの落ちる音。


私が落としたグラス。

彼は階段から落ちる。


私は彼を見つける。

彼も私たちを見つける。


明後日は私の誕生日だった。

その祝いを当日ではなく2日前にやっているのは、私にはもう1人の彼がいるからだった。

その日はもう1人の彼との誕生日会だった。


まさかここでバイトをしているとは思わなかった。

彼は私のために2日前になってもお金を貯めていたらしい。私に内緒で。


彼は立ち尽くして私たちを見ていた。

絵画のような、想像して描いたような顔をして驚いていた。

この先どうなるのだろう、彼に怒られるかな、浮気相手は何かされないかな、謝ったら許してくれるかな。。

私の頭には将来がよぎる。

厨房に戻ると、彼はもう接客の場には出てこなかった。


グラスが割れる。

器が壊れる。

赤色に滲んで行く。

破片が飛び散る。


そしてその欠片を私は拾った。

それが彼からの誕生日プレゼントだったのかもしれない。



あの日、彼は階段から飛んだ。

それが足を滑らせたではなく、飛んだ、とわかるのは、彼はより遠くに落ちるために荷物を下ろしていたからだ。


意識不明の重体と聞いた。


彼の自殺は確実に私が原因のものだ。

私はそこから彼の話を聞くのも嫌になった。

いつ死ぬかわからない。もし目を覚ましたら彼は私になんと言うだろう。

「お前のせいだ。」「お前なんか…。」

頭に彼の声がよぎった瞬間、猛烈な吐き気がした。


死んでほしくない。

私だって彼を愛している。


でも、もう一生目を覚まさないでほしいと思う自分もいた。


そして、私の誕生日当日に


彼は目を覚ました。











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