第397話 【騒動鎮火】ターニングポイント
さすがに、あんな世界を揺るがす大事件が起きた直後とあっては……おれみたいな破天荒な小娘に時間を掛けようだなんて報道関係者は、そうそう多くなかったようだ。
お集まりの皆さんも、つい先程まで目の前で繰り広げられていた光景――署内になだれ込んできた赤黒いゾンビのような植物塊や、窓の外に散在していた不格好な人形や、それらが忽然と姿を消す様子や、近付くだけで意識を失う謎の美少女の宣戦布告――を目にしてしまっては、正直『心ここにあらず』といった様相なのだろう。
非常にあたりさわりのない、むしろ『早く帰りたい』といった本音が見え隠れしそうな空気の中で、非常に無難に『一日署長』記者会見は幕を閉じた。
おれが控え室に引き下がり、そう短くない時間の後。……ついに『正義の魔法使い』ご一行様が、極秘任務から帰還した。
正直心配していたので、全員の無事にほっと胸を撫で下ろしたのだが……今回の『保持者』の詳細を聞かされ、おれの顔が一気に引きつるのがよくわかった。
おれこと『
それに加えて、明らかに何か企てていた様子の【睡眠欲】の使徒。……恐らくは、彼女が直接
時系列的にも納得できそうだし、年齢が近しい美少女ならば接近することも容易いに違いない。
つまり、あの子……【
ポスターコンクールの受賞者六人組に『苗』を植え付けて支配下に置き、『葉』を大量に生成させて警察署を包囲・侵攻させ、盛大に場を混乱させたところで会見場へ姿を現し、顕現した非日常を突きつけて宣戦布告を行った……ということか。
……あんなに『働きたくない』オーラを出しておきながら……めちゃくちゃ働くじゃん、お姉ちゃん。
「『保持者』の子らは、全員命に別状は……いや、目立った外傷も特に無い。鎮静魔法も掛けておいたし、じき目覚めるだろう」
「ありがと。ミルさんも、ありがとうございます。まさか六人同時とは……」
「それもですが……やっぱ小さな子が相手だと、やり難いですね。どうしても躊躇ってしまう」
「あぁ…………ごめんなさい、大変な役押し付けちゃって」
「いえいえ。……力になるって決めましたから」
あの混迷に満ちた記者会見の場を、おれたちは『正義の魔法使いによって化物が駆除された』
加えて、その間おれはずっと会議室にカンヅメだった。途中からは
あの場に居合わせた報道関係者、ならびにおまわりさんたち(まぁこちらは半ば共犯者である)が、『おれ=正義の魔法使い
ミルさんが力になると言ってくれて、おれと一緒に戦うための鍛練を積んでくれて、おれの代わりを務めてくれて……そのおかげで、おれはアリバイを作ることができた。
メディアの注目も(多少は)逸れるだろうし……今後も動きやすくなることだろう。
おれたちに多大な恩恵をもたらした、純白の天使のような美少女(※ただしおまたに物騒なものがついている)は……こともなげに『気にするな』と言ってのけて、また今後も変わらぬ協力を申し出てくれた。
こんなに心強いことはない。
「……のう、家主殿、家主殿。我輩も敵を二体引き付けたぞ。あと【
「ンッフフフ。……そうだね。頑張ってたよ、ナツメちゃん」
「いやもう働きももちろんなんだけど言動がめっちゃ可愛いんですが! 袖クイクイしてきましたよこの子!!」
「いやぁー……本当この
このまま存分に労ってあげたいのは山々なのだが……指向性を持たせた遮音結界が、入り口扉がノックされたことを伝える。
慌ててラニに【門】を開いてもらい、ミルさんと
あとは……こっち。
先刻の【魔王】使徒による宣言を受けての、わが国の今後の方針を決める非常に大事な会議……その結果を聞かせてもらう。
「結論からになるが……我々とて『はいそうですか』と侵攻を受け入れるつもりは無い」
「とはいっても……実際のところ、何も出来なかったんだろう?」
「……痛いところを突かれますが、我々とて無策という訳ではありません」
「…………と、いいますと?」
署長室の隣の応接室に集まった、おれとモリアキとラニと、あと
今回の襲撃事件ならびに宣戦布告を受け、警察組織としてはどういうスタンスを取るつもりなのか。
ここからは『一日署長』ではなく、『例外的獣害』対策として契約を交わした特定業者である我々へ向けて、治安維持を司る国家権力の構成員は……驚くべき秘策を告げる。
「……実は、若芽様達が行使するような神秘の術……それに類する力を込められた護身具の開発に、成功したという企業がありまして」
「ふぁ!?」
「え、ちょ、それって……まさか、」
「……なんでも……生物化学メーカーが抽出に成功した特殊試料に、以前若芽さんに提供して頂いた『特例的外来生物』のサンプルを溶解する効力が見られたようで」
「…………メイルスの眷属の体組織を、破壊……それって」
「も、もしかして……もしかして! ラニ!」
民間企業によってもたらされたという、あの『葉』の体組織を破壊する力を秘める特殊試料。
その性質を備えた武器があれば、おれたちのような『魔力持ち』でなくとも――『保持者』の『苗』をブッコ抜くことこそ不可能ながらも――ゾンビのように徘徊する『葉』を駆除することは、充分に期待できる。
そして、それは。
組織に魔力回路を秘めた生体構造に、強力な侵食力を発揮するという……その試料とは。
おれたちが探し求めていた『この世界由来の魔力素材』である可能性が、非常に高い。
「署長、すみません。わたしたちのために確保する、って言ってくれていた、例の獣害対策予算なのですが……」
「…………そちらから申し出て戴けるとは思いませんでしたが……良いのですか? 幾らか削らせて戴く形になるかと思いますが」
「ええ。例の化学メーカーさんに回したほうが、色々と有意義に使ってくれそうですし」
「……承知しました。それでは……若芽様には
「………………???」
「御心配なく。本来若芽さん方に支払われる筈だった駆除費用の、謂わば『残額』……そこに相当する額を、ヒノモト建設へと回すよう申し伝えましょう」
「……つまり、もともとショチョーさんは満額支払うつもりだった。でもノワが値切って、ほんの一部しか受け取らなかった。そのせいで行く宛がなかった駆除費を、研究に使ってくれる……ってこと? いい感じに収まったんじゃない?」
「………………おぉーー!!」
ただの人間でも【魔王】の手勢……雑兵である『葉』に抗うことができるかもしれない。
この世界で魔力素材を手に入れる見込みが得られたのなら、色々な道具が試作できるかもしれない。
そして……白目剥かなくて済む範囲の金額で、割のいい『副業』報酬が得られる見込み。
それらの『うれしいこと』ばかりに目を向けすぎて……おれたちは重大な事項を見落としていたことに、気付くことが出来なかった。
件の特殊試料の抽出に成功した生物化学メーカー、『ヒノモト建設』。
生物化学らしからぬ社名を持つそのメーカーの、来歴や役員や会社概要等々。
ただスマホで会社ホームページやウェブ百科事典を眺めるだけでも、考えを改める情報は手に入っただろうに。
喜びに浮かれ、盲目的になってしまっていたおれたちは……強いて言えば、このときに判断を誤ったのだろう。
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