星光街アキラ画報 vol.4

第4回 編集会議 20X2/01/06




 熱っぽい眼差しで 晶がこっちを見つめている。


 

「……こんなこと なっちゃったの こー汰のせいなんだから……」



 囁くような小さな声で 晶が僕を責める。

 こんな時でも 攻撃的な口調。

 晶らしいなって思う。


 僕も 晶を見つめ返す。

 自分でも 自分の眼差しが熱っぽいって分かる。

 晶の潤む瞳を見つめ僕も 晶に何か言葉を返したい。


 その気持ちは あるんだ……あるんだけど どんな言葉も出てきはしない。

 


 なぜなら 喉が死ぬほど痛いから。

 僕の現在の体温は38.4℃。

 晶は38.6℃。


『ハン…。私の方が 高いわ。私の方が重病人ってことね……』って さっきの検温の時 晶が謎マウント取りにきたけど ホントどうでもいい。


 今 僕と晶 そして 付き添いの若菜さんは クリニックの待合室。

 新年早々 2人同時に風邪をひいたみたい。



「加賀谷 光汰さーん」



 受付の爽やかなお兄さんが 僕を呼ぶ。

 恨めしそうな晶の視線を背中に感じながら 診察室へ向かう。

 こういう時の順番ですら 勝ち負けに拘るからな……。




 診察室へと入ると 長い白衣に淡いベージュのスラックス そして エナメル質の黒いピンヒール姿の女医さんが 椅子をくるりと回しこちらを向く。

 


「どうしたのかしら?」


 

 毛先まで艶やかな銀髪の美女が 長い脚を軽く組み 微笑みながら尋ねてくれる。

 優しい声を 聞いているだけで癒される気がする。

 喉は痛いけど 頑張って答えよう……。





 ~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~




 それから 5日が経ち 僕も晶も やっと調子を取り戻してきた土曜日の午後。

 いつものように 昼食の食器を流しに運んでいると 若菜さんが言った。



「ゴメン。ちょっとお願いがあるんだけど いいかしら?」



 若菜さんのお願い?なんだろう? 僕にできることかな?



「今日 晶の誕生日でしょ。ケーキ予約してあるんだけど ちょっと手が離せなくて。悪いんだけど 引き取って来てくれる?」


「うん。わかった。どこのケーキ屋さん?」


「この間 診てもらったクリニックあるでしょ? あそこの隣のレゼルってお店。晶と一緒に行って来て」


「えーっ。何で 私が 自分のケーキ取りに行かなきゃなんないワケ?」



 晶は 口を尖らせて あからさまに不満そう。



「そう言う思ったわ……。あのね あきらちゃん。あのお店 ホテルの一流パティシエも一目置く隠れた名店らしいの。お休みも不定期で なかなか取材できないお店なのよぉ? そろそろ第4号の取材の時期でしょ?ちょうど いいと思うけどね~」



 晶の大きな瞳がクルクルと回り始める。

 さすが母親。娘のやる気スイッチの場所 しっかり把握済み。


 

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