とけない雪だるま

とけない雪だるま（女性版）

「とけない雪だるま（女性版）」

【登場人物】

杏里：クリスマスケーキを売るバイトの後輩

美波：クリスマスケーキを売るバイトの先輩

約15分のほのぼのクリスマスの話

―ここから本編―

杏里：「クリスマスケーキ販売中です～。いかがですか～」

杏里：（N）これは赤、白、緑で賑やかな街の中、へたくそな笑顔を浮かべる私と

美波：「ありがとうございます。メリークリスマス！」

杏里：（N）１００％の笑顔をケーキに添えている彼女との物語

～タイトルコール～

美波：『とけない雪だるま』

～間～

美波：「お疲れ様」

杏里：「お疲れ様です。今日結構売れましたね。美波さんのサンタが可愛いからだろうなぁ」

美波：「杏里ちゃんの方が可愛いよ？」

杏里：「そんなことないです美波さんの方が可愛いです」

美波：「ふふ、ありがと」

杏里：（N）そう言ってさっきケーキに添えていたのと同じ笑顔を私に向ける。年は彼女の方が上のはずなのに、笑うと幼く見えて愛おしかった

～帰り道～

美波：「それにしてもあっという間に今年も終わっちゃうね～。ついこの前まで暑かったのにもう雪が降ってる」

杏里：「ほんとあっという間ですよね。もう数日で今年が終わるなんて実感ないです」

美波：「わかる～。サンタの格好してケーキとか売ってるけど、まだ数か月あると思ってるもん」

杏里：「それは言いすぎじゃないですか」

美波：「え～そうかな～」

杏里：「明日何の日か知ってます？」

美波：「バイト」

杏里：「それは私もなんですけどそうじゃなくて！クリスマスですよクリスマス」

美波：「あぁ！クリスマスか！てことは今日クリスマスイヴ？だからケーキたくさん売れたんだ！」

杏里：「そうですよ」

美波：「私はてっきり杏里ちゃんのぎこちない笑顔につられてかと思ってた」

杏里：「絶対それはないです」

美波：「そうかなぁ？私隣で可愛いなって思いながら見てるよ？」

杏里：「可愛くないです」

美波：「可愛いよ？」

杏里：「可愛くないです！」

美波：「そういうとこも可愛いんだって～！」

杏里：「あーーーもう！！終わり！！この話終わり！！」

美波：「えーなんでー」

杏里：「（被せて）美波さんは！明日何か予定とかあるんですか！」

美波：「予定？さっきも言ったけどバイトだよ？」

杏里：「そうじゃなくて！バイト終わったら友達とパーティーするみたいなのないんですか」

美波：「うーん・・・強いて言うなら雪だるま作るくらいかな」

杏里：「え？雪だるま？」

美波：「そう！雪だるま！」

杏里：「なんで？」

美波：「作りたくなったから」

杏里：「はぁ。そういう子供っぽいとこ可（愛いですね）」

美波：「（話を聞かずしゃがみ込む）あっ！」

杏里：「もう、急にしゃがみ込んでどうしたんですか」

美波：「・・・（夢中になって何かを作る）」

杏里：「美波さん？」

美波：「（突然立ち上がり）できた！」

杏里：「うわっ！？」

美波：「杏里ちゃん風、雪だるま！」

杏里：「突然目の前に突き出さないでくださいよ。殴られるかと思いました」

美波：「あはは、ごめん。でも見てよ！似てるでしょ！」

杏里：「似てるって・・・どこが？」

美波：「ほら！このメガネが杏里ちゃんそっくりでしょ！」

杏里：「メガネってその曲がった枝ですか」

美波：「そう！ほらほら！横に並べると・・・そっくり！」

杏里：「そうですかね・・・」

美波：「よぉし、この雪だるまを杏里ちゃん２号と名付けよう！」

杏里：「名付けてどうする気ですか」

美波：「持って帰る！」

杏里：「えっ」

美波：「え？ダメ？」

杏里：「ダメじゃないですけど、とけますよ」

