第438話 【納涼作戦】れっつごー川遊び



 まぁ、当たり前っちゃ当たり前なのだが……いかに『渓流プール』などと言い張ったところで、広さは小学校や幼稚園のプールなんかとは比べ物にならない。

 ……もちろん、狭いほうでだ。



 きっちりとした方形では無いが、広さはざっくり五かける四メートルといったところだろうか。そのため『泳ぐ』というよりかは、完全に『水遊び』のための場といった感じだが、それでも他人の目を気にせずに水着でハシャげる場であることに変わりはない。

 取水口や護岸は岩積みなのでゴツゴツしているものの、川辺の岩は角が取れたものが多く、切ったりする危険は無さそうだ。

 目地にもきちんとモルタルが詰められているし、職人の確かな仕事っぷりが見てとれる。





「あ、あねうえ、あねうえ、手……手を、手をつ、繋いで」


「ご安心くださいませ、なつめさま。霧衣きりえめは此処に、側に居りまする」


「ご主人どのぉーー!! ごじゅじんどのぉーー!! みずがつべたいでございましゅぅーー!! あーーーん!!」


「だーーから言ったでしょ飛び込んじゃダメだって!! あーもー……ほら、おいで。温めてあげるから……」


「アーーてぇてェ光景っすわーーーー」



 そんな職人たちの作品を心ゆくまで堪能すべく、おれたちは早速パーカーを脱ぎ捨て、順次プールへと飛び込んでいった。

 なおここでいう『飛び込んで』とは比喩のつもりだったんだけど、若干いちうさちゃんがガチで飛び込んじゃってギャン泣きしちゃってる件については、おれはちゃんと『準備体操してゆっくり入ろうね』と言ってあったので悪くないです。


 撮影担当の初芽おねえちゃんにカメラゴップロを預け、飛び込んだせいで一気に身体が冷えてしまい割とガチのトーンでギャン泣きしてる(※自業自得)朽羅くちらちゃんを水から引っ張り出し……とりあえず【保温】魔法を炊きながら『ぎゅっ』て抱っこして落ち着くのを待つ。


 見た目だけはとても可愛らしい美幼女(ギャン泣き)と素肌を密着させてる件に関しては、おれの中のおとこらしさが戸惑い気味なのがよーくわかるが……自業自得とはいえ、美幼女の非常事態だからね。仕方がないね。

 いつもはことあるごとに対抗意識を向けてくるなつめちゃん(※ただしこれも元はといえば朽羅くちらちゃんの自業自得)も、現在はだいすきな『あねうえ』にしがみついて水に慣れようとせいいっぱいなので……朽羅くちらちゃんは珍しくおれを独り占めできるわけだな。ふふん。



(いやいやいや……最高かよ)


(でたなえっち妖精。……ラニはやっぱ姿隠す作戦なの?)


(まぁね。視聴者さんたちのことだから十中八九ボクの水着も求めるだろうし……さすがにそれは、これ以上の薄着はちょっと難しいだろうし)


(そだねぇ……ラニが撮影係ってしたほうが説得力あるか)


(そゆこと。程よいとこでモリアキ氏……いや、初芽ちゃんと代わるよ)


(ありがとねラニ。……ガン見くらいまでなら許すよ)


(おほォーーーー!!)



 きりもみ回転しながら初芽ちゃんモリアキのほうへ飛んでったラニちゃん……まぁたぶん言い方から察するに、撮影を代わってくれようとしてるのだろう。


 そうだな……おれたちがそれぞれ幼子をあやしてる場面は、せいぜい『チラ見せ』程度で済ませておきたい。おれたち四人が撮せないのなら、初芽ちゃんの艶かしい身体を撮影して尺を稼ぐしかないわけだ。

 まぁ今回は生配信じゃないので、実際に撮しちゃマズそうなところは編集でどれだけでも摘まむことが出来るので……撮れるうちに撮れる映像を収穫しておきたいもんな。



 監督兼カメラマン(かめらがーる?)と化したラニちゃんの指示のもと、ついにその肢体を露にした初芽ちゃんがプールへと……しっかりと準備運動をしてから、脚を踏み入れていく。

