第467話 【企画初日】よるミーティング



「えー……それでは『実在仮想アンリアル林間学校』第一部・一日目! お疲れ様でした!!」


「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」




 現在時刻は……二十一時半を回ったくらいか。

 嬉しいことに大盛況だった(らしい)ライブ配信は、つい先程つつがなく配信終了し……つまり今は完全なオフモードである。


 おれたち運営サイドと、配信スタッフの方々と、そしてなによりも出演者であるⅠ期生の方々……のうち、まだ生き起きている面々、合計十数名。

 彼ら彼女らはキャンプ場管理棟でもあるわれらが拠点『のわめ荘(仮称)』一階和室に集い、現在ミーティング兼ちょっとした『お疲れ様会』が執り行われていた。




「とりあえず……第一陣として一日やってみた感想とか、もしくはご要望とか……ありますか?」


「ははぁん? 感想。そりゃあ……ねぇ?」


「おうよ。控えめに言って『最高』しか無ぇっしょ」


「めっちゃたのしかったどすじゃよー!」



 演者代表としてこの場に参列しているのは、お三方……勇者エルヴィオさんと魔王ハデスさまと、王女ティーリットさま。

 ちなみに邪龍ウィルムさんと天使セラフさんは早々におねむしてしまっており、働き続けた悪魔オギュレさんはさすがにお休みを希望し、聖女ベルナデットさんと魔法使いソリスさんは来たがってたらしいけど厳選なる抽選じゃんけんに負けたためテントでふて寝してるという。


 まぁ……男性陣のリーダー的立場である(はずの)勇者エルヴィオさんと、女性陣のリーダーである(と正直にわかには信じがたい)王女ティーリットさまがご参列あそばされているので、そこはべつにいいとしよう。



「釣りバカ対決も楽しかったし、肝試しも。言い出しといてなんだけど、正直できるとは思ってなかった」


「ウィルのドジっ子っぷりには困ったけど……まァおかげでだかもなかなかだっただろ? 賞品のビールも差し入れて貰ったしな」


「あははははー! ハデスくんの悲鳴スゴかったどすねぇ……『このアホ邪龍!!』って! あとはほら、肝試しのときの悲鳴も!」


「ありゃあな……正直『してやられた』ってェか…………安全地帯かと思ってた所にテグリちゃんの『のっぺらぼう』はズルいって!」


「……恐縮に御座います。……楽しんで頂けたのなら、手前としても従者冥利に尽きます」



 ふつうの顔といつもの天狗半面に戻った天繰てぐりさんは、いつもどおりのクールな佇まいでありながらも照れくささを感じているらしく、ほんのりと頬に朱が差している。……ふふふ、おれのエルフアイはごまかせないぞ。

 ともあれ、天繰てぐりさんはじめ『おにわ部』の方々に整えていただいた環境は、お客様がたには大好評だったようだ。

 特に現場ディレクタールーム兼控え室セーフエリアとして使っていただいてた小屋も、利用者であるスタッフさんから大変高い評価をいただきまして。電源と光ケーブルを突貫工事した甲斐がありました。

 まぁ、主に作業したのは天繰てぐりさんだけど。……いや、おれも穴掘ったり埋めたりは貢献したか。ふふん。





「では運営サイドから、簡潔に。途中の『休憩中』画面表示の……三十分かける二回を除いた総配信時間は、七時間と九分。長丁場お疲れ様です。そして最大同時接続者数ですが……およそ十四万と二千人ですね」


「「「「おぉーーーー!!?」」」」


「同僚からの報告によりますと、SNSつぶやいたーや某ネット掲示板なんかでも、結構な話題となっていたようで。スーパーチャージの合計額は……このように」


「「「「おぉーーーー!!!!」」」」




 正直行って、おれは同接数とかスパチャの合計額とか、そのへんの水準はよくわからない。今回の数字がどのくらいの評価なのかはわからないかったが……皆さんの顔色を見る限り、なかなかいい線行ったんじゃないかなと思う。

 配信のほうも、撮れ高や見所あふれる大変『おもしろい』映像になっていただろう。もちろんばっちりアーカイブ化してくれるらしいし、またそこから切り抜き職人が見所を抜粋してくれるだろうし……直接的な収益に加えて、による知名度アップも見込めるだろう。『にじキャラ』さんがわにとってもプラスになってくれたと思いたい。



 一方おれたちにとっては、途中乱入し(てしまっ)た霧衣きりえちゃん、ならびに肝試しの一件のおかげもあり、ありがたいことに現在進行形でじわりじわりとチャンネル登録者数が増えてきている。

 『あの可愛い子はいったい何者なんだ!?』からの『あの可愛い和服美少女は『のわめでぃあ』所属らしい』からの『なんでも今回の会場を提供した集団らしい』ということで……おれの親愛なる視聴者さんが、各方面で宣伝してくれたということらしい。ありがてぇ。



