第473話 【第三夜目】マジ神ってる



 さてさて、Ⅱ期生の皆さんですが……まぁー皆さんね、とてもとても元気いっぱいですね。色々と無茶してくださいまして。


 おれたちの心配をよそにおもむろに木登りに興じ始めたり、ドームテントに加えてハンモックテントを設営してみたり、木の枝にロープを掛けてターザンロープにしてみたり、ブランコにして遊んでみたり。

 加えて……ついに話題として触れられた、警備員ダイユウさんたちの詰所でもあるツリーハウス……そこへ登るための梯子を使い、休憩小屋の屋根の上に登ってみたり。



 なんというか……『高校生』といういちばんエネルギッシュなお年頃をモチーフにしたからなのかはわからないけど、とにかく『体力の有り余った』一団だったらしい。

 あっけに取られながらも見守るおれだったが……スタッフさんが『いつもよりハシャいじゃってますね』『絶好調ですね』と苦笑混じりにつぶやいてたので、やっぱたぶん平常運転なんだな。



 ……あっ、ちなみに夜は盛大にキャンプファイヤーしてましたよ。即興セッションしながら。


 日之影ひのかげ会長さんが持ち込んだカホンをトンポコトンポコ叩き、落研所属の宮古みやこ風華ふうかさんがおもむろにジャンベをポコパカし始め、弟で漫研所属の影郎かげろうさんはクラベスをカシカシ鳴らし、軽音部だという木場きば弓弦ゆづるさんなんかはおもむろにケースからヴァイオリンを取り出し。

 書道部の刀郷さんと演劇部のレイルさんは特に楽器を持ってこなかったのか、それぞれなんというか原始的な歌声(というか叫び声?)を上げ始め……視聴者さんたちが『俺達は何を見せられてるんだ』と思わず困惑してしまうほどに、それはそれは見事な拝火の儀式が執り行われていた。


 ……いや、まぁ……即興にしては見事なものでしたけども。

 演奏を終え、『やりきった感』をこれでもかと滲ませてドヤ顔する木場きばさんは……まぁ、とても可愛かったけども。


 まさかね……いきなり演奏会が始まるとは、正直予想だにしてませんでした。



 キャンプの夜に、楽器の調べ……なるほど、そういうのもあるのか。

 まぁ雄叫びを『楽器』と評するべきかは悩むところだけど。





 ……というわけで、現在時刻は夜の十時。あんなにドンドコドンドコ盛り上がっていたキャンプファイヤーも、今やすっかり燃え尽きてしまっている。

 周囲を照らしていた明るさをすっかり失い、ほんのり赤く燻っている程度だ。

 すぐそこの沢から水を汲んではやさしく掛けて、ひとときの楽しさに感謝しながら、完全に鎮火させていく。


 そうして火の始末を済ませると……高校生男女六名に扮したⅡ期生の皆さんは、スタッフさんの持つカメラへ向かって二、三言葉を発し、それを合図に本日の配信が無事終了する。

 この後の予定だが……代表者数名は管理棟おうちにて夜ミーティングおよび反省会、その他の方々はテントにもぐってお休みの時間となるわけだ。



 真っ暗な中、ミーティング参加者の皆さんを安全にお連れするため(あるいは単純に特等席から眺めたかったがため)、おれたちは配信のときから付かず離れずで見守っていたのですが。


 そんなおれたちへ向け……おやすみ前の刀郷とうごうさんから、なにやらお呼びの声が掛かりまして。




「お疲れさまでした、皆さん。……どうかしましたか?」


「こんばんわわかめちゃん。……いや、そんな大した用じゃないんすけど……オレ反省会参加しないんで、オレ含め『代表者じゃないメンバー』からちょっと言いたいことあって」


「アッ、えっと? ……ハイ。うけたまわります」




 『にじキャラ』さんのご利用も、今日で三夜目だ。おれたちはもちろんおもてなしに手を抜いているつもりは無いが、そのあたりを判断するのはあくまでもお客様だ。

 もしかすると……『慣れ』からくるおざなりさのようなものが、おれたちの行動に出てしまっていたのかもしれない。



(やっべ、盗撮しようとしたのバレたかな)


(おいドスケベ妖精!! おま!?)


(いやまぁ、さすがにそれは冗談ですが……心当たりある?)