美波：「あっ、確かに。じゃあここに置いておこう。（地面に杏里ちゃん2号を置く）

じゃあね、杏里ちゃん２号。明日もここにいてね！ほら、杏里ちゃんもばいばいしなよ」

杏里：「えぇ・・・」

美波：「早く早く」

杏里：「じゃ、じゃあね、私２号」

美波：「私2号じゃなくて杏里ちゃん２号だよ」

杏里：「いいじゃないですか。自分で言うの恥ずかしいですよ」

美波：「だーめ！ちゃんと杏里ちゃん２号って言って！ほら！」

杏里：「・・・杏里ちゃん２号、また明日ね」

美波：「（声を変えて）じゃあね、おっきい杏里ちゃん１号！ばいばい！」

杏里：「ばいばい。これで満足ですか」

美波：「うん！満足！」

杏里：「これでもう雪だるま作らなくていいですね」

美波：「明日は明日で作るもん」

杏里：「なんでですか？」

美波：「作りたいから！」

杏里：「美波さんって子供みたいですよね」

美波：「そんなことない！私の方が先輩だぞ」

杏里：「先輩らしくないですよ。いい意味で」

美波：「うっそだぁ。絶対バカにしてるでしょ」

杏里：「してないです。先輩感がないから話しやすいというか」

美波：「ほんとに？」

杏里：「ほんとですよ」

美波：「そっか～嬉しいな。私も杏里ちゃんと話してると楽しいよ！」

杏里：「・・・ありがとうございます」

美波：「照れてる？」

杏里：「て、照れてないです」

美波：「ほんとかな～？私には照れてるように見えるけど～？」

杏里：「うるさいです！（逃げるように早歩きになる）」

美波：「あっちょっと待ってよ！」

杏里：「待ちません」

美波：「杏里ちゃんおいてかないでよ～」

杏里：（N）いつもは寒くて、人が多くて、無駄に賑やかなこの時期が嫌いだった。でもこの人と一緒に帰るのは心地よくて、寒さなんて忘れてしまえるほどだった

それも明日で終わってしまう。このままバイト仲間でもいいけど、もう少し距離が詰まらないかな、なんて思っていた

～間～

～美波の部屋～

美波：「もしもし。お疲れさまです。・・・明日ですか？午後から駅前店だけの予定ですけど・・・。午前中ですか？・・・もしかして人足りないんですか？あぁ、やっぱり。クリスマスですもんね。

・・・いいですよ。場所は・・・倉舞町（くらまいちょう）ですね。わかりました。・・・いえいえ！どうせ何も予定なかったので大丈夫ですよ！・・・はい、明日よろしくお願いします（電話を切る）

クリスマスは一日中バイトかぁ。・・・よぉしたくさんケーキ売るぞ～！」

～次の日の朝～

美波：「ふぁ～寒い。さすがに朝は人いないや。おっ、杏里ちゃん２号だ！おはよう！何とか生き残ったんだね。・・・あっそうだ」

～街中～

杏里：「はぁ・・・もう帰っていい？というか帰らせて・・・」

杏里：（N）友達に呼び出されて早3時間。なぜか私は荷物持ちをさせられている。バイトまで家で過ごす予定だったのに、お昼を奢ってもらうという誘惑に勝てなかった自分を殴りたい

杏里：「どこもかしこもクリスマスで幸せムード・・・。明日から正月ムードになるのに・・・解せぬ・・・ってこれからサンタの格好する私が言うことじゃないか。

荷物重すぎ一旦休憩したい・・・ん、この雪だるまの置き物可愛い。・・・そうだ」

～隣町のケーキ屋～

美波：「数少なくなってきたんで、クリスマスケーキ追加した方がいいかもです。・・・はい、お願いします！

あっそうだ、佐々木さん！夕方には駅前の方に戻りたいんですけど・・・え？」

～駅前のケーキ屋～

杏里：「おかしいな。いつもならこの時間にはいるのに・・・。あの、工藤さん今日美波さんって私と同じ時間ですよね。・・・え？別の場所に手伝いに行ってるから今日は来ない？そんな・・・。あのっ！場所ってわかりますか！！」

