第463話 【企画初日】順調快調絶好調



「お前なんだ? 冒険者ギルドの奴か? 三組の勇者か?」


「やめろよそういうの」


「おい勇者ァ…………そのジャージ魔王軍のじゃねぇ? 返してやれよ」


「やめろって! オレ集中してんの! 魚逃げんだろ!」


「逃がそうとしてんだよなァ!」




 せつめいしよう。ここはわれらが『わかめ沢キャンプ場(暫定)』の渓流プール……あらため、生け簀エリア。

 現在は施設管理者から釣り道具の支給を受けた勇者エルヴィオさん魔王ハデスさまにより、急遽ガチンコ釣りバカ対決が繰り広げられているのだ。


 釣り針に練り餌をくっつけて釣るタイプの、非常にシンプルな釣り方ではあるが……いい歳した大人の男性がこれまた楽しそうに、キャイキャイとはしゃぎながら真剣勝負と洒落込んでいた。




「やっぱホラ、人の影が映ると魚逃げんだって! だからほら、おまッ、おまえ! やめろ跳ねるな! 振動を与えるな振動をォ!」


「俺様魔族だしー? ヒトじゃねえしー? このままいけば五対一で逃げ切って俺様の勝ちだしー?」


「おッまえ! 露骨にきたねェぞ! それが魔王のやること…………やることっぽいか?」


「ぇえぇぇ……『魔王』の所業にしては……その、可愛らしいような気もしますが……」


「可愛らしいっていうか、幼稚って言うか……もう小学生男子みたいよね。セラちゃんもなんか言ってやりな?」


「わたしはおいしいお魚がいただけるならなんでもいいです」


「「「「かわいい」」」」



((わかる))




 女性陣からの熱い視線(※食欲由来)を受けて、年甲斐もなく騒ぎまくる勇者エルさん魔王ハデスさま

 非常にいろいろと白熱してる対決なんだけど……その理由が『勝者に進呈される缶ビール』なわけだから、そりゃまぁ確かに優勝したくなるもんな。やっぱり超有名仮想アンリアル配信者キャスターとてひとりの一般成人男性なわけだ。……いや『一般』ではないか。


 ……まぁ、小学生男子勇者と魔王が釣りに白熱するのは悪くはないと思うし、実際配信の向こうの視聴者さんも白熱してくれてるみたいなのだが……その影で上級悪魔オギュレさんが火付け用のたきぎをせっせと集めに行ってるのを見て、本当にこの悪魔お兄さんはいい人だなって。





「おぉ? 二人とも良いペースであるな。何匹差になわーーーー!!?」


「おま、っ!? あ゛ーっ! あ゛あ゛ーーっっ!! あ゛あ゛あ゛ーーーっっ!!! アホ邪龍てめェ俺様の魚ァ!!?」


「ち、違うんだって! わがはい足の爪先つまさきとかまだ間合い慣れてなくって!」


「おっとぉ! いよいよ勇者オレが一匹差まで追い上げましたァー!」


「一匹差じゃねえよ!! 一匹差じゃねぇぇぇよ!!」






「いやーいやー……やはり期待を裏切りませんね、Ⅰ期の皆さんは」


「ははは。まぁ……魔王ハデス勇者エルも『大騒ぎすんのが仕事』みたいな所あるし、ね」




 魔王の絶叫というか悲鳴が響く山の中で、一人せっせと準備に勤しむチャラ男系上級悪魔……のガワを被った、極めて誠実な青年。

 彼の手にする袋には、焚き付けにもってこいな細い枯れ枝や乾いた枯れ葉などが詰め込まれ、そこへおれが持ち込んだもう一袋が追加される。



「いつもアフターフォローお疲れ様です、オギュレさん。……杉と松の葉、こんなもんで? ちゃんと乾燥させてあります」


「充分充分。ありがと。……手間掛けさせてごめんね、若芽ちゃん」


「なんのなんの。実際眺めてるだけよりも、ちょっとでもお役に立ちたいですし。……他に必要なものあります?」


「うーん…………贅沢言ってるのはわかってるんだけど……お茶とか、水分補給用の。お願いしてもいい……かな?」


「あっ……了解です! こっそり小屋の中に設置しときますね!」


「助かるよ。ありがとう」


「エヘヘー」




 絶叫と呼んで差し支えの無い悲鳴を上げる魔王さまと、大笑いしている女の子たちの喚声をどこか遠くに。


 おれは招待主ホストとして頼まれごとをきっちりこなすべく、おうちへと飛んでいった。









「わかめさまっ! わかめさまっ!」


「わかめどのー!」


「ごしゅじんどのー!」


(ヴッ!!! すき!!!)



 おれの一時帰還をリビングで出迎えてくれたのは、わが『のわめでぃあ』が誇るかわいいなかよし(?)三人組。

 霧衣きりえおねえちゃんのタブレットでは今まさに『実在仮想アンリアル林間学校(※通称)』が配信中で、そこには奇跡の大逆転を遂げて万歳三唱している勇者と、まさかの敗北に男泣きしている魔王の様子が写し出されている。

 ……いや、ハデスさま可哀想すぎるやろ。あとでビール差し入れしてあげよ。



「きりえちゃんジャグちょっと借りるよ。冷たいお茶つくって持ってったげたい」


「そ、それでしたら、わたくしが! わたくしがお茶をお作りいたします!」


「いやいや、ここは我輩が! ちゃんとおてつだいできるところを見せてやろうではないか」


「…………じ、じゃあ小生も」


「「「どうぞどうぞ」」」


「ほぇぇぇ!!!?」




 いやあ……順調にエンターテイナーとして育っていってくれているようで、おれとしても鼻が高いですな。かわいいが。

 お茶目さを盛大に発揮してくれた霧衣きりえちゃんたちを『配信を見てお勉強するように』と宥めて着席させ、おれはキッチンの戸棚からウォータージャグを引っ張り出す。よく草野球のベンチとかに置いてあるアレだ。

 麦茶のパックを二袋いれて、あとはシンクの蛇口からお水をジャバーっといれて……トドメとばかりに冷凍庫から氷を取りだし、ドボドボと投入。これでつめた~い麦茶が十リットルできるというすんぽーだ。



「じゃあおれは現場戻るから、何かあったらREINメッセージちょうだいね」


「はいっ! わかりまして御座いまする!」


「あー……あと霧衣きりえちゃん、ごめんねなんだけど……(和室で作業してる)スタッフさんに、お茶とか……軽く食べれるおにぎりか何か、差し入れてあげてもらってもいい? 長時間のおしごとって疲れるだろうし」


うけたまわりまして御座いまする。(現場で撮影している方々も含め)すたっふの皆さまに、でございますね?」


「(皆さま……? あっ、何人か残ってたのか。なるほどな。)うん、そう。お願いできる?」


「吾輩もおてつだいするゆえ、安心するがよい」


「な、ならば小生も! 小生もお役に立ちましょうぞ!」


「みんなえらい! あとでごほうびをあげよう!」


「「「わあーい!」」」




 まだまだ催し物は始まったばかり。ほんの短い間の一時帰還ではあったが、おれは目的を果たしながらも充分に『かわいい』を摂取することができた。


 とりあえずはお茶と紙コップを、小屋内にこっそりと設置すべく……おれは【隠形】の魔法を纏い、今まさに世界中から注目されている『たのしい』現場へと戻っていった。



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