第449話 【現状報告】この後どうしますか



『…………すみません、もう一度お願いします』


「神様に頼んで牢屋に入れて貰ったので、もう悪さ出来ないと思います」


『………………神様、とは……比喩では無いのでしょうね、恐らく』


「そうですね。二拝二拍手一拝する感じの神様です」


『……………………』




 春日井さんからの緊急連絡から始まった、一連の騒動(の一言で片付けるには色々とありすぎたのだが)を乗り切った、その晩。

 おれたちは普段通りを心掛けて霧衣きりえちゃん手づくりの夕食をいただき、普段通りを心掛けて片付けを済ませ、普段通りを装って自室へと戻り……こうして勤めを果たすべく、春日井室長さんに報告を行っていた。


 主な内容としては……『現場に出た『特定害獣』駆除の完了』『主犯格と思しき少女の捕縛・拘束』『その所在および現在の状況』といったところだ。

 さすがの春日井さんでも、連行先がほかでもない『神様』のところって聞いたときには、戸惑いを禁じ得なかったようだ。ふふん。



「とりあえず、魔法使って抵抗される心配は無さそうです。囘珠まわたまさんの神使……あーえっと、専門家の方々も協力してくれるらしいので、事情聴取は出来ると思います」


『助かります。情報に目を通した限りでは……我々だけでは到底手に負えない相手ですので』


「……もし、よろしければ…………わたしかラニが同席しましょうか? ……専門家ってわけじゃないですけど」


『そうですね……取り敢えずは、お気持ちだけ。あまりにも手に余るようなら、改めてご相談させて頂ければと』


「了解しました。……『魔王』がわの対応が気掛かりです。何かあったら遠慮なく声を掛けてください」


『重ね重ね、ありがとうございます。……そう言って頂けると、非常に心強いです』




 伝えるべきことをすべて伝え終えて、通話を終了する。

 取り調べに関しては部外者のおれがしゃしゃり出るより、本職である春日井さんたちに任せたほうがいいだろう。


 情状酌量の余地もあるだろうけど……今回のことは、損害の規模が規模だ。

 無罪放免というのは、さすがに少々難しい。




「……どう思う? ラニ」


「…………ステラちゃんは、メイルスにとって有用な手勢のハズだ。そのまま大人しく諦めるとは……到底考えにくい」


「だよねぇ。…………となると」


「……シズちゃんか」


「もしくは、か。…………うわ、言ってて思ったけどやばくない?」


「やばいね」



 考え得る最悪のパターンとしては……勇者ラニをもってして『非常に危険』と評する【食欲】の使徒と、マトモな攻略手段が皆目見当つかない【睡眠欲】の使徒が、二人同時に襲ってくるということ。


 あの二人に真正面から喧嘩を売られたら、正直いって勝てるかどうか怪しい。

 たとえ騎士おれが防御を固めたところで、あの【食欲】の侵食力に果たして抗えるかどうか。守りの上から囓り取られることだって有り得る。

 そして【睡眠欲】に至っては……例によって対処不可能の昏睡誘引が厄介だ。こちらが『睡眠』を必要とする生命である以上、抗いきれる保証はどこにも無い。



 おれたちが先んじている点といえば、捕虜の収監場所があちらに露見していないという点だろうか。

 現場からラニの【門】によって、人目につかぬように囘珠まわたまさんへと移送を行ったのだ。たとえ救出作戦を企てていたとしても、どこに捕まっているのかがわからなければ行動しようがないだろう。


 つまりは……すぐに反撃が始まるわけではない。

 …………たぶん。




「……とりあえず、いつでも行動に移せるように……覚悟だけはしとくよ」


副業コッチに掛かりっきりにならないようにね。本業アッチもまた騒々しくなるし……団体さんの来客、近いんだろ?」


「…………そうだね。 水曜日に一回『にじキャラ』さんトコ行って、オリエンテーションっていうか説明させてもらうかたち。そこで資料と見積書出そうかなって」


「なるほどねぇ……その資料ってボク見て平気?」


「んー無理。まだできてないから」


「えっ?」


「まだできてないから」


「…………………」


「…………しかたないの!! 作ろうとしたら緊急事態だったの!! おれは正義の魔法使いだから!!」


「あーあー、ごめんね。そうだね、ノワはえらい。ノワがんばってる。ノワいいこ。ノワかっこいい。ノワえっち。ノワやり手配信者キャスター。ノワかわいい」


「うん。…………うん?」




 晩ごはんとお片付け後のこの時間は、わが家では各々が気ままに過ごすフリータイムとなっている。

 一階のリビングでは本日の功労者である朽羅くちらちゃんが、霧衣きりえちゃんとなつめちゃんに駄々甘えしていることだろう。


 まぁそんな中、おれたちは作業部屋スタジオでおしごとに取り掛かるわけだが……たとえ別室で過ごしているとしても、同じ屋根の下であの子たちが過ごしているというだけで、こんなにもモチベーションが上がってくる。

 単身者世帯で、一人孤独で黙々と作業に没頭していたときとは……意欲も効率もまったく違うのだ。




「邪魔じゃなかったらさ、ボクも見てていい?」


「いいよお。むしろおれだけだと抜けがあるだろうから、意見ほしいかも」


「えっ? ノワでだって?」


「抜く竿が無いでしょラニちゃん……」



 健全な美少女たちにはとてもとても聞かせられない無駄話に興じながらも、おれは愛機PCを立ち上げてキーボードを乱打していく。

 文章がどんどんと打ち込まれ、膨大な写真データから適切なものがピックアップされ、完全会員制『わかめ沢キャンプ場(仮称)』の施設案内がどんどん形になっていく。



 コテージ(未満の休憩小屋)あり。屋外炊事場(未満の屋根下作業スペース)あり。テントサイト(にも使える広めの砂地)あり。水洗トイレあり(※当日までに完成予定)。温泉街徒歩(でもなんとか行けなくもない)圏内。二十四時間警備体制・コンシェルジュ(カラス天狗)あり。


 こうして見ると、設備と環境はなかなか揃っているように思える。

 ただし炊事場をはじめ、まだ充分とは言いがたいものも幾つかあるので……水洗トイレを仕上げるついでに炊事場シンクや調理台、かまどスペースなんかも可能であれば整えたいところだ。



 そのあたりもふまえ、『現在の設備』と『当日までに整える設備』を記載しておけば……まぁ、あとは当日のおれのベシャり次第だな。

 最悪も最悪、このおうちの各種設備を解放すれば……まぁ、なんとかなるだろう。




「たのしそうだねぇ」


「そうだねぇ」



 打ち合わせから実行予定日まで、二週間程度は時間があるハズだ。

 なのであとは先方からの要望を可能な限り酌んで、当日までに設備拡充に務めていこうかと思う。


 単純に楽しみだし……正直、そこそこの収入が見込める催しなのだ。

 副業も慌ただしくなってきているが、こっちも是非とも気合を入れ……成功させたいものだ。



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