無気力な次期領主が代わりの領主を探すために、やる気を出したらどうなるかわかってるの?
大豆あずき。
第1話 無気力、執務をこなします。
扉を三回ノックされ「失礼します」と綺麗な声と共に扉が開かれる。入って来たのは僕の専属の使用人兼剣術と魔法の師匠であるエルフ族のシルキーだ。
枝毛の無い綺麗な金髪に前髪を下ろして後ろは三つ編み団子にしてまとめた髪型。
絶対防壁のような露出を一切許さない白黒のメイド服にフリルのついたカチューシャを身に付けている。
その小さな顔には宝石のような翡翠色の大きなつり目の瞳に、鼻筋がシュっと高く小さな薄い唇。
うん、滅茶苦茶美人さんだ。それに女性にしては背が高い。170cmくらいはあるのかな? 165cmの僕より少し高い身長だ。
ただ、クールな表情だからイマイチ何を考えているかわからない。
だけど、僕はぽや~っとした顔だからシルキーのカッコ良くて、キリッとした顔立ちにはとても憧れる。
「どうしたのシルキー? 僕……今物凄く忙しんだけど」
「レン……一体あなたのどこが忙しいのですか?」
「え~忙しいに決まってるじゃん。ほら、執務こなしまくってるよ」
――――シュンシュンシュンシュンッ
僕たちのいる執務室の中に、紙とペンたちが僕の重力魔法によって縦横無尽に動きまくっている。
あれ? そんなことしてインク無くならないの?……と誰しもが思ったはず。
心配する必要はないよ。実はこのペンは僕が作った魔道具なんだ。魔石に炎属性を付与して魔力を込めることで焼き書くことができる。
勿論、火力は必要最小限にしてあるから紙が燃えることは無い。
流石に……天才過ぎるな僕。
まぁでも、複数の魔道具に魔力を込める必要があるから、魔力の少ない人ではこのような所業はできない……。
つまり、僕のように複数に魔力を込めるだけの魔力量がある人にはお金儲けができるが、そうでない人では、お金儲けをすることはできない。……普通に一つのペンにインクをつけた方がいいだろう。
うん、見事なほどに失敗作だ。
「背筋を正さず椅子の背もたれに深く座りながら、魔力と魔道具に頼って執務をこなすとは……領主失格ですね」
「確かに魔力と魔道具には頼っているけど、僕は領主じゃなくて領主代理だよ。そもそも……僕たちは貴族じゃないんだから、こんな面倒くさいことをするのは間違っている。貴族どもにやらせるべきだよ……全く………」
僕たちシルフォード家は騎士爵……つまり、平民から成りあがった……いわゆる貴族もどきだ。
父オリヴァーが【シュトラウス王国】の騎士として武勲を立てたことから、爵位と領地が与えられたんだけど……まさかの他国からの侵攻を防ぐ国境防衛を任された。
勿論、国境を守っているのは僕たちだけではなく他にも三人の領主も守っている。
この王国は大陸の最も東に位置している。そのため、侵攻されると考えられる西側を囲うように、僕たち【四大守護家】が配置され国境を守っている。
だけど、僕が5歳のときに父さんが【テレスティア帝国】との戦いで重傷を負い、寝たきりになってしまった。
だから、シルフォード家の一人息子である、僕こと……レン・シルフォードが父の代わりに、シルフォード領の『領主』と10万人の騎士と魔術師が所属している【疾風の騎士団】の『団長』という二つの肩書きを代理をしている。そして、領地に来た魔物の討伐や他国からの攻撃を防いだり、面倒ごとを10年間、弱音を吐かず健気に頑張っている。
もっと褒められるべきだし、こんな仕事さっさとやめてのんびりと普通に暮らしたい。
「それに、僕は執務を放棄しないでちゃんとこなしているんだから魔法を頼ってもいいじゃん? 誰にも迷惑はかけていないよ」
「そういう問題ではありません。魔法に驕って怠けているあなたのためを思って注意しています。あなたは次期領主なのですから、威厳を持って行動してほしいのです」
「えぇ~、面倒くさ~~い」
確かに領主代理となった5歳のときでは、ちゃんと真面目に自分の力でやったさ。
魔法にも魔道具に頼らず執務をこなした。だけど、物すんごーく面倒くさい。
一々ペンを持って、インクを付けて、書いて……その繰り返しだ。子どもなんだから、そんなことはすぐに飽きるのは当たり前だ。
でも、こなさなければならない……領主代理なのだから。あぁ……何という不憫な少年なんだ……僕は……。
なので、自分の才能をフル活用させて頂きました。
そんな大変な仕事を、如何に楽にすることはできないのかと模索することは必然だ。
よって、僕はこれからも自分の魔力と魔道具に依存することにしま~す。
僕は楽をして生きていたいんだ……この気持ちは絶対に揺るがない。
誰が何と言おうとも……。
「そう言えば、シルキー。僕に何か用事があって来たんじゃないの?」
「あぁ、そうでした。レンの怠けた態度に目が行ってしまって、つい……すみませんでした」
「うん、全然いいよ。怠けているってのは納得いかないけど」
「――――実は帝国軍があなたの育てている花畑に現れたそうです」
「何…だと……!」
僕は驚いている風に見えるが、表情筋が全く動かないので目を見開いたりすることはできないし、今のセリフも一定のトーンの棒読み……緊張感がまるで無い。
それにしても僕のお花畑……
【
それに、あの場所は僕の癒しだし……領民とみんなでお花を収穫するの……好きなんだけどなぁ……王都で売って金儲けもしているし。
何より―――僕の”大切”を脅かす存在はきちん成敗しないとね。
【疾風の騎士団】のみんなには申し訳ないが、こればっかりは僕が直接守らなければならない。
僕にだって、自分の手で守りたいときだってある。だから、君たちの大切なお仕事を奪って……ごめんね。
「わかった、騎士団のみんなには内緒にしておいて。僕一人で対処するよ」
「はい、わかりました」
「それじゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい、レン」
僕は椅子から立ち上がり、重力魔法で紙とペン型の魔道具を机の上に集めてから、転移魔法を発動し【
それでは、面倒ごとの処理……行ってきま~す。
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