第16話 無気力、知らないお姉さんに慰められます。

 僕は学園の裏庭に一人、膝を両腕を抱え込んで顔を俯いていた。


 どうしよ……折角、僕の代わりの領主を探そうと学園に入学しようと思ったのに……受験を受けずにいたら……不合格で入学できなくなっちゃうよ。

 それに……今受けようとしても…もう受験に始まっているから……遅刻してる……。

 でも、僕が落ち込んでいる大きな理由は受験のことでは無い。


「はぁ、ソフィー姉さんとステラ……心配しているよね……僕のこと。転移した瞬間…ソフィー姉さんとステラが後ろから僕を呼び止めていたし……でも…二人に会いたくないなぁ……」


 僕は二人に会うのが…とても怖い。

 二人もあの時の母さんのように僕のことを怖がっていると考えるだけで僕は……自分を拒絶したくなる。

 だから、僕は普段そうならないように自分はすごいんだと…自分は天才だと自分自身で肯定している。

 そうでなきゃ……暴力しかない自分のことが嫌いになってしまうから。


「臆病な人間だな…僕は」


 それが僕の弱さで本性なんだ……人に嫌われることを恐れて、ただ武力だけが取り柄の人を怖がらせることしかできない人間……それが本当の僕。


「はぁ……」

「あら~こんなところで何をしてるんですか~?」

「えっ」


 僕は膝に埋めていた顔を上げると、シスター服を着たプラチナブロンドで黄金の瞳をしたシルキーよりも背の高く、垂れ目で優しい雰囲気をした美人なお姉さんが僕を優しく微笑みながら見下ろしてた。


「誰…?」

「私ですか~? 私はアイナ…アイナ・ミルシアン。あなたのお名前は~?」

「僕はレン・シルフォード……」

「あら!そうですか~あなたがレンなのですね~」


 あれ? アイナさんとは初対面のはずなのに、僕のことを知っているようだ。

 何処かで会ってことあるのかな?身に覚えがない。

 でも…何だかこの人に見つめられると安心する…何でだろう。

 僕がぼ〜っとアイナさんの顔を見つめていると、アイナさんが僕の隣に座って顔を寄せて来た。


「レン~、あなたはフリーデン学園の受験生ですよね~? こんなところで何をしてるんですか~?」

「……逃げて来た」

「逃げて来た~? どういうことですか~?」

「……受験生の男の子が……僕の大切な人を侮辱してきて…睨みつけたんだけど……それを見ていた周りの人たちが僕のことを怖がっていて……僕の友達もそこにいたんだけど……もし…僕のことを怖がっているって思ったら…耐えられなくて……それで昔のこと思い出しちゃって……逃げてきた……」

