第4話
――これから
入口に向かうにつれ、一層に物音が強まって来る。恐怖など抱く暇もなく、
「私も全力で守ります」
「みんなと戦えることを誇りに想う!」
想いが勇気を宿し、勇気が記憶を呼び起こし、記憶が力を目覚めさせる。飛勇は走る速さをさらに加速させ、一気に入口を出ると彼の目の前に太陽の光が差し込んだ。
視界が広がり、戦いの状況判断をしようとした瞬間、目の前で倒れた若者へ
「させるかぁぁぁ……」
全力で駆け寄り、その勢いのままに背負っていた武器を突き出す。それが獣魔に突き刺さると一瞬で黒い霧と化していった。
その武器とは、
国旗や県旗などの象徴的な旗竿は、特殊な素材で作られ破邪の効力を持っていた。そのことを知っていた飛勇が、その旗竿を対念魔の武器として目を付けたのである。
「大丈夫か!」
すぐさま倒れていた若者に近寄り、その手を取り引き起こす。
「
飛勇に助けられた若者の名を叫びながら、別の若者が駆け寄ってくる。同じ制服から、どうやら彼の友人であるようだ。
「…………」
友人の安否を確認するその若者を見ながら、飛勇は何かを耐えるように歯を食いしばると、真弥と宗太郎の無事を確認するため二人の方へ顔を向けた。
父親の勇ましい姿を見た宗太郎からサムズアップをもらい、真弥とは目でうなずき合った。
「
「……
二人の若者は飛勇へ歩み寄り頭を下げた。
「
――第一声にお礼と自己紹介とは…………立派になったね
飛勇の優を見る目は、戦いの後とは思えないほどに穏やかであった。彼らの制服から近くにある滝山高校の学生であることが分かる。そして戦える強さを持った若者たちであることは記憶を返すまでもなく一目瞭然だった。
「
「200メートルほど正面から50程度。左右には見えない」
優が建物の屋上にいる同級生の智へコネクトの無線機能を使い問いかけ、すぐさま状況の確認をしている。
――配置も連携もしっかり取れている。だとすると自分の役割は……
飛勇は、この若者たちと連携を取るためには、彼らが自分たちのペースで戦えるようにしなければと留意する。
また、優や将也の衣服の乱れを確認し、特に将也の服の乱れがひどく、彼が前衛で戦い続けていることが分かると同時に、疲労が蓄積されていることも心にとめた。
彼らのペースで戦いながらも、負担を軽減させること。飛勇はここでの自分の立ち位置をそう結論づけた。
『誰かと連携を取るときは、こちらの理解を促す前に、先ずは相手の理解に努めること、それをお互いにできれば連携がしやすい。それが初めて連携を取る相手ならなおさらにだ。そしてそこに上下はない』
そう考えながら飛勇は、一緒に戦うことになる優たちや状況を静かに目で確認した。
「優さん、戦いの陣形とかありますか?」
「陣形ですか? 二人が前衛で念魔を引きつけ、後衛が弓で援護しています。あとは屋上にいる智の情報を聞いて、俺が指示しています」
「了解です。それじゃあ、僕にも遠慮なく指示してください」
「良いのですか? 俺よりも、桜花さんの方が……」
優の言葉が単なる気遣いであれば良いが、そうではなく自信なさげに聞こえる口調に、将也が顔を曇らせながら飛勇を見た。その視線に飛勇は口元をゆるませると、
「君のような勇敢な若者に指示を出してもらえるなんて、むしろ光栄だよ。それに、君の友達の力を100%発揮できるのは君しかいない。それに、まあ、こっちが本音ですが、息子の前なので少々格好つけたくもあるのです」
「あはは。分かりました。それでは早速一つ指示をさせてください」
「ええ、もちろんですよ」
「自分の事は『優』で良いです。それと敬語は抜きでお願いできますか」
「分かりまし……分かったよ、優。じゃあ、僕も『飛勇』は……言いにくいか、まあ、『ひぃ』でもなんでも良いよ」