杏里：（N）美波さんと会えないとわかった途端、体が動き出していた。バイトの時間までには戻ると伝え、サンタ服のまま走り出した

美波さんに会いたくて、あの笑顔が見たくて。幸せで溢れている人混みを掻き分けて、寒さなんて気にならないくらい夢中で走った。何もせずこのままで終わるなんて嫌だった

～隣町のケーキ屋～

美波：「ケーキ２個ですね、どうぞ。ありがとうございます。メリークリスマス！

いらっしゃいませ～！ケーキ１個ですね。・・・え？可愛いですね？ふふ、ありがとうございます。このケーキ美味しいですよ。自信あります。メリークリスマス！

・・・佐々木さんお疲れ様です。ちょっと落ち着いてきましたね。・・・ではお言葉に甘えて休憩入りますね」

～休憩室に入る美波～

美波：「はぁ、一日中ここで働くなんて聞いてないよ。私駅前店でバイトあるって言ったのになぁ。とりあえず杏里ちゃんに連絡・・・あれ、連絡先知らなかったっけ。

そっか・・・昨日で最後だったんだ。杏里ちゃんと一緒に帰れると思ったのになぁ。一緒に雪だるま見たかったなぁ。

・・・わっ佐々木さんどうしましたか？・・・えっ？私に会いたい人がいる？誰だろ」

～外に出ると杏里が立っている～

美波：「杏里ちゃん！？」

杏里：「（息を切らしつつ）はぁっはぁっ美波さん、こんばんはっ」

美波：「こんばんは。ってどうしたの？」

杏里：「美波さんがここにいるって聞いて来ました。どうしても渡したいものがあって」

美波：「渡したいもの？というかその恰好」

杏里：「え？あぁっ！サンタのままじゃん私！」

美波：「あははっあわてんぼうのサンタクロースだ」

杏里：「この格好のまま走ってたとかうわはっず・・・」

美波：「てっきりこっちの手伝いに来たのかと思った」

杏里：「違いますよ。ただでさえ美波さんいなくなってギリギリになったんですから正直戻りたくないですよ」

美波：「だよねぇ。私もそっちに戻るつもりだったのにここで一日中って言われてびっくりだよ」

杏里：「クリスマスですからね。サンタが一番忙しい日ですから」

美波：「そうだね」

杏里：「あっ、美波さんにこれ渡したくて来たんです（小さな箱を渡す）」

美波：「え～なになに。開けていい？」

杏里：「いいですよ」

美波：「・・・わぁ、雪だるまの置き物だ！可愛い！」

杏里：「美波さん２号です。昨日私の分・・・杏里ちゃん２号を作ってもらったからそのお礼です。それならとけないかなって思いまして」

美波：「嬉しい！でもこれは美波３号だね」

杏里：「え？」

美波：「本当は今日一緒に帰りながら見ようと思ったんだけど・・・見て（スマホの写真を見せる）」

杏里：「ん？杏里ちゃん2号と隣の雪だるまは・・・」

美波：「美波２号だよ！」

杏里：（N）美波さんが見せてくれた写真には昨日より少し形の崩れた杏里ちゃん２号と、綺麗な丸が重なった美波さん２号が並んでいた

美波：「可愛いでしょ。来るときに作っちゃった」

杏里：「可愛いですね」

美波：「だから、この置き物は美波３号なの。でも、そしたら杏里ちゃん３号が必要だね」

杏里：「私のは別にいいですよ」

美波：「ねぇ、これどこで買ったの」

杏里：「えっと街のクリスマス市みたいなところです」

美波：「買いに行こ」

杏里：「え？」

美波：「杏里ちゃん３号も買いに行こ！」

杏里：「でもっさすがにバイト終わってからだと厳しくないですか」

美波：「んーじゃあ今から行こう」

杏里：「今から！？え、でも美波さん仕事があるんじゃ」

美波：「今休憩時間だし、私いなくてもなんとかなるから大丈夫。それに元々こっちで働く予定じゃなかったし」

杏里：「で、でも」

美波：「そっちこそ駅前に戻らないとでしょ？効率は良いよ？」

杏里：「ということはお互いこの姿のまま買い物行くんですか」

美波：「うん、そうなるね」

杏里：「えぇ・・・。もう、この際いいです。行くなら行きましょう」

美波：「やったぁ！・・・あっ、雪」

杏里：「本当だ」

美波：「雪が降る中、サンタ姿の私たちかぁ。なんか真っ白なケーキの上の苺みたい！えへへ」

杏里：「（美波の笑顔に見とれる）・・・ふふ、そうですね」

美波：「あっ、今の笑顔可愛い！」

杏里：「え？」

美波：「いつものぎこちない笑顔じゃなかった！」

杏里：「あ・・・。あはは、美波さんの笑顔が素敵だからつられたんですよ」

美波：「そうなの？もっと笑ってよ～」

杏里：「美波さんといれば自然と笑える気がします」

美波：「じゃあいっぱい笑わなきゃ」

杏里：「はい。・・・美波さん」

美波：「ん？」

杏里：「メリークリスマス」

美波：「メリークリスマス！」

～終わり～