 おれもモリアキもおじさんだからね。急に身体を冷やしたらそれこそ『ヴッ!!』てなって緊急搬送されてしまう。ただでさえなりそうな光景にあふれてるのだから。


 そうやって随所におじさんらしい動きを垣間見せながら、神絵師緑髪褐色肌エルフ美少女スク水おじさんはプールを堪能していく。

 いろいろと非現実ファンタジー的な要素を多分に含んでいるとはいえ、そもそもの根底にあるのは『夏場の水遊び』だ。健全な少年としての魂が呼び起こされたおれたちにとって、魅力的でないはずが無いのだ。




「気持ちィーー! チョー気持ちイィーー! いやーサイコーっすね!! この歳になって水遊びで興奮するとは思わなかったっすよ!!」


「いいねいいね初芽ちゃん。おじさんとは思えないよー。いいよーかわいいよー。オッケーちょっと目線こっち……アッいいねーかわいいねー。そのままちょっと身体見せてもらっアッいいねーいいよぉー。アーッいいねー最高だよぉー初芽ちゃんいいよーとてもおじさんとは思えないよー。そのままいくつかポーズ取ってみてもらって……あーっいいねーえっちだねー!」


「おい今『えっち』っていったか!?!?」


「ヤベェ!! 健全警察だ!!」


「ちょっ!? オレは悪くないすよ!! オレはずっと健全第一で生きてるんで!! 危険凍結予知トレーニングも健全衛生講習も欠かさず行ってるんで!!」


「ならよし。犯人ホシはあのえっち妖精だな!?」


「そうっす」「そんなあ!!?」




 そんなこんなで大小の騒動こそありながらも、賑やかにプールを堪能させていただいているおれたちだったが……


 そんなおれたちの背後から、突如として思ってもみなかった襲撃者が姿を現したのだった。





「…………申し訳御座いませぬ、御館様。……水の加温が不充分であったらしく、朽羅クチラ嬢に御迷惑を」


「ま、全くで御座いますとも!! なんと、なんと恐ろしい所業でございましょうや! 乙女の柔肌を晒し斯様に無防備となった愛らしい小生に、この上いったいどんな辱しめを与える心算に御座いまするか!!?」


「うぜぇ。犯すぞこのガキ」


「ぴ」


「まぁまぁ求菩提クボテ、こんなんでもやんごとなき御方だし」


「左様、御館様の奥方であるが故」


「…………わかってる。


「ふ、ふぇ……」




 われらが頼れる職人にして『おにわ部』総司令の天繰てぐりさんと、その可愛らしい舎弟の烏天狗三人娘。

 まぁ、このプールと休憩小屋を手掛けたご本人だもんな、おれとしても異存はない。そもそも発注のときに『完成の暁には天繰てぐりさんたちも一緒に遊びましょう!』と言ってあったし、むしろ望むところだ。


 ……望むところ、なのだが。




「とはいえ、やっぱ……不思議な布地に御座いますね、お館様」


「……肌に、はりついて…………んっ、不思議な感じ」


しかし、まるで素裸であるかのように動き易い。……画期的な装束かと」




 身支度を終えた烏天狗三人娘が身に付けているのは……おれや初芽ちゃんと同じような、黒色っぽい学校指定スクール水着である。

 しかしながらいったいどこから調達してきたのか、それらは初芽ちゃんが着ているものよりも更にふるいタイプのものであり、腰まわり前部の水抜き穴と前面を縦に走る二本のプリンセス縫目ラインが特徴のやつでして。



 えっと、まぁ……つまりは『旧スク』と呼ばれるタイプのやつだな。

 俗称とはいえ『旧』とか言っちゃってるわけだから……つまりは世代交代を済ませた後の、前時代の遺物なわけだよ。



 メイド服といい、旧スクといい……天繰てぐりさんのツテって本当、一体どうなっちゃってるんでしょうかね!!



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