優は一瞬眉を動かしたが、すぐに笑顔でうなずき返すと、前へ歩み出しながら、仲間たちへ状況や飛勇のことを伝え始めた。
彼の後ろについていきながら、飛勇は隣を歩く将也に小声で話しかけた。
「将也さん、切り込み担当の我々には『指示役』は荷が重すぎますな」
「ええ、まったくです。面倒くさいなんて思ってないです」
将也も本音を言うと、二人から笑い声が起きる。
「それと俺も『将也』で良いです。『さん』を付けられると違和感半端ないです」
「あはは、それはそうだ。了解、将也。改めてよろしく」
会話と共に互いの拳を交わすと、目の前に迫ってくる獣魔に気を引き締め直す。
「優、獣魔との距離が100メートルを切った。数は6,70程度……人の形をしたものも数体いる」
智の声が響いた。ここからは本格的な戦闘が始まる。見越していた通り人魔もいる。一緒に戦うと決まったその時から全員が仲間であり、真弥と宗太郎と同じように指一本たりとも触れさせないと気持ちを高める飛勇。
「優、将也、君たちとこうして戦えること嬉しく想う。苦しくなったら、いつでも僕の名前を呼べば良い。どこにいようと必ず駆け付ける」
「はい!」
二人から元気な返事が返ってくる。高校生離れした剣術を持つ二人でも、ここまでの実戦は初めてであった。戦闘時における精神面は未だ高校生そのものである。
飛勇が来てくれたお陰で、絶え間ない念魔の猛攻が彼らに絶望を植え付ける前に、再び戦う勇気を取り戻させてくれた。
――さあ、行こうか。優!
いよいよ念魔が目の前に差し迫って来る。飛勇は心の中でおもいっきり叫び、宗太郎と真弥に「大丈夫!」と言わんばかりにVサインを送ると、槍を構え前傾姿勢になる。
「優、将也、獣魔が門を超え、広場に入ってきたら自分が先に突撃をかけたい」
「了解です。あのポールよりこちら側が援護射撃の範囲となります」
「分かった。援護の邪魔にならないように気をつけるよ」
飛勇は優が示した50メートル先にあるポールの位置を確認し息を整えた。
「念魔が門に入る!」
「構え!」
智と優がそれぞれに声を張り上げる。
最初の獣魔が門を超えた瞬間だった……
「桜花飛勇、参る!」
飛勇がかけ声と共に電光石火のごとくに突撃し、先頭の獣魔に渾身の突きを放つ。
衝撃音と共に先頭の獣魔、左右、その後ろ5,6体がまとめて後ろに吹っ飛ぶ。
「滝高の勇気と共に!」
突き出した槍の勢いをそのまま遠心力とし回転させ薙ぎ払うと、さらに獣魔が吹き飛んでいく。
一連の動作が終わり立ち止まった飛勇へ、正面、左右の獣魔が一斉に襲い掛かる。
「させるかぁぁ!」
さきほど助けられた借りを返すかのように、将也が左翼の獣魔に切りかかる。
――良い動きだ!
飛勇は将也に左翼を任せられると判断し、正面の迎撃に入る。
「くっ!」
だが、2度目の薙ぎ払いは踏み込みが甘く、正面の念魔は吹き飛ばしたが、右翼を払うまでに至らない。
――もう一度、後ろに下がり突撃の勢いをつけたい……
飛勇がそう思うやいなやであった。
「ひぃ、スイッチ!」
優が掛け声と共に突撃し、飛勇はそれに合わせて後ろへ下がると、今度は優が目の前の獣魔を叩き切る。
――叩き切ったのは1体だが、その後ろまで
優が一撃で数体を倒した攻撃を理解する間もなく、飛勇はすぐさま次の一撃に集中すると、
「智くん!」
屋上にいる智へ叫び、もう一度突撃するために、前傾姿勢になるところを彼に見せる。
「優、将也、3秒後に後ろへ下がって!」
智は飛勇の構えを見た瞬間に何をしたいのか即座に理解し、優と将也が巻き込まれないように指示を出す。
――100点満点だ!
これまでの優と智のやり取りで、智には相当な戦況の理解力があることを確信していたが、自分の意図を完全に組み取ってくれた智に感謝すると同時に、どんどん闘志が燃え上がってくる。
――こんな、素晴らしい若者たちにかすり傷一つ付けさせるものか!