 まぁ、そういうわけで。

 『にじキャラ』さんにとっても、おれたちにペイした費用以上の収穫を……早くも一日目でほぼ回収し終えてしまったらしく。

 また『今後の展開を考えていくためのいろんなデータも仕入れることができた』と、たいへん喜んでくれた。


 第一陣の一日目……企画全体においても初日となる今日を終え、あとは明日以降の後続に備えて、改善すべきところを洗い出す。そのためのミーティングとなる。

 お酒やおつまみ(霧衣きりえちゃんお手製)が並んでいるのは……まぁ、そういうこともあるさ。




「改善点、っていうか……思ったんすけど、『好きにしていいよ』ってなると、逆に戸惑うかもしれないんすよね」


「そうだなぁ。やっぱ俺様らって根っこのところで配信者キャスターだし……無意識に『楽しませよう』とアレコレ考えちまうんだよなぁ」


「逆にいっそ『本日のおすすめ』みたいのあると、みんなやりやすいかもしれないどすー。『魚釣り』とか『肝試し』とか、あと『木のぼり』とか『ターザンごっこ』とか『カレー』とか」


「あー……何ができるかを事前にリストアップしとく、ってことか? 一理あるな」


「オレらも思い付きで行動してたしなぁ、釣りバカ対決とか肝試しとか。……まっさか対応してもらえるとは正直思わなかったけど」


「えへへー。こんなこともあろうかと、準備させていただいてました!」


「「すげーよ」」「すごいんじゃー」




 スタッフのみなさんは頷きながらメモを取り、おにぎりや唐揚げやだしまきを摘まみながら、あれこれ積極的に改善案を提示していく。

 おれと天繰てぐりさんもまたいろいろと情報を提供しつつ、協力できる範囲で力になれることを探していく。


 木のぼりやターザンごっこやロープワークなんかは、そんなに高くまで登らなければ導入できるかもしれないけど……しかしやっぱり危険が危ないからな、みなさんに何かあっては大変だ。

 安全第一を心掛けつつ、実在仮想配信者アンリアルキャスターであるみなさんの魅力を余すところなくアピールできるアクティビティ……この大前提を蔑ろにするわけにはいかない。


 一方で、晩ごはんメニューのほうは選択肢を用意しといてもいいかもな。今日Ⅰ期のみなさんが堪能したバーベキュー以外にも、キャンプといえばカレーやダッチオーブン料理なんかも魅力的なのだ。

 選択肢をいくつか用意しておいて、その中からランダムで選んでもらうとかいうのも面白いかもしれない。籤引きとか……あるいは、サイコロとかで。



 そんなこんなで総合的に考えてみると、あらかじめをリストアップしておく『おすすめメニュー』作戦そのものは、結構いい考えかもしれない。

 漠然と『さぁキャンプしろ』って言われるよりも『この中で何がやりたいですか』って選択を迫られるほうが、やる側にとっても助かるだろう。




「うーん、『本日のおすすめ』作戦、良いとは思うんですけど……やるならパネルか何か用意した方が良いでしょうか。……若芽さんすみません、ものは相談なのですが、」


「あっ、プリンターですか? ご用意できますよ。さすがにA3までですが。あとラミネーターとかスチレンボードとかプラダンとかスプレーのりとか、ガムテープや極太両面テープもありますので、もしよろしければ」


「ぇええぇ…………ありがとうございます」


「待ってください金剛マネージャーさん何でそこでヒくんですか」



 失礼な。某即売会のポップや卓上什器を作るためのマストアイテムやぞ。モリアキのような神絵師ならまだしも、おれのようなヘッポコ作家は見映えするレイアウトで誤魔化すしかないんやぞ。


 ……まぁ、底辺サークルの涙ぐましい努力はともかくとして。

 おれのかつての商売道具が、明日明後日明明後日の『にじキャラ』さんのためになるのなら……それはとても嬉しいことなのだ。




「それでは、こんなところで……夜更かしも宜しくないので、終わりにしましょうか。演者の皆さんはお休み下さい」


「警備員いるので大丈夫だと思いますけど、何かあったらREIN下さいね!」


「了解っす。お疲れ様です」


「お疲れ様。明日もよろしくな!」


「おやすみじゃよー!」



 あたりは街灯もない真っ暗なので、安心と信頼の天繰てぐりさんに先導を任せ。

 手に手に懐中電灯やランタンを掲げ、きゃいきゃいと楽しげに語らいながら、ファンタジックな三人組はテントサイトへと戻っていく。


 ……そう、『また明日』。お昼までのわずかな時間とはいえ、彼らにはもう一仕事残っているのだ。

 一晩ぐっすりゆっくり休んで……また明日、おれ含め世界中のファンのみんなに、たのしげな様子を見せてほしい。






 …………と、いうわけで。

 こんなこともあろうかと、一階キッチン横のワークスペースに移設しておいたA3複合機を、『にじキャラ』さんの作業場所と化した和室へと持っていく。

 パソコンや編集機材の立ち並ぶ座卓の横にもう一台座卓を出し、ボードや印刷物用の作業スペースを整えていく。



「…………さて、じゃあ……始めますか」


「本当に良いのですか? 正直なところ助かるのは事実なのですが……」


「大丈夫ですって。なにせわたしは招待主ホストですし……みなさんもわたしのお客様ですので。徹夜や夜更かしなんてさせませんって」


「もう本当マジでありがとうございます」


「んへへー!」




 明日に備えなきゃならないのは、スタッフのみなさんだって一緒なのだ。

 少しでも早く眠ってもらうためにも……人手は一人でも多いに越したことはないだろう。



 なにしろ……おれにとっても趣味と実益を兼ねた、とてもたのしいおしごとなのだ。


 泣く子も笑う『のわめでぃあ』代表として、是非とも『お役立ち』させていただこうではないか。



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