異世界転生の女神のフリをした魔王

サトウミ

第1話

私は魔王・サタン。

数多の世界に干渉できる、全知全能なる存在だ。


私の趣味は専ら、人間達を不幸にする事だ。


借金地獄に落としたり、最愛の人を亡くさせたり。

人間を不幸にする方法は様々だが、最近はとある方法で不幸にするのにハマっている。

最近ハマっている手法、それは。


–––––転生の女神に化けて、転生者を騙すことだ。


女神から強力な力を授かって転生できるとなると、誰しもが歓喜し、希望を抱く。

「自分は特別な存在なのだ」と思わせ、希望と期待を胸に転生させた上で、果てしない地獄を味わわせる。

それが堪らなく面白いのだ。


私は早速、女神に化けてターゲットを探した。

とある世界で交通事故により死んだ男。

今日はコイツをターゲットにしよう。


私は死んだばかりの男の魂を、私の目の前に召喚した。


「あれ?ここは....?僕、交通事故で死んだんじゃ...?」

「申し訳ありません、木崎悠真様。」


私はあえて、謝罪とともに男の名を呼んだ。


「あなたは...?」

「私は、数多の世界を管理する女神です。」

「え?女神様、ですか?」


「はい。あなたは本来、あの事故で死ぬ予定ではありませんでした。しかし私がミスをしたせいで、あんなことに....。本当に、申し訳ありません。」


私は男に頭を下げる。


男が死んだのは、もちろん彼の不注意が原因だ。

だがあえて「私のミスによって死なせてしまった」とすることで、「お詫びにあなたにチート能力を授けます」と言っても疑うことなく能力を受け取ってもらえるようになる。


チート能力を授ける口実がないと「こんなうまい話があるわけがない。何か裏がある。」と変に勘ぐられてしまう。


「いえいえ、女神様のせいではありませんよ。先程の事故は完全に私の不注意です。ですので顔をあげてください。」


随分、物分かりの良い男だ。

私は男の言う通りに顔をあげた。


「いえいえ、先程の事故は完全に私のミスによるものなのです。ですのでお詫びをさせてください。私は転生を司る女神。なので木崎悠真様が望む能力をいくらでも授けた上で、転生いたします。」


「....そこまで仰るのでしたら、ありがたく受け取ります。」


素直な男だ。

お陰でスムーズに話が進む。


「それでは木崎悠真様。あなたが望む力を教えてください。流石に世界を一瞬で消し去るような、強力な力は授けられません。ですが、大抵の能力であれば授けることが可能です。」


「その前に、女神様にお聞きしたいことがあります。」


「何でしょうか?」


「僕が転生する異世界は、一体どのような世界なのでしょうか。」


前言撤回だ。

この男は面倒くさい。


「申し訳ありません、断言することはできません。世界は木崎悠真様がいらした世界以外にも、沢山ございます。ですが、私は女神としてはまだまだ未熟な半人前。数多ある世界から、転生先の世界を決める権限までは与えられていないのです。ですから、木崎悠真様が転生する世界は完全にランダムになります。」


実際には転生する世界を選べる。

しかし、男に授ける能力を踏まえた上で転生させる世界を選ばないと、最悪チート能力で幸せになってしまう可能性がある。

だから先に、授ける能力を男に決めてもらいたい。


「でしたら、魔法が存在しない世界に転生する可能性もあるのでしょうか?」

「可能性としては、あります。」


「だとしたら、下手に強力な能力を授かったら、魔法のない世界に転生した時に化け物扱いされそうですね。かといって魔法が当たり前の世界や、治安の悪い世界だと、強力な魔法があった方が良いでしょうし。」


男は、ぶつくさと呟きながら長考しだした。

ややこしいことは考えずにさっさと決めろ、と言いたくなるのを堪えて、男が喋り出すのを待つ。

男はやがて、思考がまとまったのか、口を開いた。


「でしたら、

『平均寿命になるまで死なない能力』

『病気や状態異常を無効化する能力』

『肉体がピーク時から衰えることのない能力』

『肉体が傷ついたり欠けたりしても、すぐに再生される能力』

の4つをください。」


意外と欲張るな、この男。

しかし男が望んだ能力は、どれも地味だった。

他の人間であれば、やれ炎だの氷だの雷だの、自然現象を操れる能力を望んでくるところだ。


「なぜ、その4つの能力を選んだのでしょうか?」

「この4つでしたら、どんな世界であっても恩恵が受けられると思ったからです。魔法が全く存在しない世界でも、この4つであれば誤魔化せますし、それなりに恩恵が受けられます。逆に、治安が悪かったり魔法が必須の世界であれば、4つの能力が存分に効果を発揮すると思います。」


