第420話 【夜襲会戦】『勇者』の戦い



『さて、片割れは早くも死んじゃったワケだけど…………いや、これそもそも『生きてる』って言うべき?』


「ッ、知らねぇよ! 【消し飛ばせブラストエンド】【実行エンター】!!」


『うわぁーコワいー(棒)』




 おれたちが呆然と見つめる先、そこではこれまた壮絶な戦いが繰り広げられていた。


 まるで一本一本が意思を持ったかのように飛び回る、すてらちゃんが放つ投擲物……非常識なほどの速度と機動と殺傷力を備えたそれらを、剣と盾と【門】で華麗に捌ききっている異世界の勇者。

 傍らには既に首から上を失くしボロボロに成り果てた『龍』だったものが、はらはらと宙に解けるように消えようとしている。



 いやー、びっくりしたね。いきなり『龍』の生首が降ってきたんだもんよ。

 顕在型防御魔法パッシブディフェンスもあるし、仮に直撃しても損傷なしノーダメで凌ぐ自信はあったけど、索敵を【魔力探知】のみに頼っていたのが裏目に出たようだ。

 見るからに機能を停止している死骸(生きていたのかはわからないが)が飛んできたところで、魔力を持っていなければ探知に引っ掛かってはくれないわけだな。


 ノルマを消化して気が緩んでたのと、がまんが緩んじゃった朽羅くちらちゃんの艶姿に釘付けになっていたとはいえ……これじゃ魔法使いおれのことを笑えやしないな。

 並列思考を失って詰めが甘くなっているのは、どうやら騎士おれも同じようだ。気を付けないと。




「……ッ!! な……何だよソレ! ざっけんな反則だろ!!」


『とんでもない。ボクのアイデンティテテュイ? だよ。まぎれもないボクのチカラさ』


「ぐ…………っ、【追い詰めろハンドリング】【土砂よセズメンド】【実行エンター】!!」


『……そっちこそ反則じみてない? ステラちゃん。従えられるモノに制限とか無いの? ステラちゃん』


「あったとしてもテメェなんざに教えねぇよ! 大人しく死んどけ!!」


『やだプー』




 魔法使いおれがさんざん警戒していた魔力砲を、あろうことか【門】に取り込みそのまま撃ち返し……その直撃を受けたのであろう『龍』は皮肉にも、自らの最大火力によって左半身を削られ。

 その『反則』じみた戦法に異議を唱えようとするものの、全く聞く耳を持たないどころか更に煽られ……すてらちゃんはどうやらヘイトがマキシマムのようで、効果が薄いにもかかわらず得意の魔法による投射攻撃を続けてしまう。


 いやまぁ、確かに……連携を阻止するためには煽り・挑発が有効なのかもしれないけど……味方であるはずのおれから見ても、そこはかとなくムカつくもんな。

 かわいそうに顔真っ赤なすてらちゃんは、勇者ラニを包囲拘束しようと土砂を巻き上げけしかけるが……残念ながら当の勇者は気にも留めず、当たり前のように【門】で呑み込んで無力化しつつ手負いの『龍』に肉薄し、必死に振るわれた腕での殴打をあっさりと捌いて懐に飛び込み、右手の剣を数閃。


 これまた見事な手際で二体目の『龍』が解体され……このボス戦も、残すところあとひとり。




『ほらほら、あとはもうステラちゃんだけだよ。どうやらも終わったみたいだし、とっておきの新兵器も全滅みたいだね。ねぇねぇどんな気持ち? とっておき全部瞬殺されちゃったけど今どんな気持ち? ねぇねぇ』


「ギ…………ッ!!」



 ……いやぁ、くっそムカつくわこの勇者ぷに◯な


 おれはまだ勇者ラニの可愛らしい容姿を知っているから、こんな煽りを受けたとしても『はははこやつめははは風呂んとき覚えとけよ』程度で済むのかもしれないけど……一方のすてらちゃんにとっては、素性不明かつ正体不明な仇敵からの執拗な煽り行為となるわけで。

 残念なことに、煽り耐性が低めのすてらちゃんは……まぁ、うん。完全に怒り心頭じゃんどうしてくれんのこれ!! どう収拾つけるつもりだオイ勇者!!




(いやね、こんだけ怒ってくれれば警戒疎かになるじゃん? そこを魔法使いに【草木】で緊縛拘束してもらおうって寸法よ)


(こちら騎士おれ。でもこれ、さすがに怒らせ過ぎなんじゃ……? さすがにちょっと可哀想っていうかラニひどいっていうか)


(こちら魔法使いおれ。ラニがひどいのは同意なので後で採集の刑するとして)


(ねえ採集の刑ってなあに!?!?)


(するとして! でも……おれを拘束すんの!? このめっちゃキケンな匂いする魔力の渦の、その中心を!?)


((ファーーー!!?!?))




 えーっと……すてらちゃんが【愛欲リヴィディネム】で支配できるものは、どうやら『物質』に限らないようで。

 今や彼女の周囲を取り巻くそのものが攻性魔力を付与され、ごうごうと音を立てながら渦を巻いている。


 そしてまぁ、当然というか何というか……彼女の周囲足下の大地も、同様に『支配下』に置かれてしまっているようで。

 おれが【草木ヴァグナシオ】で奇襲を掛けようにも、魔法を送り込むことができなかったのだ。




「えーと、待ってね。えっと……【砲門開けオープンファイア】【城塞主砲マグルシュ・ドーラ】!!」


「『うそやん』」



 騎士おれが放った砲撃魔法は、渦に散らされて周囲に破壊を撒き散らすだけで。



「待っ、まっ……【氷槍アイザーフ集束フォルコス】!!」


「『うそやん』」



 魔法使いおれが放った貫通力特化の氷魔法は、風に煽られ穂先を逸らされた上で粉々に砕かれ。




「【取扱注意危険物イクスプローシブ】【広域拡散スプレッドアウト】【あいつらを入念にターゲットインサイト】【全部ぶち壊せフルブラスト】【実行エンター】!!」


「「『うそやん!!?』」」




 鉄壁の守りを得たすてらちゃんによる無差別広範囲攻撃……支配下に置き『爆発』を命じた『含光精油』をとばら蒔く絨毯爆撃によって。


 おれたちは一転して窮地に陥り……とりあえず騎士おれの【対砲城塞バスティオン】に潜り込むのだった。




――――――――――――――――――――





『これ待ってたら嵐過ぎ去ったりしない?』


「こちら魔法使いおれ。誰かさんが怒らしちゃったから望み薄だと思うぞ」


「こちら騎士おれ。全くもって同意だわ。とりあえず戦犯蹴り出した方がいいんじゃね? タゲなすろうぜ」


『おいやめろばか!!!』



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