第57話

 羨ましそうなオーエンを無視してレッドが頷いた。


「ああ良いよ。もし遅いようならお前に任せる」


「ラッキー! キディさん、何番の方法が良いですか?」


 キディが驚いた顔をした。


「何番って? どういう意味?」


「いいから。1から5まであります。何番にしますか?」


「え……ええと……じゃあ3番で」


 スミスとキディ以外の顔が歪んだ。

 リアが眉をひそめながら言う。


「キディさんって意外と……スミスさん、絶対に逆らわない方がいいですよ」


 おろおろするキディを無視して話は進む。

 オーエンが真面目な顔で口を開いた。


「帝国はこちらの動きを掴んでますかね」


 レッドが肩を竦める。


「いや、レガートの噓を見抜けない程度の奴らだ。泥舟とも知らずに安心しているのだろうさ。偽物だとわかったらすぐに王弟が動く予定だ。時間を稼ぎつつメルダの皇太子を手中に収める。使える人間なら傀儡に仕立てるが、見込みがなければ……」


 スミスが何も言わず神に祈るような仕草をした。


「第三王子がすでに亡くなっていることは、影たちに報告させた。王は疑いもせずに信じたようだ。これでエスミス・メルダという青年はこの世から消え去った。後継を諦めた王は、わが身の安全を最優先させることにしたみたいだな。我が国への亡命を受け入れる代わりに、正妃と側妃を粛清せよという条件を出した。王は喜んでこの条件を受け入れたよ」


 リアが聞く。


「方法は? 1番ですか?」


「ああ、恐らくそうだろう。1番の毒殺が一番やり易い」


 キディが恐る恐る口を開いた。


「あの……1番が毒殺で2番は?」


「斬殺です」


「3番というのは……」


 リアがニヤッと笑った。


「ふふふ、キディさん。聞かない方が良いですよ?」


 ふらついたキディをスミスが支えた。

 そして話は進んでいく。

 

「問題はどのタイミングでキャンディの引き渡しをするかだな。鉱山の引き渡しが完了するまでは、身の安全を確保する必要がある」


レッドがキディの顔を見る。


「キャンディ、ホープスとスミスと一緒に王城へ入ってくれ。執事は私でリリアンヌは侍女だ。オーエンは騎士として、エマとリアはメイドとして同行する」


 総力を挙げた護衛体制だ。 

 キディに選択肢は無かった。


「よろしくお願いします」


 オーエンがふと声を出す。


「シルバー伯爵邸はどうします?」


 レッドがフッと笑った。


「キディ、何番にする?」


 キディが泣きそうな声で答えた。


「4番……」


 またしても全員の顔が歪んだ。

 スミスがキディの頭を自分の肩に寄りかからせる。

 

「……了解した。全力で遂行しよう」


 レッドが真剣な顔で約束した。

 その声を聞きながら、キディはギュッと目を瞑った。

 励ますようにエマが話しかける。


「王都に行けばリリアさんにも会えますね。マーガレット様もマーカス様もきっとお喜びになりますよ」


 キディは何度も頷くが、顔色はわるいままだ。

 スミスがレッドに聞く。


「私は姉に会う事ができますか?」


 レッドが一瞬黙ったのち、口を開く。


「やり通せる自信がある?」


「はい、必ずやり通します。それが一番の供養になると信じています」


「わかった。そのように手配しよう。信じるぞ、スミスさん」


 スミスが力強く頷いた。

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