第4章

 父が目を覚ますのを確認した。

 「………! ⁉」

 当然、口にはタオルを詰め込んでしゃべれなくしていた。

 そして、

 「んんんんんんんん!」

 どうやら気が付いたらしい。

 薬で感覚が鈍っているとは言え、麻酔状態でも多少は感覚があるものだ。

 私は父の手、腕、脚、足にそれぞれ釘を刺していた。

 鈍った感覚でも視覚を通して理解させれば、体が勝手に痛みを自覚する。

 「ん! んんん! んんんんんんん!」

 「ほらほら、自分ばっかり気にして大丈夫?」

 私は笑いながら促す。

 残酷な笑みを浮かべて。

 ここには、もう一人いることを。

 「ほーら、生誕祭から目を背けてはいけないよ?」

 そういって、私は母のベッドの上に立った。

 

 

 

 母は、完全におびえ切っていた。

 狂人が目の前にいる。

 私に被害者ヅラを向けてくる。

 これには私も面を食らった。

 面白過ぎる。

 ここまできて、まだ自分たちが正しいことをしたと思っていることに。

 私はどこまでいっても悪役である。

 この事実がたまらなく愉快だ。

 できることなら、この喜劇がもっと続いてほしかった。

 でも、時間は待ってくれない。

 「麻酔なんてないから、ちゃーんとタオルを噛み締めてね?」

 そういって、私は―――。


 母のお腹にナイフを突き立てた。


 それと同時に母は、痛みに体を暴れさせた。

 まあ、その程度でやめるわけないけど。

 ゆっくり。

 痛みをもって。

 血を飛び散らせる。

 こんなにも血が美しいなんて思ってもみなかった。

 父は、怒るでもなく恐怖するでもなく。

 唖然としていた。

 目の前の光景を視てはいるものの認識できないでいた。

 「や、やめて! 痛い! 痛いのよ!」

 おっと、どうやら母にしていたタオルが切れてしまったようだ。

 目障りな声が聞こえてくる。

 だから、一言。


 「やめてって言って、私の時にやめてくれたの?」

 

 「それは、あなたの父さんが―。」

 「遠くで見ているだけだった、あなたも同罪なんだよ?」

 そういって、裂いたお腹に指を突っ込む。

 「いっ、ああああああああ!!!!!!」

 声にならない叫びを吐き出す。

 そうそう。

 あなたは叫んで、声を上げていればいい。

 まだ生きている。

 死にたくない。

 希望にすがりたい、と。

 そう思いながら最後まであがいてくれればいい。

 でも、それを私は壊してく。

 あなたたちが死ぬように私はここに来るときに、何重にも未来を操作した。

 決定された運命からは逃れられない。

 裂いたお腹に両手を突っ込み、一気に皮膚をめくる。

 母は、痙攣し始めた。

 そのことで、やっと父は傍観をやめて暴れ始めた。

 釘はお構いなし。

 へえ、薬のおかげで感覚が鈍いのは考え物だな。

 それでも、父は涙と汗、唾液を振りまきながら暴れていた。

 痛みはそれなりにあるようだ。

 それなら、こちらもやるべきことをやってしまおう。

 持っていたナイフを回しながら切って行く。

 なんてことはなった。


 母の、

 お腹から、

 子宮をくりぬいた。

 

 胎児の入った子宮は重くずっしりとしていた。

 くりぬいた子宮を防衛局から盗んできたものに入れる。

 【鉄の子宮(アイアンマザー)】

 防衛局の人員は、人工的に作られた子供たちで構成されている。

 どこからか、運ばれてくる胎児がそれぞれのコロニーに運ばれてきて、コロニー内で育成されていく。

 なら、どうやって、母親のいない彼らは育ったのか。

 それが、【鉄の子宮(アイアンマザー)】と言われる箱だ。

 必要な栄養素、体温、排出物の管理など行ってくれる。

 この中で、実験児たちは養育される、らしい。

 まあ、仕組みうんぬんは私も知らない。

 でも、

 「世界の理はあなたがご所望らしいわ。」

 あのいけ好かない男はこの子を殺そうとしていた、と考えるのが妥当だろう。

 そうでもなければ、この親を殺す意味がない。

 私の手で、殺させる。

 中々に、合理的で不快な回答だ。

 だけど。

 「素直に従うほど、私は人形じゃない。」

 だから、回りくどいことをしていた。

 あんな奴の言うことを素直に聞いていたら、面白くない。

 その思いだけに突き動かされて、今の私があった。

 くりぬいた子宮ごと【鉄の子宮(アイアンマザー)】に入れて蓋を閉じる。

 魔力を通して設定をいじる。

 すると起動音と同時に、鼓動とモーター音が始まった。

 これで良し。

 あとは。

 後ろで暴れている父だけだ。

 すでに母は、泡を吹いていた。

 時期に、命の終わりを迎えるだろう。

 あっけないものだ。

 もっと苦しんでいくさまを見たかった。

 「さて。」

 私は、父に向き合った。

 父は今にも飛び掛からんと釘からの脱出をまだ試みている。

 無駄なのに。

 未来を固定されている以上、釘は抜けない。

 釘で刺されている部分をより抉れば出られるけど、そんな勇気はこいつにはない。

 「よっと!」

 思いっきり、父のお腹に蹴りが決まった。

 サンドバックの要領だ。

 蹴る。

 殴る。

 繰り返す。

 その過程で、釘を打っている部分から、ミシミシと音が鳴っていた。

 それが、体の筋繊維が裂けていく音だと理解した。

 気持ちがよかった。

 ああ、このために―——。

 その時、父の口に巻いていたタオルがほどけた。

 「や、やめろ! カエ―――。」

 その言葉を発する前に父は、事切れた。

 ああ、もったいない。

 「未来を操作して『私の名前を発する前に事切れる』、も入れてたけどつまらない結末になったな。」

 まあ、しかたがない。

 私は、【鉄の子宮(アイアンマザー)】を担いで、ポーチを一つ手に持ちここを後にした。

 

 

 

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