第48話
領主邸に集まった村人達は、いつもの吞気な顔を捨て引き締まった顔をしていた。
「そういうことだから、全員でかかってくれ」
「了解です。教育が済んでいる子供を集めて教会に送ります。新館の老人保養所に年寄りを集めましょう」
「ああ、現役を引退したとはいえ、我が領の精鋭だった人達だ。心配はないだろう」
オーエンの声に全員が頷く。
ケインの横で右腕を擦っていた男が言った。
「俺はメルダの影と繋ぎをつけましょう。あそこの長は俺の教え子のようなものだ。あいつらに協力させれば情報操作もやり易い」
オーエンが頷くと同時に、その男が姿を消した。
「では俺は帝国の動向を探ってきましょう」
数人の男たちが消える。
「ではケインとルーラは領主邸を頼む。息子はエスポより少し大きいか?」
「背は少し高いですが、体つきは同じようなものです。髪の色は違いますがかえって好都合だ」
「よろしく頼む」
ケインが言う。
「あれ? いつものミッションスタートは言わないんですか?」
「ああゲッツセッツってやつ? 恥ずかしいよ。あれは親父が言うからサマになるんだ。俺のような若造が言っても滑稽だろ?」
「あれが無いと気合が入らねぇ。練習だと思ってやってごらんなさいよ」
オーエンが顔を顰めながら頷く。
「ミッションスタートだ。ゲッツセッツ!」
「ゴー!」
全員がそれぞれの仕事へと散った。
「なに顔を赤くしてんですか」
「だから~ 恥ずかしいんだってば~」
「慣れですよ、慣れ。キディさんが帝国に行くならレッドさんとリリアンヌさんも行くでしょう? あとはあんたが継ぐしかないよ?」
「そりゃそうだけど……俺は失恋したばっかりで傷心なんだよ。もっと優しくしてくれよ」
「一緒にいると気持ちが押さえられなくなるからって、王都に逃げてるような根性無しだもんね。そりゃ振られるさ」
オーエンが心臓を両手で押さえて蹲った。
キディのワンピースを着こなしたエマが階段を降りてくる。
「どうしたの? 心筋梗塞? それとも不整脈?」
ケインが答える。
「いや、失恋の発作だ」
「ああ、なるほど。そういう意味なら私も同じかな? だってオーエンが実の兄じゃないって知った時、嬉しかったもん」
ガバッとオーエンが顔を上げた。
「どういう意味?」
「そういう意味」
「いつから?」
「ここにいた頃から」
「マジで?」
「うん、マジで」
オーエンが再び倒れた。
ケインが倒れているオーエンの脇腹を爪先で小突き、ルーラが背中をバシバシ叩く。
明るい笑い声を残して、それぞれ厨房と二階にそれぞれ消えていった。
エマがオーエンの肩をゆする。
「ねえ、大丈夫? 旦那様」
「いや、待て。今は演技に集中できん。その言葉が俺の心臓を揺さぶってしまう」
「そんなことでどうするのよ。今夜から同じ部屋で寝るんだよ?」
「理性がもたんかもしれん。その時は俺を殴って逃げろエマ」
「キディって呼んで~ あ・な・た」
「お前……揶揄っているだろ」
エマがニヤッと笑ってオーエンの顔を覗き込んだ。
「本気よぉ~ 本気。じゃあ私は準備があるから。早めに立ち直ってねぇ~」
ロビーには、ポツンと正座をして真っ赤な顔をしているオーエンだけが残っていた。
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