第444話 【在宅勤務】局長のとある一日
突然ですが、現在わたくしは撮れたてホヤホヤの動画データ……そう、渓流プールの水遊びに端を発する一連のアウトドアお泊まり大作戦の映像のですね、編集作業に取り掛かっておりましてですね。
ただ黙々と作業に没頭するのもつまらないので……こうして『おりこう』な並列思考を活用してですね、実況じみた語りを入れさせてもらってる次第で御座います。
まぁ配信者トレーニングの一環ってやつよ。
というのもですね、我々のわめでぃあ……普段であれば撮影した映像の編集は、モリアキの友人である
嬉しいことに、わが放送局の視聴者さんであるという彼……およびスタジオの皆様によってですね、わたしの意をばっちりと汲んでいただき、毎回とてもとてもすばらしい作品に仕上げていただいているのです。すごいぞプロの技。
明言しておきたいのは、そこに不満は全く無いということ。
ほかでもないわたしの活動時間の捻出に、きわめて多大なる貢献を頂いているわけなのですが…………さすがにね、今回はね。
大筋として水着シーンが多量に含まれる上、ラニちゃんの好みによってセンシティブな部分をこれまた大量に含まれると思われるので……さすがにわたしが直々に編集しなきゃならないでしょうね、これはね。
わたしの見てた限りでは無かったと思うんだけど……万が一、いや億が一にでも、ビキニ組が『ぽろり』していたとしたら。
わたしは……そのときは、腹を切ってお詫びしなきゃならなくなってしまう。
……っとまあ、そんな感じの理由がいろいろとありまして。
本日こうして自宅のお仕事ルームにて、
「我輩はこどもが四人も居るのだぞ。その大きなおうちを譲るべきであろう」
「なにを仰います。斯様に立派なお屋敷とあらば、小生にこそ相応しく御座いましょう」
「ぐぬぬ…………あのとき『十』が出ていれば……」
「はっはっはー! …………えっ『固定資産税』? な、なんで御座いましょう、その剣呑な響きは」
……わたしのたぐいまれなる集中力は。
配信者に求められる様々な能力を秘めた、このわたしは。
この程度で……集中力をかき乱されたりは、ぜったいにしないのでして。
「や、やった! 小生にもやっとあかちゃんが! あかちゃんができて御座います!」
「ほう……兎にしては随分と遅かったな。旺盛で多産であると聞き及んでいたのだが」
「し、小生は! 小生は、きちんと愛を育んでいく方針に御座いますれば! どこぞの泥棒猫のように手当たり次第に交尾したりは致しませぬゆえ!」
「…………よく言った好色兎めが。望みとあらば我輩が直々に鳴かせてやろうか」
し、集中力が……!!
なんの、この程度……わたしはぜったい、ぜったいに集中力を持ってかれたりしないんだから!!
(難儀だねぇ、ノワ)
(ぐぬぬぬ……)
マス目の指示にたいへん可愛らしく一喜一憂するその姿は、幸いというべきかラニちゃんによってバッチリカメラに収められているので、わたしもあとで堪能することは出来るのですが。
……ですが、まだ幼げな美少女の口から『あかちゃん』とか『おうせい』だとか『こうび』なんて言葉が飛び出ちゃうとですね、さすがにちょっと心穏やかじゃないわけですよ。むらむら。
(いや『むらむら』じゃないが。子守り頼まれたんでしょ?)
(子守りってほどでもないけど! 二人ともちゃんと(自称)おとなだし!)
(大人は『寂しいから一緒に居たい』とか言わないんだよなぁ。つまりあの子たちはまだ幼)
(お、おれはふたりを信じるもん!)
(『もん』じゃないが)
そう、今日現在この場――というよりも、このおうち――には、彼女たち幼年組(とわたしたち皆)のおねえちゃんにして保護者でもある、
言葉には出さずとも寂しそうにしている二人を見かねた
そしてその、珍しくおうちを留守にしている
……というのも、ほかでもない。
われらが
そんなこんなで、主催者さんのお名前で調べてみたり実際にこっそり見学してみたり、アレコレと選り好みをしていたところ……なんとびっくり、ハープのレッスンでお世話になった(※今でも週イチでお世話になっている)
……というわけで、つい先日直接お邪魔してお話をお伺いさせていただきまして。
どうやら生徒さんもお上品な方々ばかりで、わたしの目で見てみても
ここならば、少々経歴と服装が常識からズレてる二人であっても、下衆な勘繰りや悪意に晒される危険は無さそうなので……お世話になることに決めました。
そんなお料理教室の第一回が今日なので、
お料理教室の会場ビルまでラニの【門】でお届けしてもらったし、モリアキも案内役(兼試食係)として帯同しているし、あちらはあちらで新鮮な体験を摂取していることでしょう。
「か、株がーー!! 小生の株がーー!!」
「おお、五人目を授かったぞ。……くるまに乗れぬな、寝かしておくか」
「ぐぬぬ……まったく多産な猫であらせられますなぁ」
「は。大人の余裕というものよ。子供そのものの子兎と一緒にされては困る」
「きーーっ!!」
なので……
二人ともわたしの仕事をきちんと理解してくれているので、わたしの邪魔をしないようにと(まぁ最初の頃は肩に顎乗せてきたり膝に乗って来たりと元気いっぱいだったのですが)今ではこうして二人仲良く(?)遊んでくれているのですね。
まったく……とても可愛らしくて、尊い子たちです。
「おお、ごーるであるな! やはり我輩に軍配が上がったか。勝敗は火を見るよりも明らかであろうよ。まぁ子兎にしては頑張ったほうではないか?」
「わぁーーんごしゅじんどのぉーー!! くちらはちゃんとおどなでございましゅぅーーーー!!」
「あーはいはいはい泣かないの! もー……
「む…………そ、そうであるな。やはり我輩も少々おとなげなかったようだ。すまなかった、子兎」
「ふーん! 阿婆擦れ泥棒猫が今さら殊勝な態度を取ったところで」
「わるぐちは
「なつめどの! つぎは別のぼーどげーむで遊んで頂きたく御座いまする!」
「かかか! まだ負け足りないようだな、子兎め」
やりたい放題の困った子兎ちゃんだけど……この言動の根底にあるのは、どうやらまぎれもない『信頼』のようだ。
そのことをどうやら感付いているらしい『オトナ』な
……そうだよね。
こうも嬉しそうな感情をぶつけられちゃあ……怒るに怒れないよね。
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