指針

 多くのトップ冒険者の前に立っているグランドマスターは周りの人間から向けられている圧にも負けずに全員の前で言葉を響かせ続ける。


「まずは知っているだろうが……厄介なことに伝説に語られる魔王が復活した。まぁ、今更説明は要らないだろう」


 知りませんでした。

 最強の冒険者パーティー扱いされている星霜の風のメンバーは誰も知りませんでした。

 そんなことを考えている僕を他所に、周りの人たちは魔王を自然のものと受け止めて続きを話すように促している……マジで僕たちしか知らなかった感じ?


「既に世界各国は連帯を示し、どれだけ荒くれ者とされている傭兵たちも全員人類側の戦線に組み込むどころか、実力ある盗賊団には恩赦を出して雇い入れてもいる。それだけの総力戦というところだ」


 盗賊にまで恩赦を出しているの……?どれだけガチなんだ。上は。

 え?魔王ってばそんなにヤバいの?未だに僕は全然事の深刻さに追いつけていないのだけど。

 逆になんで僕たちは、というか僕たちの生まれた村では一切魔王に関する話が出てこなかったのだ。


「我ら冒険者ギルドもこの一大事を前にして何もせずにいないわけにはいかないだろう。我々としても組織を上げて、人員を確保する。すべて冒険者を我ら総本部を頂点とする一つの軍と考え、行動していく所存である。その総大将としては鉄華の剣のメンバーに任せている。彼らを旗印に、我らは団結する腹つもりだ」


 鉄華の剣。

 実績も、経験も、実力も申し分ないベテランたち。

 そんな彼らが上に立つのであれば誰も文句は言わないだろう。

 一応、現在最強に最も近いとされているのは僕たちのパーティーだけど、ルーエたちは上に立つとか絶望的に向いていないからな……完璧な人選と言えるだろう。


「それで、聞こう。ここからが本題だ。君たちは自由でありたいか?それとも上からの指示を欲するかの二択だ。私とは我らの命令に従ってもらいたい。しかし、君たちは特別の中の特別だ」


 既に冒険者ギルドの指針は決まっている。

 ならば何故、僕たちは集められたのか。それが、ここからの本題である。


「君たちには出来るだけ各々実力を発揮しやすいよう、配慮したいと考えている。何かここまでの流れで疑問点、自分たちはどう動きたいなどの発言があれば聞きたい。基本的には先ほどあげた二択の中で動いてもらうが、それでも理由があるのならば例外も認めよう」


 グランドマスターはここにいる僕たちに向かって疑問の言葉を投げかけて来るのだった。

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