【改稿前】心のままに、幸せを求めて
夜桜くらは
【改稿前】遠い記憶、別離の記憶
気がついたら、俺は暗い森を走っていた。歩き慣れた獣道を全力で駆け抜ける。
この状況は、一度経験したことがあった。
足を止めようと意識しても、身体が言うことを聞かねえ。まるで俺の身体じゃねえみてえだ。
だが、走り方も、身のこなしも、
前方に見える明かりが段々と大きくなっていく。奴らの話し声が聞こえてくる。
『──
『ああ、
話す内容も、俺の記憶にある通りだ。そして俺は、奴らの背後から襲いかかろうとしている。
駄目だ、止まれ。そう必死で念じたが、まるで効果はねえ。
『何者だ』
奴らが俺に気付き、一斉に振り向く。無機質な視線が俺に向けられる。
『お前らッ……! 俺の、俺たちの幸せを奪うなんざ、許さねえッ!』
俺は懐から銃を引き抜き、奴らに向けた。
『何を言う。この都市の人間は全て、
『そうだ。それが幸せだ』
『違う! お前らの言う幸せは……俺の幸せじゃねえ! 俺は、そんなものは求めちゃいねえんだよ!!』
『……我々の邪魔をするならば容赦はしない』
奴らは無表情のまま言う。そして一斉に銃を引き抜き、俺に向ける。
今の俺にとっちゃ、二度目の光景だ。だが、それでも俺は恐怖を感じていた。過去の俺も恐怖から銃を乱射した。が、震える手では当たるはずもない。
『う、うぁあああッ!!』
撃ち殺される。そう覚悟したその時、俺の背後から声と共に、人影が飛び出した。
『待ちな! 銃を降ろすんだよ!』
良く通る、聞き慣れた声。俺が一番聞きたかった声──レミンの声だ。
俺の前に飛び出したレミンは、奴らから俺を守るように立ちはだかる。
『何の真似だ』
『アタシは抵抗しないよ! この子と少し話をさせとくれ! お願いだ!』
『……いいだろう』
アンドロイドどもは銃を降ろした。レミンは俺の方を向いて言う。
『ほら、アンタも銃を下ろしな! ……ったく、バカだねぇ。アンドロイド相手に喧嘩売るなんざ、どうかしてるよ』
俺はゆっくりと銃を下ろし、地面に膝をつく。レミンは少し寂しげに笑うと、奴らの方を向いた。
嫌だ、待ってくれ。これがあの日の再現なら、レミンが言うのは──
『この子を殺すのはやめな。アンタらはこの都市に住む人間を減らしたい訳じゃないだろう? アタシが代わりに服従するからさ。それでどうだい?』
『我々の支配下に入りたい、ということか?』
『ああ、そうだよ。だからこの子は見逃してやってくれないかい? アタシのことは──』
『駄目だ、レミン!』
俺はレミンの言葉を遮る。あの時の俺も、同じ気持ちだった。俺はレミンに守られるために、ここに来たんじゃねえんだ。
『何言ってんだよ! そんなの俺は……!』
『黙りな』
レミンは俺の方を向きもせず、ぴしゃりと言い放った。
『これはアタシが決めたことさ』
『レミン……!』
『話は終わったか? では、お前の望み通りにしてやろう。ついてこい』
『ああ、分かったよ』
レミンはアンドロイドどもの元へ、一歩踏み出しかけ──俺の方を振り向いた。
『じゃあね、シグ』
レミンの姿と言葉が、ゆっくりと消えてゆく。
嫌だ、行くな。頼む、行かないでくれ──
「──ッ!」
声にならない叫びと共に、俺は目を覚ました。心臓がバクバクと脈打ち、全身から汗が吹き出していた。
大きく息をつく。夢か。夢じゃない。いっそ夢ならどれほど良かったか。
「……クソッ」
俺は拳でベッドを殴りつけた。
──俺は、レミンから幸せな暮らしを奪っちまった。俺はただ、レミンの幸せを守りたかっただけなのに。
「……レミン」
駄目だ、俺は一人で生きるって決めたんだ。俺が本当の幸せを知っちまったから、レミンをあんな目に遭わせちまった。だから、俺に幸せになる資格はねえんだ。
俺は何度も自分に言い聞かせた。人と関わらずに一人で生きて、一人で死んでいくんだと。だが、そうやって自分に言い聞かせる度に、俺の心は悲鳴を上げた。
もう耐えられねえ。誰かと一緒に笑い合いてえ。そう叫ぶ心の声を、俺は無理やり押し殺した。
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