なるほど。

小賢しいことを考える奴だ。


男の選んだ能力から、転生させる世界を考える。

.....決まった。

ここが相応しい。


「かしこまりました。では今から、木崎悠真様の仰った4つの能力を授けた上で、異世界へ転生いたします。」

「はい!女神様、ありがとうございます。」


こうして男は、とある世界へと転生した。



◆◆◆



男が転生した世界は、常に人間と魔族で争っていた。


魔族の主食は人間であり、他の生き物で代用できないため、自ずと人間と魔族は対立するようになった。


そんな世界で男は、「魔族殺し」の英雄の息子として生を受けた。


「さすがは俺の息子だ。立派に育ったな。今日からお前も一人前の戦士だ。」


男は父親に鍛えられ、世界有数の剣豪へと成長した。

父親は男に「その力で魔族を根絶やしにして欲しい」と願った。

しかし男は、魔族と戦うことに懐疑的であった。


「魔族が人間を襲うのは許せない。

でも彼らだって、人間を食べないと生きていけないから襲ってくるんだ。人間が他の動植物を食べないと生きていけないのと同じじゃないか。

それなのに、彼らを悪と決めつけて殺すのは、間違っている。」


男は、前世の価値観を引きずっているからか、甘いことを考えていた。


「人間だって、魔族だって、大切な家族がいるのは同じだ。戦争したくない気持ちだって同じはずだ。彼らと話し合えば、争わずに済む方法が見つかるはずだ。」


そんな方法があれば、とっくの昔に人間と魔族は和解している。

そんな考えに至らないほど、男は愚かなようだ。


「人間と魔族が、争わなくて良い世界を作ってみせる!」


男は無謀にも、前世の世界のような平和を、本気で作ろうと考えていた。




そんな彼であっても、国の命令には逆らえず、魔族との戦争に駆り出されるようになった。

そして運悪く、男は捕虜になってしまう。


「この男の腕は、太くて美味しそうだ。片腕を斬るだけであれば死なないし、仮に死んでも捕虜だから問題ないだろう。」


そう考えた一人の魔族が、男の腕を斬り落とした。


「ゥアアアアアア!!!!」

男の断末魔の叫びが響く。

しかし、腕を斬り落とした魔族は気に留めることなく、落ちた腕を「美味い美味い」と貪る。

そしてついには男の腕を完食した。


魔族は食べ終わって、再び男に視線をやる。

すると、なんと男の腕は、何事もなかったかのように生えていたのだ。


魔族はもう一度斬り落とす。

すると、しばらく経つと男の腕がまた生えてきた。

男に授けた能力の一つ『肉体が欠けてもすぐに再生される能力』によって、男の腕は何度斬られてもすぐに再生される。


その事に気づいた魔族は、すぐさま魔族の王にその事を知らせた。

奇怪な男の話を聞いた王は、「その男を家畜化させれば、食料供給が安定する」という結論に至った。


その日を境に、男は毎日、何度も何度も四肢を斬られるようになった。


男は斬られる度に、獰猛な獣のような悲鳴を上げた。

男の断末魔のような叫びは三日三晩続いたが、男が正気を保てなくなったのを境に、叫びはピタリと止んだ。

男はその後、人間の国へ帰ることはなかった。


斬られた男の四肢は、魔族達の食糧として支給された。


男の肉体は、鍛えられているからか、魔族達にとっては最高のご馳走になった。

鍛えることもできず、毎日四肢を斬られる拷問を受けているにも関わらず、男の肉体は衰えることはなかった。

これも全て『肉体がピーク時から衰えることのない能力』のお陰だろう。


魔族にとって男は、理想の家畜だった。


魔族の王はすぐさま、捕虜にしていた人間の女を使って、男の子種を増やした。

すると男の子供は皆、一人残らず男と同じ能力を全て引き継いでいた。

それらの子供を使って更に繁殖させた結果、魔族が人間を狩る必要がないくらい、食糧自給率が高くなった。


その結果、魔族は人間と争う必要がなくなり、長年の戦争に終止符が打たれた。

奇しくも、男が望んだ『人間と魔族が争わなくて良い世界』を、男自身が作り出したのである。


めでたし、めでたし。



◆◆◆




嗚呼、愉快愉快。

男が家畜に成り下がるさまは、傑作だった。


さて、次は誰を転生させようか?

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