第5話 無気力、復活のFです。

「「ただいま~」」

「お帰りなさいませ! 坊ちゃん! 奥様!」

「それで! 何のスキルを与えられましたか!?」

「落ち着きなさい、これからレンが教えるわ」

「「はいっ!」」


 母さんがそう言うと使用人たちは静かになるが、キラキラとした眼差しで僕のことを見ている。

 僕のスキルってそんなに気になるのかぁ……まぁ、それだけ期待されているってことだよね。嬉しい限りだ。


「僕が与えられたのは……≪予見のスキル≫だよ」

「おぉ! ≪予見のスキル≫……!」

「確か、『予見』って先を見通すという意味でしたよね!?」


「「すごいじゃないですか!!」」


 使用人たちがパチンッ!とハイタッチをして喜んでいる。


「何だかすごい喜んでいるね……みんなでハイタッチし合っているし……」

「当然よ! 先を見通せるってことは領地の安全がダンチよ! 将来、あなたが領主になった時にとても心強いって、みんなそう思っているわ」

「へぇ~そういうもの?」

「そういうものです!」


 そうか、そういうものなんだ。確かに教会の時でも、みんな喜んではいたけど、ここまで喜ぶとは想像していなかったからね……少し驚いた。

 それはそれとして、僕にはやらなきゃいけないことがある。早くそれをしなければ。


「みんな、父さんの寝室に行きたいんだけどいいかな?」

「勿論!……でも、まだいつもの時間ではないですよね? いつもより早く、回復魔法を施すのですか?」

「ううん、違うよ。帰った時に≪予見のスキル≫で父さんのが復活する姿が見えたんだ。だから、みんなで父さんの復活を見届けようと思って」


「「えぇ~~~!!」」


「レン! 本当なの!」


 僕は「うん」と言って首を縦に振って肯定する。

 ……これは想定通りだ。いきなり、父さんが復活すると知ったら、みんなが驚くのは当然……。ふふ~ん、ちょっとしたサプライズだ。


「さぁ、寝室に行こうか……あれ? シルキーはどこにいるの?」

「し、シルキー様はすでにオリヴァー様の寝室にいますので……」

「そうなんだ、じゃあ探しに行かなくていいか」


 シルキーは、本当に僕のことをよくわかっているなぁ。僕はここを離れる時、少しだけ不安だったのだ……父さんの容態が突然悪化することを。

 見守ってくれたシルキーに、後でお礼を言わないと。それに、シルキーは父さんに回復魔法をかけて助けられなかったことを気に病んでいるから、一番に父さんの復活を見届けて欲しい。


 シルキーには元気でいて欲しいから。


「みんな、行こうか」

「えぇ!」

「「はい!」」


 僕たちは眠っている父さんの寝室に向かった。


「お帰りなさい、レン。スキルは無事に与えられましたか?」

「うん、≪予見のスキル≫を与えられたよ。シルキー……ありがとね。父さんのことを見守っていてくれて」

「ありがとう……シルキー」

「いえ、使用人として当然のことをしたまでです」


 クールだなぁ、めっちゃカッコイイ……。僕も言ってみたい、『当然のことをしたまでです……キリッ』……あぁ、でもダメか。僕…ぽや顔だからカッコ良くないや。


「あっ、もうそろそろ父さんが起きるよ」


 そう言うと、母さんとシルキー以外の使用人が固唾を呑む。

 あぁ……ここまで、長かったなぁ。戦場から仲間に連れられて、瀕死の状態で帰って来た父さんに、シルキーが回復魔法をかけてくれたけど……父さんは目覚めなかった。

 シルキーの回復魔法を間近で見ていた僕は、「回復魔法を使えるようになりたい!父さんを助けたい!」と無力な自分に腹が立ちながらも助けたいと願った。

 すると、その瞬間に僕は回復魔法を使えるようになって、シルキーと一緒に回復魔法をかけたけど……全然ダメで目覚める気配が無かった。

 だけど…今ならこの……≪引き寄せのスキル≫で父さんを助けられる。


 10年ぶりの再会、領主代理お疲れ様……僕。


『―――健康な父さんが目覚めるまで…3』


「「「おぉ~~」」」


『…2』


「「「おぉぉ~~~!」」」


『…1』


「「「おぉぉお~~~~!!」」」


『はい』


「ん…ここは……」


「「オリヴァー様っ!!!」」


「あなたっ!!」


 ベットからゆっくりと体を起こす父さんに、母さんが涙を流しながら抱き締め、使用人たちが父さんのベットを囲む。

 そんな光景を僕とシルキーは一緒に眺めていた。


「レン…」

「ん?どうしたのシルキー?」


「―――本当は何のスキル何ですか?」


 シルキーの全てを見透かすような視線が僕に向けられる。

 まぁ、シルキーには気づかれるよね。なんか妙に勘が鋭いし、僕の考えていることも読まれている。……何とも不思議だが、全く違和感が無い。

 寧ろ、シルキーらしいとさえ感じるほど至極当然のように思う。

 でもなぁ…う~ん、悩むな~シルキーに本当のスキルを教えるべきが否か。

 実に悩む…生まれてから初めてだ、悩むということはこんなにも困ることなのかと。

 ん~まぁいっか…シルキーには伝えても。


「≪引き寄せのスキル≫って言って、何でも……お願い事を叶えられるみたいなスキルだよ」

「そうですか」

「………」


 抑揚の無い棒読みだが、これでも心の中では勇気を振り絞って伝えたつもりなんだけど……。

 それなのに、たったそんな一言だけで済ますとは……ちょっぴり寂しい。

 だから、僕はその寂しさと父さんが倒れた時の過去の悲しみを父さんにぶつける。

 レン……父との感動の再会だ。


「ちち~~~」

「レン!大きく―――ぐふっ!!」


 抱き着くように見せかけて、僕に面倒くさいお仕事を押し付けた父さんをお仕置きするために鳩尾に頭突きする。


 眠り過ぎだよ、父さんの……バカ。


 でも……起きてくれてありがとう。


 この瞬間、僕は領主代理ではなくただの次期領主となった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る