第26話 打ち合わせとスズランとスイートピー①
「お引き受けいただけるとのこと、本当にありがとうございます!!」
「塩崎さんの装花、とても楽しみです」
「いえ。一度断ってしまったのにこうして受け入れていただき感謝しています」
鈴木カップルに深く頭を下げて竜胆が謝罪する。
竜胆が装花を引き受けると決意し、早速鈴木に連絡をとった数日後。竜胆は鈴木カップルと式場で待ち合わせをし、打ち合わせをする予定となっていた。
式場となる都内のレストランには、事前に鈴木から連絡を入れてもらっていた。竜胆は外部のフローリストとなるため、勝手に入ることは許されない。式場に快諾いただき、竜胆は平日、鈴木カップルの仕事が終わった時間に合わせてこうして都心まで出向いた次第だ。
式場での打ち合わせはスーツが基本なので、いつも店で着ているTシャツジーパンは封印して、スニーカーではなく革靴を履き、ジャケットに袖を通している。
先に竜胆が一人でウエディングプランナーと会い、式場の下見や用意できる花器などを見せてもらうことになっていた。
店の前にスーツを着た女性が立っていて、竜胆に微笑みかける。
「初めまして。私、鈴木様と安達様のご結婚式を担当させていただきます、ウエディングプランナーの三井と申します」
はっきりした目鼻立ち、センター分けして胸元まで伸ばしたチョコレートブラウンの髪がゆるく巻かれており、笑うとパッと周囲が華やぐ。特に華美な装いをしているわけではないのだが、内側から品の良さが滲み出ていた。さながらシャクヤクのような豪華さと気品がある女性だった。
「初めまして。塩崎竜胆です」
交換する名刺はフラワーデザイナーでもなんでもなく、「塩崎生花店店長 塩崎竜胆」と書かれている簡素なものだった。受け取った三井はにこりと笑みを浮かべる。
「お話は伺っておりました。お二人をつなぐ大切な花束を作った方ですとか」
「以前はフラワーデザイナーとして主に結婚式の装花を担当していました。その時にこちらの式場の花も手がけたことがあります」
「でしたら話は早いですね」
店前の大階段を上ってエントランスを通り内部に入ると、普段はレストランとして営業しているために客がいる。
食事中の客の邪魔をしないよう、隅に立って会場の説明を受けたが竜胆が担当した当時とさしたる変化はなく、安堵した。
「花器を見せていただいてもいいですか?」
「もちろんです」
階段を降りてスタッフルームの一室に入ると、そこには壁一面に天井までの棚が設置されており、式で使うための機材や道具が所狭しと並んでいる。
「花器はこちらの一角にございます」
竜胆は三井の案内に従って、棚の一角を覗き込む。
花器の種類は豊富とはいえないが最低限のものが用意されていた。
エントランスに飾るための大型の花瓶や、透明なガラスの花瓶は丸いものと四角いもの、大中小と大きさも揃っており、数も各々十個ずつはある。
今回の依頼ではゲストテーブルが六卓なので、十分だろう。塩崎は懸念を口にする。
「当日、装花にかけられる時間はどれくらいですか。できればこちらの人員が不足しているので、何名か手伝っていただけると助かるのですが……」
「鈴木様ご夫妻は午前の式ですので、準備には時間かけられます。逆に撤収作業を早めにしないといけません。人は用意しますので、ご安心ください」
三井の言葉は明快でわかりやすく頼もしい。
いくつかの確認事項を終えると、鈴木たちがやってくる時間となったので、竜胆と三井は再び店を出て二人を出迎えた。寄り添ってやってくる二人は竜胆の姿を見て破顔する。
「塩崎さん、わざわざありがとうございます」
「こちらこそ、一度断ってしまったにも関わらず、選んでいただきましてありがとうございます」
非礼を詫びる塩崎に、二人は首を横に振る。
「無理を言ったのはこちらのほうです」
「店の営業があるのに、引き受けていただいて光栄です」
「立ち話もなんですし、中へどうぞ」
三井の誘導でレストラン内に入った竜胆たちは、隅のテーブルの一つを借りてそこで打ち合わせを行うことにした。
「早速ですが、装花のイメージなどをお伺いしてもよろしいですか」
「ご覧の通りに緑豊かでナチュラルなレストランなので、それに合った形でお願いしたいんです。花は、一番最初に彼がくれた花束に入っていたスイートピーとデルフィニウムを使って、あの花束のように爽やかで自然な感じにしてもらえれば」
彼女の方が話を率先し、イメージを固めていく。
「全体の雰囲気をつかみたいので、ドレスや小物類、ケーキなどの写真があれば見せていただきたいんですが」
「こちらに用意してあります」
三井が分厚いファイルをさっと取り出してテーブルの上に載せて開いてくれる。
実際に新郎新婦が着る衣装や髪型、当日のケーキのイメージに近い写真、式のテーマ、ウエルカムスペースの装飾などを見せてもらい、そこから二人の要望を取り入れた装花イメージを膨らませる。
「以前のお話ではテーブルは六卓という話でしたが、お二人が座るメインテーブルはどうしたい、などありますか。ナチュラルな感じがいいのでしたら、よくある高砂の前面に花をたくさん飾るのではなく、ガラスのフラワーベースを並べてそこに花を生けたり、テーブルの足元を花で彩ったり、キャンドルを使ったりするのもいいかもしれないですね」
大体二時間ほどの打ち合わせを終えた竜胆は、最後に用意してあった花束を二人に手渡す。
「今回、私を指名していただいたささやかながらお礼の花です。お二人をイメージして作りあげました」
「素敵……!」
彼女は喜びの声を上げた。
束ねてあるのは、水色のスイートピーとスズランだ。スイートピーは通年出回っているので問題ないのだが、この時期スズランは珍しいため今朝は市場の中をうろうろした。おかげさまで入手でき、こうして喜んでもらえたので万々歳だった。
竜胆は二人の顔をしっかりと見て、言った。
「コーディネートシートをお作りしますので、完成しましたらまたお打ち合わせいたしましょう」
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