第5章

 私は姉が好きだ。

 周囲は、姉の美しさにだけ目が言っていた。

 父は姉の潜在魔力にだけ身を向けていました。

 どうして、姉を理解してあげないのでしょうか。

 私は、許せなかった。

 周囲も父も、そしてその事実を許容する姉も。

 でも、その事実に甘えている自分が最も卑しい存在だと思ってしまった。

 だけど。

 その日、私は見てしまった。

 姉の目を。

 一人の少年を熱く焦がれるように見つめるその瞳を。

 周囲から、氷の女王と呼ばれるほど冷たい瞳がそこにはなかった。

 純粋に恋焦がれる乙女がいた。

 ああ、でも。

 私も見てしまった。

 彼を。

 まるで妖精だった。

 人間ではないほど美しく、まるで蜃気楼のようにかき消えた彼を。

 私も。

 

 四乃宮 円(まどか)もほしくなった。

 


 「え、僕ってそんな感じだったの?」

 「ええ、今でも覚えていますよ?」

 「そういわれてもなあ。特務隊の仕事と並行してやってたからあんまり記憶にないよ。」

 「構いませんよ。私の脳内に永久保存版と観賞用とレンタル版がありますから。」

 「え、ブルーレイ?」

 

 「またこうして星を一緒に見られる日が来るなんて夢にも思いませんでした。」

 「いや、許嫁の申請を出しておいてそれ言います?」

 「女は強かに生きているんですよ? 計画的に、嘘と現実を混ぜてほしい未来を手にいてるものです。」


 「いや、まさか申請が2つ同じところから出てくるとは思わなかったなあと。」

 「安心してください。妹に手を出しても構いません。本命が私であれば問題ないのです。」

 「いや、昨日死ぬほど絞られた身からするとこれ以上仕事に支障が………。」

 「仕事なんて忘れて、私とずっと一緒にいましょう?」

 「そのわりに拘束具だったり、首輪を毎回つけさせられるのはちょっと―。」

 

 「仕事はいかないとダメだ。そうじゃないと、世界が終わってしまう案件が多すぎる。」

 「一緒に死ねるのなら本望です。」

 「破滅願望は僕にはないよ。」

 「あなたのいない世界に興味はありませんから。」

 「やめてよ。それに生きて一緒の時間を共有できることの方がいい。」

 「あまり煽らないで。また絞りたくなってきた。」

 

 「紅葉とはうまくやってる?」

 「ええ、かわいいし、仕事を覚えるのが早いし、決まり事もちゃんと守ってくれるし、抱っこするとちゃんと胸に体重を預けてくれるの。愛おしくてたまらないわ。」

 「そっか、うまくやってるならそれでいいよ。」

 「円とはうまくいてないみたいだけど、馴染んでは来てるみたい。」

 

 「いつまでもあなたを包んで、包まれていたいわ。」

 「………。」

 「………それで、限界はいつきそうなの?」

 「さあね。いつだろう。」

 「薄情ね。突然の別れなんていやよ。」

 「君は僕を永遠にこの世界につなぎとめようとするだろ? だから言いえない。」




  3076年 6月 「黒い雨雲事件」発生

              四乃宮家 当主    四乃宮 静(享年 28歳)

             『特務隊 零』元副隊長 月下 知里 (享年 34歳)


                                ??? 誕生


                                 彗星編 完

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