白い粉雪にありがとう

十六夜 水明

第1話 無機質な都会

 サッ───。

 手のひらの上で、何かが溶けた感覚があった。目をやると、1つの水滴。少し大きく感じるその水滴には、鏡のように自分の顔が映し出された。

 あぁ、疲れてる顔。

 目の下には慢性の隈がうっすらと浮かび上がり、口角が少し下がっていて心身共に疲労が溜まっているのが目に見える顔がそこに在った。雪か? そう思い周りを見回すが、雪、ましてや雨すら降っていない。気のせいだったらしい。


 歩きながら見えるのはあまり温もりを感じることが出来ない物ばかり。

 都会ならではの、無機質なビル群。駅から出てくる足早な人々。鈍い灰を散らしたような空。

 都会と聞いて、とても煌びやかな場所のイメージが強いが実際はそんな事はない。それは、一部の恵まれた人だけが見れるのだ。

 しかし人は、1度経験しなければ分からないのだ。『自分がその一部の恵まれた人ではない』ということを。


 私も、その馬鹿な1人だった。

 きっと、ここに来れば自分だって何かで成功するかもしれない、有名になれるかもしれない、そう慢心していた。だが実際は、そんな夢は都会の喧騒の中に塵のように消えていったのだ。


 今歩いている駅前の通りだってそうだ。人が多くて活気があるように見える。が……よく観察してみると大半の人々は疲れた顔をしている。日々の暮らしに疲弊しているのだ。

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