(……正直、ない。ないからこそ、真摯に受け止めないと。おれたちじゃ気付かなかったってことだから)


(そうだね。『剣筋の癖は自分じゃ気付けない』ってやつだよ)


(あー……なんとなくわかる)



 そんな気構えで彼らのお言葉を待っていたおれたちに、お客様たちから告げられた『言いたいこと』。


 それはずばり…………まぁ、おれたちが危惧してたこととは全く逆でして。




「多分オレらだけじゃなく……ウチにじキャラの全員、それこそマネさんや技術さんや、鈴木さんら経営陣おえらいさんも同じ意見だと思うんすけど……」


「………………はい」


「オレら仮想配信者ユアキャスに……新しい可能性、授けてくれて。……本当にありがとう」


「………………えっ? あっ、えっと……」


「前二日、ウチも視聴者しとったけどな。先パイらや魔女っ子らだけやなくて、視聴者みーんな大喜びしとったやろ? ……アレな、大なり小なり『わかめちゃん』に感謝しとるんやで」


「姉さんの言う通りだよ。僕ら……あぁ、『にじキャラ』だけじゃなくて、ユアの子とか……あと個人勢の子とか。あの『配信支援ツール』のお陰で、仮想配信者ユアキャスにいろんな可能性が出てきたわけで」


「えっ? えっと、でも……これは『にじキャラ』さんの」


「私の知り合いの個人勢の子も……レンタル使ってみたって。『配信支援ツール』。……すっごい喜んでたよ。『演奏してみた』簡単に撮れた~って」


「3Dモデルもフルトラ環境も、個人で準備すんのメチャクチャに厳しいからなぁ」




 あー、そうですね。そうですそうです。


 おれが画策し、神々見かがみさんからの人員提供により設立した、例の【変身キャスト】デバイスレンタル会社ですが……していただいていた『にじキャラ』さんたちの宣伝のおかげもあって、応募倍率は三十倍近く、予約は五ヶ月待ちにもなっている大盛況なのだとか。

 新しい設備投資も必要だろうということで、ラニに備蓄素材を(おれのアレげな写真を代償として)吐き出してもらいながら……例の『龍』からもぎ取った『魔石』や『含光製油』など、この世界で採取できた素材を利用した改良版を試作しているところだ。


 ……まぁ、配信支援ツールのレンタル会社の件は、一旦置いておこう。業務好調です。




「ぶっちゃけると、昨今の『実在仮想配信者アンリアルキャスター』ブーム……主犯が『のわめでぃあ』だってこと、視聴者のほとんどは理解してるんすよね」


「おフ、っ!?」


「まぁそらそやろ。むしろ隠し通せるワケが無いねんな」


「お披露目が玄間くろまさんのおうたコラボだもんね。僕ら『にじ』以外からで唯一の参加者だったし……そりゃ一目瞭然っていうか」


「むしろ……バレないわけが無い、っていうか」


「『のわめでぃあ』さんの視聴者がな、あっちゃこっちゃで律儀に宣伝してくれてるんよ。『可愛い実行犯のチャンネルはこちら』って」


「まぁ、そんなわけで。……なんで、改めて言わせて貰いますけど……わかめちゃんの恩恵にあずかってる下々の民は、配信者キャスター視聴者リスナーも含めて大勢、スッゴク大勢いるんすよ。『神』と崇めてる熱心な信者も居るくらいで。まぁオレもなんすけどね」


「んヒィ!? きき、きょうひゅくでひゅ」


「「「「かわいいー」」」」


(顔赤いよノワ~~)


(ひかたないでひょ!!)




 偉大なる先駆者であり、大御所の超有名配信者キャスターさんであり、ほかでもないおれの『推し』の一人である彼に、身に余る光栄な評価を頂き。

 おれはとても嬉しく思う反面、どちらかというと照れくささのほうが勝ってしまったのだが……仕方無いだろ、根が小市民なんだし。



「も、もぉぉぉ!! ミーティング! はやくミーティングいきましょ! 夜遅くなっちゃうじゃん!!」


「はいはい。じゃー私ら行ってくるから、つるちゃんふーちゃんは先寝ちゃってて」


「はーい」


「いやー……寝る前に良いモン見れたわ。わかめちゃんほんまカワイイねぇ」


「んひュ、っ!? も、もぉー!!」


(そのカワイイムーブ……狙ってない、っていうなら相当だよ)


(なによお!!!)




 そんな照れくささを誤魔化すというか、こそばゆい話題から逃れるために……おれは大げさに手をバタバタしたりして、強引に話題を切り替えたりもして。

 やることをきちんとやり、招待主ホストとしての役割を全うするべく、本日最後の仕上げに取りかかるのだった。



 でも、まぁ……確かに気恥ずかしいし、過分な評価だとは思うけども。

 それでも、悪い気はしなかったよな。『神』とかな。……むふふ。



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