第7章
戦闘開始から3時間経過。
雲の中、零地点。
「はっ………はっ………、ふー………。」
再度展開された【天蓋】に暴れる肺を落ち着かせていく。
すでに何回もインターバルをはさんでいるが徐々に戦況が向こうに傾いていた。
元々、防戦一方ではあったが、さらにスキのない攻撃に避けることで精いっぱいの状況となった。
極力、相手に学習させないため魔法を見せずに戦っていたが、さっきあの獣は【金剛】を使い始めたのだ。
「学習って、言ってもスピード早すぎるだろ!」
「粘っている方よ、あなた。それに、向こうも焦り始めているわ。自分自身の崩壊が見て取れるほどになってきているのだから。【再生】を学んだところで自分の体の奥底にまでヒビが入っているのだから。すでに完全に再生することは不可能でしょうね。」
ああ、危険な局面だ。
でも———。
「まさか、あなたが【金剛】と【金剛】をお互いにぶつけることで、相手を衝撃で吹っ飛ばせるなんて、なかなかどうしてやるものね。その時に、目を潰せたのは大きいわね。」
右目を運よく潰すことができたのだ。
さらに言えば向こうは、肉体の再生にエラーが出始めているのだ。
つまり、止血はできても目の機能を失わせることに成功したのだ。
「カウンターを狙うしかない状況だからな。やみくもにできるものじゃない。相手は本物の怪物だ。少しでも勝機を見出さないと、こちらもやられる。」
ついに人狼の肉体が、限界を迎えたのだ。
だからこそ、その焦りを突いた。
が、不運は再度訪れる。
バキッ。
その音が【天蓋】から鳴っていた。
「まさか———。」
「はー………。嘘だと言ってくれ。」
まるで卵から孵化するように、天蓋を突き破って獣が出てきたのだ。
「【天蓋】を学習したみたいね。しかもあなたの攻撃のように同じ空間をぶつけて出てきたみたいよ?」
「———ここからインターバル無し、か。」
そう思っていた。
すると再度【天蓋】が張られた。
この空間に。
「どっちの魔法だ!?」
「おそらく悠一の魔法ね。【学習】で【天蓋】が破られたときのオート迎撃モードでしょうね。」
その声と同時に天蓋の中からレーザービームが人狼に向けて放出された。
それを人狼は躱し、こちら側に向かってきた。
だが、レーザービームは放出されるだけにとどまらなかった。
ビームが壁の【天蓋】に触れた瞬間、その光の柱は拡散して再度、獣を襲った。
溜まらず、防御姿勢になったところを俺は見逃さなかった。
魔法の【金剛】を練っているところに、死角から右腕を切り落とすことに成功した。
そのまま、もう一本の腕をもらおうとしたところで、蹴りをくらい、壁に吹き飛ばされた。
すぐに体制を整えて向かい合った。
が、相手の動きに変化が出てきた。
むやみに突っ込むのではなく、相手の隙を伺うような………消極的対応に変わっている。
なんだ?
さっきまでの好戦的な獣とは違う。まるで———。
そう思った瞬間に目の前の獣が駆け出した。
俺達から反対側に向かって———。
しまった!
逃げるスキを窺っていたのだ。
勝てない相手に無理に挑むのではなく、逃げて体制を整える。
それも策なのだ。
俺はまんまとしてやられた。
だが、こちら側にはそれを見越している人物がいた。
「———踏んだわね? 私の可能性に。逃げた場合、左脚がちぎれるわ。」
そう言った瞬間に、獣の左脚がちぎれた。
苦悶の咆哮をして地面に転がった。
「逃げる可能性は見えていたわ。そうさせないための私の能力だから。」
獣の血はすぐに止まるものの再生まではしなかった。
「ありがたい! これで戦闘中に息をする時間くらいは確保できそうだ。」
そう思っていた、矢先———。
獣が膨らみ始めた。
その真意がなんであるのかわからなかったが、とっさに嫌な気配がした。
「っ! 【金剛】!」
守りに全振りした瞬間、この空間を揺らすほどの———。
爆発が起きた。
爆発により、この空間が揺れるのを感じた。
「ちっ! 不味い!」
俺の後ろに隠れていたカナは、嫌なことを言い始めた。
「この空間が、一瞬だけ膨張してしまった。それも半径2キロ分。」
その言葉で、察した。
『剣崎指令! 地上組を4キロ後方地点まで撤退させろ! 今すぐ!』
「だいぶ手慣れてきたわね。」
『お互いの息を合わせるのも、今までの任務のおかげですかね。』
『そうはいっても、戦線を一時的に持たせているだけですぞ。まさに集中力と体力勝負ですぞ。』
あくまで、ここを抑えるのが任務。
そうしなければ、この特殊タイプの【ホワイトカラー】がそのままコロニーに流れ込む。それは未然に防がなければならない事案だ。
「各員、そのまま気を抜かずに———。」
そういった瞬間に、
大地が———。
空気が———。
空が———揺れた。
「何?」
状況を確認するために周りを見て、異常なことに気が付いた。
「待って。上空の雲が———広がっている。」
さっきまで、黒い雲のギリギリの境界線上で戦っていた。
それが、今、雲は———。
私たちの上にまで来ていた。
『総員、退避!』
通信越しに大声で言われて、身を反転させた。
「マキナ!」
『ついてきてください。私と同じ道を通って!』
後方に回り込まれたとき用のトラップを仕込んだのが間違いだった。
急いで退避しているが、後方数メートルのところまで雨が降っているのが見えた。
追い付くスピードは私たちの逃げるスピードよりもはるかに速く、迫ってきた。
そうでなくても、【ホワイトカラー】は、この汚水の雨の中でも関係なく、こちらに迫ってきている。
後方からトラップの作動音が聞こえてくるが、おそらく、あの数だと焼け石に水だろう。
先頭をマキナが走り、石永君がそれに続いて、しんがりを私が担当していた。
後ろに無作為にタレットを投げつけていく。
すぐに起動して、迎撃してくれている音が聞こえるが束の間で爆発と一緒に静まり返る。
とにかく、雨雲の圏外に出なければ反撃すらできない。
中心部から3キロ地点に来た時だ。
『境界線が見えました! あそこまで、各自全力でスピードを上げてください!』
『すでに全力です!』
「泣き言なんて言ってないで走る!」
【ホワイトカラー】の大群より私たちの方が早いが、迫りくる雨のスピードの方が圧倒的に速い。
このままだと、ギリギリ間に合わない。
最悪の場合、目の前にいる石永君を投げてでも———。
そう思っていた時にマキナが反転した。
「なっ!」
その言葉と共に私と、石永君を境界線まで投げた。ご丁寧に、摩擦力を無くする魔法までかけて。
「マキナ!」
辿り着いた時にマキナの方を見たが———。
———すでに汚水をかぶっていた。
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