第6話
――やってやる!
「だぁあああーーー」
一番突出している獣魔へと駆け出し、木刀を叩きつける。
その獣魔が黒く
足で大地を噛みしめ、再び掛け声と共に二撃目を繰り出す。
『ドン!』
鈍い音と共に木刀の動きが魔人の脇腹辺りで止まる。
「くっ!」
悔しがる間もなく、残っていた片方の獣魔も襲い掛かってくる。
咄嗟に後ろへ飛びのけ今一度に間合いを取る。
――さすがに魔人となると結界内でも強度があるか……
優は考える。
けれども、それをどうやって生み出せば良いのか考えるほど、動きに迷いが生じてしまう。
――強力な一撃をあたえるためにできること
今、一瞬でも強くなりたいとおもうその気持ちへ、いつの日だったか誰かに言われた言葉が彼の心に呼び起されてくる……
『僕が強い理由? 人は誰かを守りたいと想うほどに強くなれるんだよ。大好きな優を守って、また優に会いたいと想うから僕は強くなれんだ』
誰であったか、いつであったか、それは想い出せなくても、その言葉だけは優しい声と共に彼の心にはっきりと想い起こされた。
――そうだ! 俺が守らないで誰が守る。最強の武器はいつもここにある!
優は心に熱いものを感じ、それを勇気に変えながらに上段の構えを取ると、相手に駆け出し、地面を蹴り上げた。
「うぉぉぉぉ!」
魔人の頭へと
その一撃が打ち込まれると、魔人が黒く霧散し始める。
「よし! もう1体は……」
そう思ったが確認する必要はなかった……魔人を倒した
木刀を構えるための間合いがない。優は右足で獣魔を蹴り距離を取るため後ろへ飛んだ。
だが、地面におもわぬ段差があり着地を失敗し転倒すると、木刀が手から離れ転がっていく。そして無防備となった優に飛び掛かる獣魔……
――必ず、会うって約束をしたんだ!!
優は一か八かの拳を繰り出そうとした。
先ほど想い起した人に再び会うために……渾身の一撃であった。
しかし、その一か八かの拳撃が当たる前に目の前の獣魔は霧散した。
「……!?」
突如に獣魔が消え、何が起きたのだと驚く優であった。
目を凝らして霧散した獣魔の向こう側を見ると、そこにはさやかが立っていた。
その手には弓が構えられている。そして、その弓から放たれた矢が獣魔を
「師匠!」
そう叫びながら、弓道着姿のさやかが駆け寄ってきた。
「遅くなりました!」
さやかがいつものように元気に言う。
無事でいて欲しかった。でも少し複雑な気持ちもあった。そんなモヤモヤをこのいつもの元気な声一つが吹き飛ばしてくれる。
「ありがとう、さっちゃん」
優は彼女へ笑顔を向けると、足元に転がっていた矢を拾いながら立ち上がり、さやかへ渡した。
――この矢は…………
矢を拾った優は、素材はもとより、その矢が通常の矢でないことを感じた。
不思議そうな顔で矢とさやかを交互に見る優を、遅れたことへの不信感かと思ったさやかは、バツが悪そうに言った。
「もっと早く来られたら良かったですが、着替えにも時間がかかってしまって……」
「ううん。さっちゃんの弓道着姿は今日も似合っているよ」
自分を助けに来てくれた恩人に正直な胸の内を伝えると、うつむいているさやかの顔は明るくなった。
「その矢は、
「ええ、そうなんです!
「なるほど。京子から贈り物であれば心強いね」
「はい! 師匠を全力で支援します!」
優の同級生で弓道部員である京子は
そして、さやかを弓道着に着替えさせたのも破邪の力を強めさせるためでもあった。
「さっちゃん、来るよ!」
優は、友人たちがそれぞれに全力を尽くしていることを知り、気持ちを奮い立たせると、自分たちへ向かってきているさらなる獣魔たちに体を向け直す。
さやかも優のかけ声にうなずき獣魔の方へと顔を向け弓を構える。
「なっ!」
優がおもわず驚きの声をあげる。
最初5体ほどで群がっていた獣魔だったが、そのうちの3体が1体に吸収されるような形で、その1体はその分に大きくなる。
「師匠、残りの1体を射ます!」
さやかは弓に矢をつがえ、残った小さい1体を射抜ぬく。
「まさか!」
優が再び驚く。彼女が射抜いた後に黒く霧散したことは同じであったが、その黒い霧も吸収されていく。
「さっちゃん、後ろに下がって
優は、さやかを後ろへ下がらせ拾い上げた木刀を構えた。
足の裏全体で地面を噛みしめる。そして、その全体を使って地面を蹴り相手へ突進する。
今度の獣魔は結合して大きくなった分、背丈が高くなっている。
今までのように飛び上がり頭上へ木刀を振り下ろすことは難しい……
――ならば!
優は、駆け出した勢いをそのままに、獣魔の顔面に向かって突きを放つ。
「グゥゥゥゥゥ」
獣魔がうなり声を上げる。
――効いたか?
うなり声を聞きながら立ち止まった獣魔を見上げると、
「師匠!」
立ち直った獣魔が腕を高く上げ優にカウンターを入れようとする。
同時にさやかが声を上げ、すぐさま弓を構えたが、さやかはその構えをおろした。
矢が味方に当たると思ったからだ。
ただ、それは優にではなく…………
「せぁぁぁぁぁぁ!」
鋭い声と共に切り込んで来た
将也の一撃がその獣魔の胴に入り、そのまま切り裂いていくと、切り抜き終えた将也の後ろで獣魔が霧散していく。
「優!」
将也は優が無事であることを確認し安堵した顔を浮かべる。
その手には優と同じく木刀が握られていた。
「将也…………ありがとう」
優もまた親友の無事の姿を見て安堵した。
「遅くなったと思ったが、邪魔だったか?」
将也はさやかをチラ見したあと優の方へほほ笑んだ。
「(余計な事言うなよ!)」
そう言いたいのをこらえたが、表情がそれを語っていた。
――やっぱり邪魔だったか…………
冗談半分に申し訳なさそうな顔をしながら、優の肩を叩き、お互いに拳を合わせる。
幼少の頃から共に過ごし、剣術を学び、誰よりも一番に信頼している友人、そんな親友と無事に会えたことが、この状況で一層に勇気となり力となる。
『お前と一緒なら!』
優と将也は共にそう想いながら、獣魔の方へと駆け出すのであった。
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