後ろへと
「…………」
飛勇は優とすれ違う際に彼へ何かをつぶやくと、突進の勢いのままに再度一撃を繰り出し、その強烈さに数体がまとめて吹っ飛んでいく。
しかし獣魔の陣形が横へと広がりを見せているため一撃で
――鼻から目標は左翼のみ!
左右の獣魔を同時に槍で薙ぎ払うことは無理だと
加えて左を払ってから、再度、右に攻撃をすれば良いと考えてもいる。
「ひぃ、そのまま左へ広がって!」
優から左に展開するように指示が入り、反射的に左へと展開したが、右翼の獣魔が完全に自分の攻撃範囲から外れてしまった。
「右翼、突破!」
右翼の獣魔が突破することを見越した飛勇が声を上げる。
だが、獣魔が戦線を突破することはなかった、その右翼へ一斉に矢が放たれたからだ。
その矢は3階建ての建物の屋上から、優たちと同じ滝山高校の男女3人が放ったものであった。
優が飛勇を右翼から距離を取らせたのは、その攻撃に巻き込まれないようにするためでもあるが真の目的は…………
「ひーーーぃ!」
まさに、この瞬間を計算したかのような優の叫び声だった。獣魔と人魔が分離して左右に広がり、突出した右翼を弓矢で排除し、左に展開した飛勇の目の前は、一直線に並んだ獣魔と人魔の列である。
飛勇が入口前にいる宗太郎と真弥に向かって、笑顔でうなずき、真弥もまた微笑み返す。
そして、建物の屋上に顔を向け「大丈夫だよ」とつぶやき前へと歩み出る……
「そうだね。分かっているよ。君たちは誰も傷つけたくない」
その言葉は人魔に向けて放たれた言葉であった。
「そうだ! 君たちこそが、その痛みを耐え抜いた勇者だ!!」
力強い声で叫ぶと、高々に跳躍し槍を投擲するかのように構える。
「そこに
飛勇の言葉と共に、槍が光を帯びていく。
「この槍に
槍を振りかぶり
「その勇気へ
右腕に力と意識を集中させ光が増していく。
「シャクーーーーナ!」
槍は一直線に獣魔と人魔の真ん中に突き刺さるとまばゆい光を放ち、その光と共に獣魔が消えていく。
しかし、まだ数体の人魔が消えずに残っていた……
飛勇が手を上げると全員が動きを止め、自分はゆっくりと人魔の方へ歩き始める。
辺りが
「随分と
飛勇が人魔へと語りながら近づいていく。
「立派に生徒を守ったよ」
人魔がうなり声を上げる。
「もう、生徒たちは大丈夫だ」
飛勇は、うなり声を上げた人魔の前に立つとそのままその人魔を抱きしめた。
いつものように黒い霧が立ち上がった……そしてその瞬間、
「たえ子先生!」
黒い霧が晴れ、その後に残る女性の姿。
飛勇は、目の前の女性がこの若者たちの先生であることを分かっていたかのようであった。
念魔に
その女性を「先生」と呼ぶ生徒やうずくまり泣いている生徒。
そして……
「たえ子先生! いつか私も先生のようにみんなを守れる人になります!」
屋上から弓道着姿の女子生徒の力強い声が響き渡る。
「随分と慕われているんだね」
飛勇がたえ子へ笑顔を向けると、たえ子も笑ったように見えた。
「あの子たちならもう大丈夫。なにせ、君の生徒なんだから……」
飛勇は一呼吸おき、
「たえ子先生……その子たちをお願いできるかい?」
たえ子の周りに立っている人魔を見る。
彼女は微かにうなずくと、その人魔たちを連れて、ゆっくりと飛び上がっていった。
――どうか良い旅を! また会おう!
人魔と化してなお、生徒たちを守るその姿を見ながら、飛勇が右拳を左胸にあて肘を上げ、かかとを揃え、
生徒たちの「先生」と呼ぶ声と共に、上空へと登るたえ子たちに光が降り注ぎ、そして空へと消えていくのであった。
空を見上げる飛勇の
第4話 完
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