クリスマスの花火

高峰一号店

第1話

 昭和時代のある一家のお話。


 その家は、貧乏人の子沢山で、クリスマスでも、ショートケーキ1つしか買えなかった。それを平等に分けると、1人の分け前なんて、ひと口だけだった。


 子供たちが、少し大きくなったとき、ケーキを前にして次兄が言った。

「俺は、一生に一度くらい贅沢がしたい。こんな小さなケーキを分けて食べるより、クジで1人だけ決めて、その人が全部食べることにしないか?」

 みんな賛成した。


 長兄がクジに勝った。でも長兄はすぐにケーキを食べようとせず、こう言った。

「みんなジャンバーを着て。それで、空き地に行って待ってて。俺もすぐに行くから」

「なんで?」

「兄ちゃん、早く食べればいいじゃん」

「まあ、いいから、いいから」

「???」

(自分がケーキを食べるところを、みんなに見られたくないのかな?)

 弟妹たちは長兄の真意を計りかねたが、いつも兄弟姉妹のことを考えてくれる優しい長兄だったので、言うことに従った。

 外はもう暗くなっていた。


 弟妹たちが空き地で待っていると、長兄が遅れてやってきた。

 長兄は小さな箱に入れたケーキを地面に置いて、こう言った。

「ケーキなんて、独り占めするだけが贅沢じゃないぞ。みんな、ちょっと離れてろ。これから、爆竹でケーキを吹っ飛ばすから」

「えっ、もったいないじゃん!」

「やめてよ、兄ちゃん」

「まあ、いいから、いいから。見てろよ〜」


 長兄はマッチを擦って火をつけ、ケーキの箱に投げ入れた。箱の中には爆竹の束が入っていた。

「バンバンバンバン」

「バチバチバチバチ」

 爆音とともに、ケーキは吹き飛んだ。白いクリームがみんなの足元に飛び散った。火薬の臭いに、甘い香りが混じって、辺りに漂った。


 兄弟姉妹の半分は、あまりのもったいなさに、声高に抗議した。でも残りの半分は、長兄を褒めた。

「花火みたい。ああ、すっきりした!」

「なんか、雪が降ったみたいだね」

「ドリフのコントみたいだね」

 興奮して目を輝かせていた。


…完…

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クリスマスの花火 高峰一号店 @takamine_itigouten

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