海外旅行で病院送りになった話
丸毛鈴
第1話 はじまり
これから書くのは、コロナ禍前、ベトナム・ダナンに行ったとき、体調を激しく崩し、現地の病院に一泊入院したときの体験談。
以前、ここカクヨムで「ダナンの長い夜」というタイトルで公開していたものの改稿版です。
海外旅行が一般的なものとして戻ってきたいま、どなたかの参考になればと思い、加筆修正のうえ、再公開いたします。
***
時刻は午後7時。目に入るのは、清潔に磨きあがられたバスルームの床、そして便器。
――ああ、新しめのホテルにしておいてよかった。
便座にもたれ、額に流れる脂汗をぬぐいながらそう思ったのもつかの間、激しい胃の痛みに襲われ、わたしは嘔吐した。
何度目だろう。もう胃液しか出ない。吐くたびに胃の痛みは増していく。
――これはダメだ。
数時間内によくなることは見込めない。そう判断したわたしは、文字通りバスルームの床をはって進み、部屋にいた夫に向かい、「旅行保険会社の窓口に連絡してほしい」と息も絶え絶えにお願いした。
このとき、わたしたち夫婦は夏季休暇を取り、3泊4日予定でベトナムのダナンへ来ていた。
体調不良になるまで、何があったのか? 時系列を追っていこう。
1日目
夜にダナン着。
夕食:ホテルの隣にあるローカルな海鮮レストラン。
貝のレモングラス煮、えびのBBQ焼きなど。
2日目
朝食:ホテルのバイキング。フォー、フルーツなど。
ミーソン遺跡へのツアーへ参加。さえぎるものがない遺跡はめちゃ暑い。
昼食:ツアーに含まれる昼食。生春巻きや牛肉とナスのオイスター煮など。生ものはフルーツぐらい。
古都・ホイアン散策。日差しが強い。カフェで休憩し、ベトナムコーヒーやスムージーを飲んだ。
夕食:有名店で、揚げワンタン、ホワイトローズなど。
3日目
午前4時 仕事をしながら、前夜ホテルのカフェで買ったチョコクロワッサンを食べる。
午前8時 朝食:ホテルのバイキング。フォー、フルーツ、パンケーキなど。
午前10時半 ダナン市街へ。この日も日差しが強い。カフェでお茶。フルーツティーを飲む。
午後12時 昼食:有名バインセオ屋で食事。とても美味しかった。ドリンクはコーラ。ここのバインセオは、米粉生地をクレープのように巻き、そこに生野菜や香草、豚肉の炒めものなどを巻いて食べるもの。わたしは生野菜も挟んで食べた。
コーラは氷入りコップと供に提供され、わたしは食中毒をおそれ、缶から直接飲んだ。夫は氷入りコップについで飲んだ。
バインセオには豚のつくね串が5本ほどセットで付いてくるのがこの店の仕様。好きなだけ食べ、食べた本数の料金が請求される。たいへん美味しいのだが、客が手を付けなかったつくね串は使いまわししているのではないかなあ、と一抹の不安はあった。いや、手を付けていなかったらいいのか。
14時 ホテルに戻る。プールへ入るが、なんとなく体がだるい。
16時 ビーチへ。体調はいよいよ微妙。貧血気味なのかなと思う。夫だけ海へばちゃばちゃと入っていくのを浜から見送る。ベトナムの砂浜は、波打ち際で筋トレする男性、ローカルのおっちゃんふたり、中国人の家族連れなどが入り乱れており、夫が男ひとりで海へ入ろうが、わたしがひとりでぼーっとしていようが、変な目で見られることはなく、気楽。
17時~18時 ホテルに戻る。1時間ほど眠り、起きるとからだがぞわぞわした。やがて胸がむかつき、バスルームに駆けこんで嘔吐。一度吐いたら止まらなくなった。途中、夫に夕方予約していたホテルエステの解約をお願いする。
19時 1時間ほど嘔吐しつづけ、吐くものを吐いたが、治る気配がない。夫に旅行保険会社の緊急窓口に電話するようお願いする。これが冒頭のシーン。
連絡する先を旅行代理店にしなかったのは、19時だとオフィスは閉まっているから。開いていたとしても、医者にかかるなら最終的には保険会社に連絡することになると考えたのだった。また、フリーツアーだと代理店はあまり頼りにならない印象がある。
自室で回復を待たなかったのは、寝れば治るとはとうてい思えなかったから。海外旅行先でお腹を下したことがある人複数から、「勇気を出して医者にかかり、薬をもらったら一発で治った」と聞いたことがあった。
医者にかかれば、一錠で一発すっきり、明日の帰国便も安心安心! このときは胃液を垂れ流しながらそんなふうに考えていた。
ダナンの夜は、まだまだはじまったばかり。
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