「そうだったんですね……」


 僕が辛い気持ちになっていることを察知したのか、アイナさんが僕の首に腕を回し胸元へ抱き寄せる。

 あぁ…温かくて落ち着く……アイナさんのおっぱい大きいから……シルキーに抱き締められているみたいだ……凄く嬉しい。

 僕は更なる温もりと安心感を得るために、もっと深くへとアイナさんのおっぱいに顔を埋めて強く抱き締めた。


「ねぇ…レン」

「ん…何? アイナさん」


 僕はおっぱいに埋めていた顔を上げアイナさんを見る。


「レンは昔、何があったんですか~? 話してくれたら…何かアドバイスができると思うんだけど……どうですか~? 話せますか~?」

「………」


 話してもいいのかな…アイナさんは僕のこと…怖がったり、嫌いになったりしないだろうか。


「―――大丈夫ですよ。レン」


 すると、僕の考えを読んだかのようにアイナさんが僕の瞳を真っ直ぐに見てそう告げた。

 その瞬間、不安で満ちていた僕の心に光だ差したような気がした。

 この人なら信じられる…僕のことを肯定してくれる。


 そう思った僕は―――


「うん、アイナさんに話したい。僕の話を聞いて欲しい」

「ありがとう…レン」


 僕は9年前に起こった、今の僕が生まれたきっかけを話した。



「母さん! 僕の結界魔法凄いでしょ!」

「えぇ……レンはすごいわ!」

「えへへっ! でしょでしょ!」


 9年前、僕はシルフォード領の村の回りに結界を張り終え母さんと一緒にお家へ帰っていた。

 そして、帰っている途中にいきなり村人たちが僕たちを囲んできた。


「か、母さん……」

「大丈夫よ……。私たちに何か御用でしょうか」

「御用でしょうかじゃねぇぞっ!おらっ!!」

「こんなガキに領地を任せるなんて、俺たち村人を守る気あんのか! てめぇら!」

「ふざけんじゃねぇぞっ!!」


 母さんが僕を守ろうと膝をつき、互いに身を寄せ合いながら、四方八方から非難を受けた。


「母さん…怖いよ……ひっぐ……」

「大丈夫……大丈夫だから……泣かないで……」


 母さんが泣いている僕を抱き締める。


 すると―――


「おらよーっ!!」

「きゃあ……!」

「………!」


 囲んでいる誰かが母さんに向かって石を投げたのだ。しかも……母さんの頭を狙って。

 

 その時だ……僕は母さんが傷つくのを見て、初めて”怒り”という負の感情が芽生えたのは。


「ぐっ……!」

「へっ、ざまぁみやがれ」


 石があったところを手で抑えて横に倒れている母さんに近づき見下ろす男がいた。コイツが母さんを傷つけたんだ。絶対に許さない。


 殺してやる。


 僕は母さんを守るように、男の前に立つ。


「んだよクソガキッ! 文句あん―――うわぁあ!!」


 僕は重力魔法で男の体を浮かせた。


「何すん―――ぐはっ!!」


 そして、地面に叩きつけた。


 どうして母さんを傷つけた……。


「ぐはっ!」


 どうして母さんを傷つけた…………。


「ぐはっ……」


 どうして母さんを傷つけた……………。


「ぐはっ…………」


 どうして母さんを傷つけたっ!!お前はっ!!


「……………」


 僕が魔法を解くと男が地面に落ち、死にそうになっていた。

 僕は男に母さんを傷つけたことを謝らせようと思ったけど……やめた。こんなゴミクズと母さんを関わらせたくなかったから。

 なので、作業を終えた僕は母さんの方へ振り返った。


「さっ、帰ろう母さ―――」

「ひっ……!」


 振り返った瞬間、母さんは僕のことを見て怯えていた。


 どうして?


 僕は母さんに酷いことをした奴のことを懲らしめたのに、どうしてなの? 母さん?


 僕は母さんを助けようと思って。


 でも、母さんは僕のことを怖がって怯えていて。


 あれ? 僕は何のために魔法を使ったんだっけ?


 誰を助けたかった?


 誰を傷つけたいと思った?


 何のために強くなりたいと思った?


 僕は何なんだ?


 ただ人を傷つけるだけの暴力そのもの?


 ただ人を怖がらせるだけの恐怖の象徴?


 もし…そうだとしたら


 ―――僕はこの世に存在してはいけない。



 この瞬間、僕の心が壊れ感情を失った。




 その日以降、母さんがいつも以上に僕を抱き締めたり、ほっぺにちゅーをするようになった。

 そのとき僕はこう思った。

 母さんは僕に対して負い目を感じているんだ…だからこうして僕を気にかけているんだ……ごめんなさい……迷惑をかけて…気を遣わせて……ごめんなさい……。

 だから、同じ罪を繰り返さないように―――僕は無気力となり負の感情を捨てた。。

 なぜなら、僕が負の感情を抱いてしまえば、また誰かを傷つけ悲しませるからだ。

 そうならないように僕は、無気力となり負の感情が生まれないようにした。

 その弊害として、表情を失ったけれど僕が負の感情に飲まれることは無くなった。

 そう思っていたはずなのに……再び僕は罪を犯した、また誰かを怖がらせ傷つけた……。


 そうアイナさんに僕の罪を告白をした。











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