第418話 【夜襲会戦】『魔法使い』の戦い



 魔物どもを閉じ込める【隔世カクリヨ】結界維持の要である、可愛らしくもクソ生意気な小さな野兎の神使。

 その護衛を信頼に足る騎士おれに任せ、魔法使いおれはとにかく敵を削ることに専念する。


 もう一人の信頼に足る仲間『勇者ラニ』は、敵の指揮官である……今やバーサークモードと化したすてらちゃんと、その護衛の『龍』二体を相手取って大立ち回りの真っ最中だ。



 つまるところ、おれのノルマとなっているのは……『龍』が一体と、『獣』がたくさん。

 ……なんだか行ける気がしてきたぞ。





≪――雋エ讒倥?蜉帙r隕九○繧≫


≪――辟。讒倥↓雜ウ謗サ縺≫



「やかましい!! 【焼却ヴェルブラング】!!」



 外観はグロテスクだが、その体組織に植物の性質を備える奴等に『火』が有効なのは、前回の『評価試験』で実証済みだ。

 つまり経験が活きたというわけだな。後でジュースを買って飲もう。


 とはいえしかし、鬱蒼とした森の中で火を放つなんて、常識的に考えれば有り得ない解決策だろう。倒した敵の身体を焦がす残り火が下草や低木へと燃え広がれば、そのまま山火事の原因となる。

 そうなれば、近隣に住まう人々の生活と財産が脅かされ……また負の感情が高まり、悪循環へと陥ってしまう。



 …………の、だが。




「近付かせねえよ! 【焼却ヴェルブラング】【並列パリル三十二条トリツヴィク】!!」



 というわけで、最初から全力クライマックスだぜ。


 山火事の原因になる。森で火は危険。なるほど了解。しかし使う。

 あいつらに『火』が有効であることは変わり無いし……なんなら周囲に炎が拡がれば、そのまま奴らの行動を阻害することができるわけだ。一石二鳥だな。

 燃え広がったら燃え広がったで、いよいよヤバくなったら魔法で消火すればいい。大丈夫、叡知の美少女エルフだよ。



「はっはっはっは。燃えろ燃えろ。どんどん燃えろイェーフゥー!」


「も、森がー!? 神々見カガミの森がー! あぁぁー!」


「アッだめみたいだね、あの魔法使いおれ完全に調子に乗ってるよあれ」



 周囲を炎に巻かれ、身体の末端より炎に侵され食いつかれ……そうして動きを止め、あるいは理知的な行動が出来なくなった『獣』目掛けて、おれは安定安心信頼の『聖命樹のリグナムバイタ霊象弓ショートボウ』にて制圧射撃を掛ける。

 狩猟民族エルフとしての本領を遺憾なく発揮し、炎で照らされ視界も充分な標的へと、毎秒二射ずつのペースで矢を突き立てていく。


 黒くてキモくても『獣』は『獣』だ。狩猟民族エルフであるおれが『獣』なんかに負けるわけ無いだろう。おれは絶対『獣』になんか負けたりしない。





≪――蜉帶ッ斐∋縺ィ豢定誠霎シ繧ゅ≧縺倥c縺ェ縺?°窶ヲ窶ヲ蟆丞ィ!!!!!!≫


「あマ゜――――――!!!!」



 『獣』の群れに気を取られていたおれのもとへ、側方から『龍』の魔力砲ブレスが飛んでくる。

 木々をなぎ倒し、地面を抉り、蒸発させ……それでも出力は以前『評価試験』で受けたものの半分にも満たず、つまりは【防壁グランツァ】の多重顕現で防ぎきることは可能なのだが、いかんせんタイミングと体勢が悪かった。


 すわ爆発炎上か、と身構えたおれの目の前に……おれのものではない防壁が、何の前触れもなく姿を現す。


 破壊力を犠牲に速射性に割り振られた『龍』の魔力砲ブレスは防壁に阻まれ、放射状に散らされ周囲に破壊をばら撒くものの……おれたちに一切被害を生じさせることは無かった。




