第452話 【決戦前夜】鬼が出るか少女が出るか
おれたちが、とある一人の少女を捕縛してから……つまりは『とある爆発事故』が発生したあの日から、三日目のこと。
この世界の侵略を企てる『魔王』の、その使徒たる少女である。
……ちなみに、例の爆発事故…………多くの人々に炎と煙を見られ、また現場となった工場に勤めていたのはあくまで一般の方々であったということもあり、さすがに隠蔽しきるのは無理であると判断されたようで。
しかしそこは報道規制と情報統制をバッチリ利かせ、とりあえずは『レウケポプラの栽培および燃料としての高熱量ペレット普及を快く思わない石油利権関係者による犯行』といった筋書で、実在しない人物を容疑者としてでっち上げる方針らしい。
そちらのほうの『演出』に関しては、
なのでこちらはマスコミやら世間の声やらを気にすることなく、じっくりと取り調べに臨めばいい……ということらしい。
……まぁ、あくまで一時しのぎ……時間稼ぎの対処のようなので、なおのこと事情聴取が重要になってくるわけだな。
ともあれ、三日間昏睡したままだった容疑者の意識が回復したこともあって。
『魔王』の行動および目的に関して、極めて重要な手懸かりを秘めているであろう彼女の取り調べが……春日井室長たち特定獣害対策室によって、ついに始まろうとしていたのだった。
それに伴い、『専門家』であるおれたちにも協力の要請が下ったわけなのだが……前向きだったおれたちの前に立ちふさがったのが、容疑者が軟禁されている場所の『特殊性』だった。
「………………そうじゃん、魔法使えないじゃん。ボク鎧着れないし……それどころか、翔べないじゃん……」
「うーわ、そうじゃんおれも【隠蔽】とか使えないじゃん。……ぇえ…………どうしよ」
魔王使徒の抵抗を封じるための、
正体バレを防ぐための【隠蔽】系統は使えないし、ラニも鎧を着込んで動かすための【義肢】はおろか、常用している【飛翔】魔法も使えない。
……まぁ、そうでもしないと拘束・無力化できないとはいえ……つまりあの子の事情聴取に同席するには、偽りのないおれ
おれの正体を知らなかったとはいえ……敵対する関係にありながらも、それでも
これまで彼女の活動のことごとくを妨害してきた、忌々しい仇敵の正体が……自身が応援していた相手だったのだという、残酷な事実を。
自分が応援してきた存在が、自分の存在意義の全てを否定する存在なのだということを……はっきりと突き付けることになるのだ。
「………………仕方がない……のかなぁ」
「ノワ…………」
「…………しょうがないよ。おれの個人的な感情で、得られたはずの情報を捨てるのもばからしいし。……それに一度、腹を割ってお話ししてみたいし」
「お話……あの子と?」
「うん。……面倒見が良くて、社交性もあって、やさしい心を持ってる
「…………ボクたちにも……教えてくれるか、わかんないよ?」
「だったら尚のこと、それだけで諦めるわけにはいかない。何度でも何度でも、しつこいくらい通って……ちょっとずつ打ち解けるしかない」
「このまま関わらずにいる、っていう選択肢は……無いんだね」
「そりゃそうだよ。……あの子だって、あんな異能を授かってるんだから…………全てを諦めて、絶望して、そこを『種』に付け込まれた……
彼女が活動を開始していたのは……おれたちがミルさんと交友を深める、そのすこし前あたりだろうか。
つまりはおれやミルさんと同じように、昨年末の大嵐の日に
おれには『
そう考えると……
ある意味では願望を叶えてくれる『種』ではあるが……その行き着く先は、魔力の生成によるこの世界の環境破壊。
このまま『魔王』の暗躍を眺めていては、世界をどんな混沌が包んでいくか想像も出来ない。
使徒である彼女……
そして……使徒でありながら、この世界の行く末を案じる気持ちがあるのなら。
おれの話を聞いて、協力してくれるようになるかもしれない。
「やっぱ……決めたよ、ラニ。おれは……
「…………気負いすぎないでね。ノワだけが全部背負わなきゃいけないわけじゃないんだから」
「ありがとう。……大丈夫だよ」
スマホを取り出し、タップして
そのままチャットで日程の調整を行い、事情聴取の日時が明日の朝九時に決定する。
水洗トイレを完成させ、炊事場を完成させ、薪や水タンクを用意して、おうちとの間の道をきちんと整えて……やらなければならないこと、やりたいことがたくさんあるのだ。
厄介なことは、可能な限り早めに……できれば明日のうちに終わらせてしまいたい。
そう願うのは、おれの一方的なわがままなのかもしれないけれど。
勝手な願いだとわかっちゃいるけど……そう望まずにはいられなかった。
――――――――――――――――――――
しかし、まぁ……これもまたわかっちゃいたけど、世の中そう簡単にはいかないもので。
事情聴取って、いうてお話するだけでしょ……などと考えていたおれの軽い気持ちを嘲笑うかのように、事態はとんでもない展開へと変貌を遂げてしまうのだった。
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