第8章

 『北条蒔苗 ロスト。それに連なる北条シリーズも同時に爆散を確認。』

 通信によって、残酷な結果を知ってしまった。

 仲間が死んだ。

 まだ終わっていないのに———。


 歯を食いしばりながら、獣とむきあう。

 向こうもまた、己が崩壊していることを理解し始めている。

 生存本能に従い、逃げた結果がこれだ。

 向こうもすでにエネルギー切れを起こしている節がある。

 先ほどの爆発で多大なエネルギーの拡散を行った。

 それなのに、連発しないところを見るともうあれだけのエネルギーがないのだ。

 決めるのなら、ここしかない!

「殺すのはダメよ。」

「わかっているさ。殺すのがダメなら、残りのエネルギーを奪うまでだ。」

 今までの防戦から攻めに転じる。

 地上組も限界だ。

 俺も、また体力と魔力が底をつき始めていた。

 ここで決めなければ!

 片目、片腕、片足を失っているのに、それでも獣は速かった。

 だけど、あくまで速いだけだ。

 今であれば攻撃を当てることなど容易い。

 「ふっ!」

 効果はないだろうが、自分自身の今まで磨き上げてきた技術にすべてをかけていく。

 多重に斬撃をかけていく『刻一文』は獣の爪を剥ぐことには成功した。

 だが、それだけだ。

 なら、のこり六つの技術で終わらせる。

 『波紋刺突』

 『断割』


 ———獣の牙が折れた。


 『斬霞』

 『五月雨』


 ———よけられたがすでに体制は崩れている。


 『月下美人』


 ———空間の隙間に絡めとられて逃げることができていない。


 これで決める。


 『陽炎』


 相手のお腹にそのまま刀を差し込む。

 血の一滴も出さない。

 究極の一撃。


 相手の肉体と魂にのみ左右するこの技は、六つの技とは、もはや次元が違うものだ。

 そして、この一撃で『何か』を斬った感覚があった。


 ———同時に、獣は動きを止めた。


 動かなくなった獣は、まるで雪が溶けていくようにポタポタと肉片をこぼし、あるいはボトッと音を出しながら塊が落ちていく。


 ———終わったのだ。


 「お疲れ様。」

 カナがゆっくりとこちらに近づいて来た。

 「………これで、終わったのか?」

 いろいろと限界だった。

 でも、役目を果たせた。

 今は、それでいいお思えた。

 「………こっちはね。はやく下に行きなさい。まだこの空間によって生み出されている【ホワイトカラー】の群れが彼らを襲っているはずよ。」

 「なら、この空間を閉じればいい。」

 「あと一時間は閉じれないわよ。この空間は、私独自の魔法じゃないのだし。それにどれくらいかかるのかわからなかったからね。」

 「………一時間。」

 「だから、もう行きなさい。———これ以上、死人に付き合う必要はないわ。」

 そういって、彼女は亡骸の方にゆっくり歩き始めた。

 「ああ。今度は地獄で会おう。」

 「なにそれ。ふふふ。そこは天国じゃなくて?」

 「俺たちは、殺しちゃいけない人を手にかけた。それだけで大罪人だ。地獄でしか罪を贖えない。だから、地獄で。」

 「ほんと、あの人の言った通り、まじめなんだか馬鹿なんだかわからない人だね、あなた。」

 そういうと、こちらに振りむいて頭を下げた。


 「この度は、辛い役柄をお引き受け下さり、誠にありがとうございました。これより、私は地獄の楽土にて永眠します。どうぞ、あなたの人生も悔いのないようになさいませ。」


 その言葉を聞き、頷いてから去っていった。




 彼の亡骸抱き寄せる。

「これで、よかったの? ねえ、悠一。」

 その返答に応える声はなかった。

 ゆっくりと亡骸を撫でていく。

「あなたも疲れたでしょ? 以前聞いたけど、あなたは人間の理から外れているから、地獄にはいけないし、天国?というところにも行けない。ただ世界の境界線上にとどめ置かれていくだけ。———あなたにとって本当にこれでよかったの?」

 この事実は、誰にも言っていない。

 死者には安らぎが与えられる。

 そう、月下健吾は言っていたがそれは違う。

 そこに人類の理があるからこそ、安らぎがあるのだ。

 そこから外れたものは、永遠に苦痛と贖罪を繰り返すことになる。

「———それに最後、あなた無理やりこの体の動きを?」

 見てわかった。

 最後の死闘、無いはずの脚の部分に触手が伸びていたのを確認した。

 その触手がもう一方の脚を引っ張って遅くしていた。

「お人好しは死んだら学ぶのかしら。———いや、無理だったわね。」

 崩れ落ちた肉片の中から———。

 元の体が出てきた。


 その顔は———。


 


「本当に、お人好しなんだから。」


 そう思いながらもなぜだか、自分も笑っていた。


 彼の頭を撫でながら、私の中の可能性の一つ———来るべきにスイッチを入れた。




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