「…………命拾いしたわ。ありがとう騎士おれ


「調子乗るのも程々にな? 魔法使いおれ


「ウッス…………」



 その表情を窺うことが出来ないまでも間違いなく苦笑を浮かべているであろう、朽羅くちらちゃんの側に控える騎士おれ……おれの思考パターンを熟知しきっている彼女の防御魔法【対砲城塞バスティオン】によって、辛くも爆発炎上を免れた魔法使いおれ

 黒こげアフロな若芽わかめちゃんなんて見たくなかったので、これは手放しで称賛すべき。本当に騎士おれを召喚しておいてよかった。




「……っていうか! 騎士おれも手ぇ貸せし! 出来るだろおれ知ってんだからな!」


「あーバレたか。まぁ元々おれだもんなぁ……しゃーない。じゃーまぁ」



 騎士おれにも『朽羅くちらちゃんの護衛』という最優先任務があるが、それをこなしながらでも参戦が可能だということは、創造主であるおれがよーく知っている。

 そんな相手に隠し通すことは不可能だと諦めたのだろうか、騎士おれは(顔は見えないが)苦笑混じりの声色で『諦め』を滲ませると……左腕に携えた長銃槍ブラストランスを構え、地に根を張った塔盾タワーシールドの砲郭に据える。



「んじゃあ……『龍』引き受けるわ。代わりに『獣』は頼むぞ、すばしっこいの苦手だし」


「オッケー頼んだ。『獣』狩りは任せろ」


「任せるけど……山火事なんとかしろよ? 魔法使いおれ


「アッ、…………ッス」



 魔力砲ブレス放射後の放熱を終え、次なる攻撃に移るべく体勢を解く『龍』。……そいつの相手を騎士おれに任せ、魔法使いおれは再び『獣』の群れに立ち向かう。

 じわじわと周囲に燃え広がる炎によって自慢の運動能力を封じられた『獣』だが、しかしそうはいってもまだ二桁数は健在なのだ。炎の切れ目だってあちこちにあり、まだまだ油断するわけにはいかない。


 同じ失敗を二度は繰り返さない。【探知】魔法を張り巡らせ、残る『獣』の位置を把握。

 じっくりと、それでいて迅速に狙いを定め、立て続けに【焼却ヴェルブラング】を投射。炎に巻かれ動きを止めた端から霊象弓ショートボウで磔にし、丁寧にトドメを刺していく。



 並列思考の一部を分割・独立させたせいで、いつもよりかはリソースが減っている自覚はある。すてらちゃんから正体を隠蔽するための各種魔法も並列展開中なので、そのあたりの潜在的な負荷が先程の『うっかり』の原因なのだろう。


 しかし、あらかじめその短所を把握できているのならば、充分にやりようはある。分身体オルターエゴにタスクを割り振ったおかげで魔法使いおれの負担も減ったわけで……この程度の難易度ならば、丁寧に処理していけば問題ない。

 常に【探知】を発動し、おれの担当である『獣』以外にも騎士おれ勇者ラニの戦況を把握、周囲を適度に延焼・消火させて有利な狩場を作り出しつつ、ほか二つの戦場に適宜援護射撃を叩き込んでいく。



 まぁ、実際のところ……ここが【隔世カクリヨ】の結界内で助かった。現世であったら軽率に火を放つこともできなかっただろうし、『龍』の放つ魔力砲ブレスの処理にも細心の注意を払わなければならなかっただろう。



 魔法使いおれ担当の戦場は間もなく王手を掛けるとはいえ、まだすべてが片付いたわけじゃないのだが。




 おれ……この戦いが終わったら、この【隔世カクリヨ】を張ってくれた術者にお礼するんだ。


 神使の方の喜ぶものとかわかんないけど……たぶん御神酒とかなら、迷惑がられることもないだろう。

 ヨミさまにももう一度お話と、あらためてお力添えのお願いをさせていただきたいし……アラマツリさんと朽羅くちらちゃん以外の神々見カガミの方々にも、ちゃんとご挨拶しておきたいし。


 そのためにもまずは、目の前の障害を突破しないと。





 このときのおれは…………あんな大変なことが起こっていたなんて、当然これっぽっちも知るよしもなく。


 能天気にも、こんなに場違いなことを考えていたのだった。



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