詩集「新海ノ後扉」(完)

不可世

第1話「喪失の子」

時間的猶予に

去ることなく

今しがた時間を滑らせる

この時間的な歴史背景と

人間的な記憶背景には

差分がある

それぞ心に咲く後扉である


過去を見たその樹海に

ただ混然と見ている

その感慨の深さに


全ては後扉が語るだろう


心にある余白

それはあまりある記憶と時間だ

成熟をしていないこと

帰りを待つ子が

親を捨てて夜逃げした時


私たちは扉から飛び出した

その帰る場所を

あけ放って

いづれ疎開すると


そう自適に考えは至り


いま世界に後扉は開くだろう

もう時間的光年ではない

今あるこの時間に


我が子は道を持たない

そう、見失ってしまった

死んだのだ

だからもう後扉は


墓場にあるのだ

そして見舞う度に

心を叩く


その扉から伝わる寝息は

死してなおも安らいでいると

ただ涙をこぼす


後扉とは

人の念に咲く

余りある喪失だ

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